Touch-Baseの5人目のインタビュウィーは、ニューヨークのリクルーティング会社で活躍されている松田さんです。松田さんは大手広告代理店にて8年仕事をした後、ニューヨークで5年ほど仕事をされています。またアメリカ人の一般家庭での日本食普及を目指してUMAMI INSIDERを立ち上げられました。その話を詳しく伺いたいと思います。
※最新のUmami Insiderの活動については以下の記事をご参照ください。

Matsuda Sohei: 日本の広告代理店に新卒入社後、営業やプランナーとしてファッション系クライアントなどを担当。8年間勤務した後に渡米。NYにあるリクルーティング関連企業に就職し、Director in Business Development, Marketing & Salesとしてアメリカ国内の企業へのビジネス全般を担う。その一方で、米国一般家庭での日本食普及を目的とするスタートアップ事業「UMAMI INSIDER」を社内で立ち上げ。
野村:
本日は宜しくお願いします。
松田さん:
宜しくお願いします。
野村:
とても珍しいキャリアを歩まれていますね。
大手広告代理店で8年間勤められた後、NYに飛ぶ決意をした背景と、今の会社に就職した背景を教えてください。
松田さん:
はい、いつも変わっていると言われます(笑)。
30歳の節目でとりあえず海外と広告ではない新たな領域にチャレンジしたかったんですね。
当時は尊敬できる先輩同期後輩、トップレベルの協力会社さんや毎日ドキドキする課題を与えてくれるクライアントと一緒に仕事ができて、とても環境に恵まれていたと思います。そのまま辞めずにいても、めちゃめちゃ充実したキャリアだったんじゃないかなぁと今でも思います。
ただ、贅沢は100も承知でしたが、この先も恵まれた環境でチャンレンジし続けれると思えたことに少し違和感を感じ、それがどうも引っかかっていたんです。
もともと50カ国以上一人旅するほど、新しい環境に飛び込むのが好きでした。仕事面でも知らない世界にゼロから飛び込める環境を渇望していました。もう一度違う人生を生きるなら今しかない、今だめなら諦めようって思っていました。
そんな中、たまたま今のリクルーティング会社をみつけてニューヨークのセールスポジションに応募。今のボスが連絡をくれました。
応募したとき、実はそのポジションや業務内容に興味があったわけではありませんでした。
ボスの人柄と、成熟した市場の中で次の手を打つ必要に迫られている状況に興味がわいて、この会社で働きたいと思いました。
その後ボスが出張で日本に来るということで、面会してビザ申請がうまくいけばという条件でオファーをもらいました。
野村:
なるほど。僕もカナダの就労ビザ(LMIA)のプロセスを経て、就労ビザを取得する大変さを実感しました。何より就労ビザのサポートは企業側の負担が多いので、なかなか簡単に出してくるものではありません。その前提で、松田さんのケースでは未経験の業界、しかも実際に働く前からいきなりビザのサポートが決まっていたという話ですが、一体どうやったんですか(笑)?
