“Hi, this is Matt”
あるワークショップに参加していた。
ワークショップに参加するのはこれで2回目。
こういうイベント事に参加したのは海外就職に繋がるという話を聞いたからである。
しかし困ったことがあった。
私は圧倒的にシャイである。
シャイな上に見知らぬ人に英語で話しかけるなど私には到底できなかった。
こういうところで、どんどん前に出ていける人が海外就職に成功するんだろうなとぼんやり考えていた。自分の情けなさに悲しくもなった。
そんな時、隣にいた30代後半くらいの男性が私に声をかけてきた。
“You know what they are talking about?”
その日のワークショップのテーマは「ローカルビジネスのデジタルマーケティングの活用」
英語を完全に理解していなくても、スライドを見ているだけで何を言っているかはある程度察しがついた。正直ネットで引っ張ってきたような表面的なプレゼンテーションだと思っていた。
“Yes.”
私は隣の男性の質問に応えた。
デジタルマーケティングの経験があるので普段の会話を聞くより、こっちの方が簡単に理解できると伝えた。
そもそも、ワークショップに参加したのは別にこのプレゼンテーションに興味があったわけではなかった。
むしろこのワークショップの参加者、つまりデジタルマーケティングを活用したいと考えている人と繋がりたかったのである。
ワークショップが終わって、この隣の男性と連絡先を交換し後日会おうという話になった。
狙い通りにうまくいったことに私は喜んだ。
しかし、その男性と再会した時に私の思惑は外れたことに気づかされた。
「私の夢は何か」「成し遂げたい目標は何か」「お金が潤沢にあって仕事をしなくて良いとしたら何をするか?」など私の個人的な話を色々と聞かれた。
彼はいわゆるMentoringとかCoachingとかいう類の売り込みだったのである。
なんのことはない、彼もデジタルマーケティングのワークショップに興味があって参加したわけではなく、私のような自信の無さそうな若者を捕まえるためにイベントに参加したのだ。
後で知ったことだが、バンクーバーには地味にこういう人が多い。
ある日、街を歩いていた時に「カバンのチャックが空いているよ」と親切に教えてくれた人がいた。素直に「教えてくれてありがとう」と伝えると、いきなり「これも何かの縁だから・・・」ということでMentoringの売込みをされたこともあった。
Mentoringは売込むものではなく、必要であればこちらからお願いするものである。
その辺で知り合った人にMentorになってくれとはまずならない。
私はヘラヘラしながらその場をごまかして早々に切り上げて帰ったのだった。
実はワークショップでの苦い思い出はこれだけではない。
なかなか就職先が決まらず資金はすでに底を尽きていた時の話である。
当時、就職が無理ならフリーランスで日銭を稼ごうと考えていた。
もし英語の案件を貰えれば、資金難の解消と経験を積むことが同時にできる。
まさに一石二鳥だと考えた。
そこで、別のワークショップで知り合った人にメールを打つ事にした。
デジタルマーケティングのサポートができるので、もし興味があれば一度会って詳細お話できませんか?と尋ねてみた。
先方はこれを快諾。彼女の自宅を訪ねる事になった。
バンクーバーの都心からバスを乗り継ぎ、2時間ほど行ったところにその家はあった。
彼女は70歳くらいの感じの良いおばあさん。オーガニックの化粧品を販売しており、Webサイトを通じて販売件数を伸ばしたいとのことだった。
まとめていった提案書をもとに彼女にプレゼンテーションを行った。
伝えたいことがうまく伝えることができず、意思疎通に苦労したが、なんとかやり遂げることができた。
結果、彼女はその場で即決。一緒にやりましょうということになった。
私は帰り際、ガッツポーズをした。
首の皮1枚繋がったと思い、ホッとした。
しかし1週間後、事態は急変する。
彼女から届いたメールをみた時、何を言っているのか理解できなかった。
彼女からのメールの趣旨は以下の通りである
– 彼女の旦那と相談したら、そこまで予算をかけるべきでないという話になった
– コンサルタントとしてではなく、Distributor (販売員)として参加してみてはどうか?
そう、彼女のビジネスモデルはなんとMLM (Multi Level Marketing)、いわゆるネズミ講だったのである。
私は愕然とした。
「これも失敗だったか」
そう思い、フリーランス路線を諦めることにした。
幸いにも、この時まだ学生ビザを使用していた。
はやとちりして、ワーキングホリデービザに切り替えずにいたのは不幸中の幸いだったといえる。
よくイベントに積極的に参加することで就職につながるという話がある。
しかし私のようにうまくいかないケースもある。個人的には無理にイベント参加にこだわる必要はないと思う。
(つづく)
今回は海外就職のためのワークショップ参加の話をご紹介しました。
ワークショップに参加する人は本当に様々で、今回の記事でご紹介したようなMLMの勧誘目的の人、自身のコンサルティング・メンタリング・コーチングサービスを売り込むために参加している人もいます。
私のケースでいうと、今回紹介した2名とも向こうから声をかけてきました。声をかけてくる人はそういう人である可能性が高いのかもしれません。
ではワークショップへの参加は無意味かというと、もちろんそういうわけではありません。
以前インタビューした方によると、ワークショップに参加して自分を売り込む、コミュニケーションの練習に利用して、それが最終的に面接の時に活きたという話もありました。
要はワークショップも使いようで、期待値を上げすぎず就職に繋がれば儲けものくらいのスタンスで臨むのが良いと思います。
[その他のストーリー]
– 第0話: カナダのマーケター海外就職ストーリー
– 第1話: カナダ渡航と立ちはだかる壁
– 第2話: 目標額170万円、地獄のフリーランス体験
– 第3話: カナダ渡航1ヶ月前、英語学習の開始と思わぬ見落とし
– 第4話: カナダ到着。不安だらけの1日
– 第5話: 学校生活初日。長い4ヶ月の始まり。
– 第6話: 26歳の実践日常英語学習法 [海外ドラマ活用]
– 第7話: 学校生活、苛立ち、次なるステップ
– 第8話: ホームステイからの脱出、ルームシェアと恐怖の夜
– 第9話: ボランティア活動への挑戦、意気込みと現実
– 第11話: 就職活動、図書館、不安と希望の光
– 第12話: 折れそうな気持ち、迷走、出した結論
– 第13話: 面接と “We’ll be In touch!”の先にあるもの
– 第14話: 入社早々、炎上プロジェクト、意思表示
– 第15話: 英語ブログ開始、そのわけ
– 第16話: バンクーバー、納期、It should be fine.
– 第17話: 辞めていく同僚、身の丈にあった給料