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ニューヨークのヴィーガン市場と日本でのヴィーガンビジネスの可能性

ニューヨークのヴィーガン市場と日本でのヴィーガンビジネスの可能性

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アメリカを代表する食べ物と聞いて誰もが思い浮かべるのは、ハンバーガーやステーキかもしれません。

肉食の人が多いイメージでいながら、アメリカの代替肉の消費は世界平均をはるかに上回っています。世界最大の代替肉の会社として知られるBeyond Meat(以下、ビヨンド・ミート)やImpossible Foods(以下、インポッシブル・フーズ)を始め、ヴィーガンフード市場に参入する会社は後を絶たず、近年はスーパーマーケットでもこうした商品を多く見かけるようになりました。

完全ヴィーガンの人口は横ばいかもしれないと言われる一方で、拡大を続けるヴィーガン市場。つまり、ヴィーガンではないものの日常的にヴィーガン食を楽しむフレキシタリアンと呼ばれる人たちが以前より増えているのです。

何が人々をヴィーガン食へと後押ししているのでしょうか。ニューヨークのヴィーガン事情を紐解くと同時に、日本でのヴィーガンビジネスの可能性についても考えてみました。


ニューヨークではファーマーズマーケットでもヴィーガン料理を提供しているお店を目にする。

 

ヴィーガンとは

日本ではヴィーガンとベジタリアン合わせて人口の5%と言われるほどにまだまだその市場は未成熟です。
ヴィーガンやベジタリアンへの理解もまだ広まっていないのが現実かもしれません。ヴィーガンやベジタリアンはどのような人たちのことを指すのでしょうか。

ベジタリアンは、広義では、肉や魚を口にしない人たちの総称です。ヴィーガンは、肉や魚に加えて、卵や牛乳など動物性食品を食べない完全菜食主義者です。ヴィーガンの中には、食べ物に限らず、ファーなど動物に由来した商品や動物性油脂を含む石鹸やろうそく、動物由来の原料を使った化粧品に限らず、動物実験を行っているものまで使用しないなど、ライフスタイル全般にその考えを取り入れている人たちもいます。

一方で、ヴィーガンやベジタリアンのように厳格でないフレキシタリアンという人たち。フレキシブルとベジタリアンの造語で、柔軟な食生活を楽しむ人たちのことを指し、野菜中心の生活だけれども肉を食べることを完全に否定しない人はこのように呼ばれています。

広い世界を見渡すと、多様な食生活の人たちがいて、人種のるつぼと言われるニューヨークで暮らしていると、そうした場面に接するのも日常的な毎日です。

 

ヴィーガンを支持する3つの理由

人々がヴィーガンやベジタリアンになる理由は様々ですが、世界的に見ると、ベジタリアンに関しては、宗教上の理由によるものが大きいと言えそうです。国別の人口比で見ると、全人口の20%以上がベジタリアンであるインドが最大です。

私自身、インドからの研修生とアメリカの田舎の出張先で仕事を一緒にした際に、彼らがベジタリアンだったので、ランチやディナーの選択肢が少なくて困ったことを思い出しました。

では、ヴィーガンの人たちは、どのようなきっかけでヴィーガンとなったのでしょうか。主な理由としては、動物愛護のためだったり、環境問題への高い意識からだったり、また、自身の健康のため、と言われています。

それでは、一つずつ見てみましょう。

1. 動物愛護

人々をヴィーガンへと駆り立てる一番の理由は、動物愛護によるものです。

アメリカ合衆国のように工場での大規模な酪農が主流の国では、動物たちは悲惨な扱いを受けることも多いものの、そうした工場を人里離れた場所に建設することで、人の目に触れられないようになっていることも事実です。しかし、近年こうした工場の実態が明らかになるにつれて、動物愛護の観点から自らがヴィーガンとなる道を選ぶ人が増えているのです。

また、こうした人たちの中は、害を与えることは一切許容しない、という強い信念を持った人もいて、そうしたエシカルな人たちは、労働搾取や児童労働により生産された商品も避けています。

2. 環境への影響

大規模な酪農は環境への悪影響も指摘されています。

森林を破壊しての牧草地の造営や動物たちの飼料の製造は温室効果ガスの発生を助長し、大量の排泄物の処理に必要な多くの水は水質汚染の原因にもなっています。また、牛のげっぷにはメタンが多く含まれています。メタンの温室効果は二酸化炭素の25倍もあると言われています。動物性由来のたんぱく質から植物性由来のたんぱく質へと切り替えることで、環境への悪影響を大きく軽減できるのです。