松田さん:
自分で言うのもアレですが、内定が決まった時はリクルーティング業界のノウハウもスキルもあったわけではないので、僕のマインドセットを気に入ってくれて採用になったんじゃないかなと思います。
背景として、アメリカに来ている多くの中国、韓国の留学生は、自分の国に帰っても良い仕事に就けるチャンスが多くないから、必死で残ろうと就職活動をします。一方で日本は質・量ともに比較的恵まれた雇用ベースが整っているので、アメリカで仕事を探そうとする日本人留学生は減少している傾向があるようです。。そもそもアメリカの大学で学位を取得する日本からの若い留学生自体が、この10年で約半減しています。
そんな中、日本でのキャリアをリセットしてアメリカにいきなり飛び込んでくるっていうのはなかった。おもしろい奴だと思ってもらったんじゃないかと思います。
野村:
すごいですね。
松田さん:
結局、スカイプ1回、面会1回で決まりました。ラッキーです。
野村:
想像の範囲を超えています・・・(笑)
目次
日本食レシピサイトUMAMI INSIDERが目指す世界
野村:
UMAMI INSIDERの話を詳しくお伺いしていきたいと思います。個人的に日本食のレシピに目をつけるというのはスゴく面白いと思っています。立ち上げの背景を教えてください。
松田さん:
ありがとうございます。
立ち上げの背景ですが、UMAMI INSIDERはもともと内田さんが中心に作った日本食テイスティングのミートアップの名前で、構想段階から僕や吉本さんもいっしょにやっていました。
宮崎県の焼酎組合と宮崎牛のコラボレーションというコンセプトにして、ニューヨークのレストランでイベントを行いました。そこでアンケートをとってフィードバックを貰ったりしていると、ニューヨーカーの日本食に対する好奇心がほんとに高くて、日本食はまだまだポテンシャルがある日本が誇る最強のコンテンツだと確信しました。それがUMAMI INSIDER立ち上げの発端です。
Webサイト自体はつい先日(2017/06)にオープンして、まだテストランの状態です。
コンテンツの方向性もまだまだ調整中ですが、日本食のクッキングビデオ、記事の配信、それとオフラインのイベントなどをやる予定です。
向こう一年は新規のユーザ獲得と、日本食クッキング好きのコミュニティを作っていくことにフォーカスしていこうと考えています。
Image: UMAMI INSIDER About Us
ビジネスの形としては、BtoB向けのスポンサードコンテンツでメーカーさんや食品関連企業、また日本の地方自治体や生産者のお手伝いをするのが一つ。
それと少し先になりますが、BtoCのSubscribeモデル。日系のスーパーに行かないと買えないようなものを、スーパーと連携してオンラインで買える仕組みを作りたいと思っています。それで例えばUMAMI INSIDERのビデオコンテンツと連動して、レシピで紹介したものをその場で買えるとおもしろいんじゃないかなって。
もしくはMonthly Subscribeのモデルで毎月、$xxx払ったら、毎月旬な日本食のパッケージが届くみたいなサービスなども検討したいなと思ってます。
野村:
今回のUMAMI INSIDER立ち上げの時に他の会社と少しもめ事があったと伺いました。
松田さん:
そうですね。揉め事というより、取得間際だったUMAMI INSIDERのトレードマークに対して、某米系大手メディアから強引な取り下げ要請が届き、それに対する対抗をしなければならなかったんです。その際に勉強になったのは優秀な弁護士は絶対必要だということ。
他にもメディアの場合「これを食べると健康に良い」という表現は気をつけないといけないのはもちろん、「これを食べるとおいしい」という表現でも、これはあくまで僕たちの意見というのを明示すべきであるなど、専門家のアドバイス無しではとても不安です。
野村:
「おいしい」なんてそもそも個人的な意見なので、わざわざ規定する必要もなさそうですが(笑)
松田さん:
そうなんです(笑)、ただアメリカだとホットコーヒーを熱い状態で飲んでやけどした、と訴えられたとか、とんでもないことで訴えられることがあったりするのでリスクヘッジや本業に集中するためにも何らかの形で弁護士は雇った方が無難だと思います。
野村:
今後、アメリカでメディア事業をやる方は必見ですね。
本物にこだわる食品メーカーと生産者に日が当たるように
野村:
UMAMI INSIDERが目指すゴールを教えてください。
松田さん:
日本食は家でも気軽に作れるものという考えを普及させることで、消費者の口も肥え興味レベルもあがり、より本物を求める流れにもっていきたいと考えています。そして究極的には、良いものを作る日本の食品メーカーや生産者さんがハッピーになればいいなと思います。
ニューヨークでは日本食のブームなんてとっくに過ぎていて、寿司やラーメンは当たり前、うどん、そば、たこ焼きから懐石料理まで幅広い日本食をレストランで当たり前に食べられる状態です。
ただ、アメリカの日本食レストランオーナーの8割は日本人じゃなくて、日本食ブームにのっかって中華料理からの転進とかも多くてフェイクもいっぱいあります。
野村:
それはバンクーバーでも同じですね。彼らはビジネスって割り切ってガツガツ攻めてきますね。
松田さん:
そうですね。そのへんをUMAMI INSIDERを通して、本物の魅力を現地の目線で伝えていきたいと考えています。
他にもインスタとかで賑わってる日本食も実は発信は日本人じゃないこともしょっちゅうあり、ビジネスチャンスを逸していてもったいないと思います。ちょっと前に流行った事例ですが、例えばRaindrop Cakeってご存知ですか?
