ホームステイ先に向かうバスの中、改めて自分が外国に来たのだと実感した。
バスのアナウンスはもちろん英語、何を言っているのかさっぱりわからない。
Google Mapを見ながら、自分が目的地に近づいていくのを何度も確認する。
「Is it *** to *****?」
突然、誰かに話しかけられた。
何を言っているかはわからない。
ただ、なんとなく道を聞いていることはわかった。
カナダ初日の私がこのバスがどこに止まって、どこに向かっているかなどわかるはずがない。この手の質問は大体わからない人に声がかかる、なぜ重たいキャリーバッグを押している私に声をかけたのか。
「I don’t know. I’m new.」
英会話スクールで習ったフレーズが早速生きた瞬間であった。
道を聞いてきたその青年は呆れたような顔をして無言で立ち去った。
何か変なことを言ったのか疑心暗鬼になりかけたが、それどころではない。
あたりは真っ暗、夜中の9時頃、目的地に着くのがなによりも重要だ。
ホストファミリーが最寄りのバス停まで迎えに来てくれることになっているが、顔も知らない、英語で話しかけられても上手く返答できる自信もない。
また、どこのバスもそうだが、バスを停めるには目的のバス停に着く前に知らせなければならない。本来であれば、アナウンスを聞くか、ディスプレイに表示されている駅名を見て判断する。しかしアナウンスはわからない、ディスプレイは表示されないことがほとんどで、普段乗っている人しかわからない仕組みになっている。正直、世のバスのシステムを呪った。
26歳にもなって、こんなことにいちいち不安になっている自分に嫌気がさした。
そんなことを考えているうちにバスは目的地付近につき、無事最寄りのバス停で降りることができた。
あたりには誰も人がいない。しかも電灯が少ないせいで薄暗い。しかし周りの空気は異常に澄んでいた。
とりあえずタバコに火をつけた。
空港で買った一番安い、しかし$10もするタバコである。
これがおそろしくまずい、その上パッケージには歯がボロボロの女性がドヤ顔を決めていた。
カナダでは建物の近くでなければ、どこでタバコを吸ってもok。そう空港の警備員に聞いていたので悪ぶれもなくタバコを思いっきり吸った。
タバコを吸い終わっても、ホストファミリーは出てこない。
意を決して、あたりを散策することにした。
Google Mapを見ながら、ホストファミリーの家を探した。
しかしGoogle Mapが指す場所には大量の家が横並びになっており、どの家がホストファミリーの家か特定できなかった。
一旦バス停に戻ることにした。
「Akihiro?」
ホストファザーが私を見つけて声をかけてくれた。
人の良さそうなフィリピン系のおじさんだった。
おじさんに連れられて家に入ると、大勢の家族・親戚一同が集まりパーティが開かれていた。一瞬、わざわざ私を歓迎するために集まってくれたのかと思った。
もちろんそんなことはなく、ホストファミリーの息子のバースデイパーティがたまたま私の到着日に開かれていただけだった。
長旅で疲れた私は軽く挨拶だけ済ませて、そそくさと自分の部屋に入った。
「2日後から、学校か・・・。」
学校に通うのは4年ぶり。しかも英語で授業を受けるなんて人生初の試みである。ランゲージエクスチェンジ中にSkypeをぶつ切りしたインド人の顔が脳裏に浮かんだ・・・。
そもそも学校に迷わず到着できるだろうか・・・。学校でイカつい白人にボコボコにしばき上げられたりしないだろうか・・・。そんなよくわからない妄想をしながら荷物を整理し、ベッドに入るとすぐに眠ってしまった。
幸い物理的に白人にボコボコにされることはなかったが、それとは違った意味でしばきあげられることになるのであった。
(つづく)
[その他のストーリー]
– 第0話: カナダのマーケター海外就職ストーリー
– 第1話: カナダ渡航と立ちはだかる壁
– 第2話: 目標額170万円、地獄のフリーランス体験
– 第3話: カナダ渡航1ヶ月前、英語学習の開始と思わぬ見落とし
– 第5話: 学校生活初日。長い4ヶ月の始まり。
– 第6話: 26歳の実践日常英語学習法 [海外ドラマ活用]
– 第7話: 学校生活、苛立ち、次なるステップ
– 第8話: ホームステイからの脱出、ルームシェアと恐怖の夜
– 第9話: ボランティア活動への挑戦、意気込みと現実
– 第10話: ワークショップへの参加、資金不足、フリーランスへの道
– 第11話: 就職活動、図書館、不安と希望の光
– 第12話: 折れそうな気持ち、迷走、出した結論
– 第13話: 面接と “We’ll be In touch!”の先にあるもの
– 第14話: 入社早々、炎上プロジェクト、意思表示
– 第15話: 英語ブログ開始、そのわけ
– 第16話: バンクーバー、納期、It should be fine.
– 第17話: 辞めていく同僚、身の丈にあった給料