こうしたことから、環境問題への意識が高い人たちの中にもヴィーガンの道を選ぶ人たちが出てきています。

ヴィーガンやベジタリアンの多いベルギー発のオーガニックで植物性由来の原料のみを利用したカフェスタイルのレストラン、Le Botanisteは、2015年にベルギーで1号店を出した後、ニューヨークに進出。現在ではマンハッタンに4つの店舗を構えています。19世紀の薬局をイメージした店舗が特徴的。カーボンニュートラル(二酸化炭素の排出量と吸収量を均衡とすること)を目指したお店は、多くのニューヨーカーたちでにぎわっています。


ニューヨークのプラントベースの代替肉を使用した料理のみを提供するレストラン Le Botanisteの店内の様子。

3. 健康上の理由

ヴィーガンになる理由として最後に挙げられるのは、健康上の理由によるものです。

長寿で健康的な生活を送るために、ヴィーガン食への注目が集まっているのです。また、ヴィーガン食は減量の一助にもなることが知られてきたため、こうした点からヴィーガン食へ興味を持つ人もいます。

食生活への概念は日々の生活環境によって形作られ、日本では栄養バランスが摂れた食生活の必要性は一般常識のように捉えられています。しかし、ニューヨークで暮らし始めてから、日本で誰もが当たり前と思っている食生活の基本的な考え方は、海外の人たちの間では意外にも知られていないことを実感しました。

こうして見てみると、社会問題への意識がより高い人たちがヴィーガンという生き方を選んでいることが分かります。
 

ヴィーガンビジネスの代表例

スーパーマーケットでも多くのヴィーガン食品を見かけるようになり、ますます身近になっているヴィーガンフード。実際にどのような商品があるのでしょうか。

植物由来の人工肉の大手は、前述したビヨンド・ミートとインポッシブル・フーズ。前者は2009年、後者は2011年に創業。どちらもカリフォルニア州を本拠地とする会社です。人工肉の製造開発を手掛けていることから、食品テクノロジー企業とも呼ばれています。

ビヨンド・ミートは2013年から全米の大手スーパーマーケット、ホールフーズで販売を開始し、インポッシブル・フーズは、2019年からアメリカのバーガーキングのメニューになっているインポッシブル・ワッパーに代替肉を提供しています。両社ともに、アメリカ人にとって馴染みのあるハンバーガーのパテを、あたかも本物の肉さながらの見た目と味を保ちながら代替肉で作ることに成功し、そこから需要を大きく拡大し、商品のラインナップもミートボールやソーセージなどへと拡大しています。

また、この2社の躍進は、植物性由来の鶏肉やシーフード、ベーコンなど、様々な種類の商品を開発する企業が生まれるきっかけとなりました。

ただ、インポッシブル・ワッパーは、マヨネーズが入っていることからヴィーガン向けバーガーではないことが分かりました。また、パテが通常の肉と同じボイラーで調理されていることが指摘され、ヴィーガンやベジタリアンの人たちの間で物議を醸しました。ビジネスの現場では、細かい点まで詳細に詰めていかないとターゲット層からの信頼を失ってしまいかねないことに注意が必要です。

ヴィーガンミルクもアメリカでは知名度が高まりつつあり、通常の牛乳の需要減少へと繋がっています。
植物性の牛乳はアーモンドなどのナッツから作られることが多いですが、オート麦から作られた商品もあります。スウェーデン発のOatly(以下、オートリー)がその代表格。今では大手スーパーマーケットやカフェでもオートリーのポップなパッケージを見かけます。


オートリーのウェブサイト。ポップで遊び心のあるデザインが特徴的
 

植物性の卵で有名なのは、カリフォルニアを拠点とするJUST(以下、ジャスト)。アメリカのスーパーで、飲み物のような黄色のペットボトルのパッケージを見かけたことがある人もいるかもしれません。それが、ジャストがナッツを主原料に作る植物性の卵です。

その他、植物性アイスクリームブランド市場の動向も見逃せません。前述したオートリーを始め、ブルックリン発で今や全米主要都市にも店舗を増やして急成長しているVan Leeuwenなど、多くのブランドが多様なヴィーガンアイスクリームの商品を世に送り出しています。