野村:
いえ、聞いたことないですね。
松田さん:
日本の山梨の名物、水信玄餅というものなんです。
水信玄餅のビジュアルに魅了された中華系アメリカ人の方がこれは絶対売れると思ってニューヨークに持ち帰って、Raindrop Cakeという魅力的な商品名をつけてブルックリンのフリーマーケットで売り出し人気が出ました。
Image: Google Image Search – Raindrop Cake
この話を通して気付いたことは、割とAuthenticにやっている日本のビジネスは損していることも多いのかなと・・・何年間もかけて培った日本の良い物を海外の人にうまく利用されるだけではもったいないなと思います。
ニューヨークの日本食ビジネスのプラットフォームに
松田さん:
あとはニューヨークでの日本食ビジネスのプラットフォームのような存在にしたいと思っています。
ニューヨークの日系コミュニティは横で手をつながない、あまり協力し合わないという話があります。
知人から聞いたところ、同じアメリカでも特にベイエリアでは国ごとの戦いという雰囲気があって日本vs.インド、日本vs.韓国という世界らしいです。例えばシリコンバレーには日系のスタートアップを支援するSukiyakiという団体があり、日本のスタートアップがアメリカに進出するためのサポートをしているそうです。良い意味で日本人同士が手をつないで積極的なコラボレーションを生み出すコミュニティがあります。
ただ、ニューヨークはそこまでの大きな動きはほとんどありません。
実はニューヨークで色んな事をやってみたいと思っている若い人がたくさんいるんですが、それを皆でやろうよ!という流れになかなかならないんですよね。
そのためか、日本の商品やサービスのニューヨークへの進出が増える中、それをサポートするこちら側の受け皿が整備されているとはいえない。皆さん個々でやるしかない状態になっているように見受けます。
野村:
なるほど。
松田さん:
そこで「日本食」をキーワードにUMAMI INSIDERを作って、皆の本気をぶつけ合えるプラットフォームにしたかったんです。
今はWebサイトだけなので、できることは限られていますが、
今後はアメリカで家庭レベルでの日本食を普及させたいと思っている人を集めて、そこにコミットできるような環境作りをしたいなと思っています。なので、個人の方でも企業の方でも、日本人でもアメリカ人でも、色んな形でコラボレーションできれば最高です。
最後にひとこと!
野村:
最後にひとことお願いします!
松田さん:
これからさらに多くの外国人が日本を訪問すると思いますが、海外での日本食ブームともあいまって、ますます日本食は世界で注目を集めます。そしてこの波は海外のレストラン業界だけでなく、現地一般家庭のキッチンレベルまで広がることができるはずです。なんだか営業っぽくなってきたのでここまでにしますが(笑)、UMAMI INSIDERが微力でもその力になれれば嬉しいなと思います。
注釈: 画像の一番右が松田さん
まとめ
今回は松田さんにお話をお伺いしました。
UMAMI INSIDERの立ち上げの話を通して、どれだけニューヨークの日本食シーン、ひいてはニューヨークの日系のビジネスコミュニティを変えていきたいのかが伝わってきました。
フェイクの日本食(フュージョンとかではなく、ただ単に劣化バージョン)が蔓延している件についてはバンクーバーも同じで、長期的に見て日本食ブランドの価値を損ねているのではと心配になります。UMAMI INSIDERを通して日本食の普及、ひいては質にこだわる食品メーカーと生産者に日が当たるようになれば素晴らしいなと思います。