JUSTのウェブサイト。ナッツが主原料の植物性卵を提供


ブルックリン発の植物性アイスクリームブランドのVan Leeuwen。EC機能もありアメリカ全土に配達している

アメリカを代表するアイスクリームブランドのBen & Jerry’s(ベン・アンド・ジェリーズ)は2020年にかつてアメリカンフットボールのスター選手であったコリン・キャパニック氏をパッケージに起用したヴィーガンアイスクリームを発売しました。キャパニック氏は黒人差別に端を発した事件への抗議として2016年にアメリカンフットボールの試合前の国家斉唱で起立を拒否した行動で大きな物議を巻き起こし、それが引き金で所属チームを失い、現在は公民権活動家となっています。また、ヴィーガンでもあります。ベン・アンド・ジェリーは、正義や平等のために声を上げたキャパニック氏の行動に賛同してヴィーガンアイスクリームの商品での広告塔へと採用したそうです。

全米の他都市と比べてヴィーガン人口が多いニューヨークでは、レストランやカフェでヴィーガンメニューに特別な印をつけて一目で分かるようにしてくれています。私はニューヨークへ渡ってから間もなく13年。渡米間もない頃と比べると、ヴィーガン食はより身近になっていることを感じます。

また、コラーゲンやはちみつ、蜜蝋など、動物由来の原料を一切使わない化粧品ブランドも時代の流れとともに生まれていて、セフォラのような大手化粧品店で手軽に買えるような商品も多くあります。


セフォラのECサイトにはヴィーガンスキンケア商品ヴィーガン化粧品のページも存在する

 
このように、商品のラインナップがどんどん増えているアメリカのヴィーガン市場。

前述したように、通常の生活とヴィーガン生活の組み合わせを選ぶ人たちも少しずつ増えてきている一方で、特に生活スタイルを変えることに興味がない人たちが一定数いることも事実です。感度が高い人が多く住むことで知られるブルックリンのパークスロープ在住のアメリカ人男性は、ヴィーガン市場の広がりは、人々に選択の機会を与えると同時に、そうした商品へアクセスしやすい状況となって素晴らしいと感じています。その一方で、特にパンデミックのショックを経験した今のような状況下で、自身の日々の生活スタイルを大きく変えたいとは思わないため、ヴィーガンの商品には興味がないそうです。
 

日本でのヴィーガンビジネスの可能性

文化や生活様式の異なる日本でのヴィーガンビジネスはどのような状況でしょうか。

国内最大級のヴィーガン・プラントベースのメディアオンラインセレクトショップ、Happy Quinoaを運営するReinventの代表取締役社長小野寺聡さんに話を聞いてみました。

ニューヨークで体感した持続可能なプラントベース生活を日本で分かりやすく伝えることを目的として3年前に起業した小野寺さん。創業時から、地球環境や動物に対して持続可能である(サステイナブルである)ことと同時に、人に対しても持続可能であることの大切さを感じながら事業経営を行なってきたそうです。「私たちの発信スタイルでもありますが、優しさや温かさを大切に、サステイナブルなライフスタイルを無理のない形で生活に取り入れていくことが大切。この点を前提とすると、人に強要するものではなく、ポジティブなチョイスであることを志向される方が増えていることは嬉しいことです。」とお話くださいました。
 
Happy Quinoaのオンラインショップは、毎週木曜日に新作が入荷。洋服や靴、スキンケア、小物、さらには食品まであらゆる分野の商品が並んでいます。その中には自社独自開発のプラントベースのカレーも。最近は特に、カナダ発のヴィーガンアパレル、MATT & NATのお財布が人気、と言います。

ニューヨークを拠点に生活する小野寺さんに日本でのヴィーガンビジネスでの留意点を聞いたところ、「様々な観点がありますが、ヴィーガンに関する事業=単純にプラントベースの食べ物を提供することではないということです。消費者の方に受け入れられるためには、一つの切り口だけでなく、総合的な深い理解が必要となると思います。」との答えをいただきました。

今後の日本でのヴィーガン事業の発展については、「影響力が大きい大手企業や政府がどれほど発展していくかが鍵と思います。私たちも、ご依頼から事業者様向け事業を1年前にはじめましたが、これらは業界の発展において意義あることと考えています。」とのことでした。
 

最後に

こうして見てみると、人々がヴィーガンのライフスタイルを選ぶきっかけは様々と言えますが、社会の発展と人々の意識の変化により、地球、動物、人に優しい社会へとの想いからヴィーガンという選択をする人たちが出てきているのが、近年の大きな特徴ではないかと思います。ニューヨークのような多様性ある都市では、ヴィーガンの商品を日常目にする機会も多く、ヴィーガンというライフスタイルがより身近になってきているように感じます。週に一度、プラントベースの食事を摂ることを推奨するMeat Free Mondayという動きもありますが、個々人が、持続可能なライフスタイルを考え、無理のない形でそうした生き方を実践できる社会がさらに広がっていったらよいな、と思いました。

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