Touch-Baseの2人目のインタビュウィーは
ニューヨークのPR会社Hall PRでPRをされている吉本さんです!
> アメリカのマーケティングエージェンシーのリストはこちらをご確認ください。
今回のインタビュウィー吉本さんの簡単な略歴:
吉本妙子 (よしもとたえこ)
早稲田大学卒業後、2007年にPR会社ベクトルに入社。メディアプロモーターとして、TV・雑誌など幅広い媒体とリレーションを構築。その後、PRコンサルタントとして、国内外の大手クライアントのPR戦略立案~実行までを担う。キャンペーン立案や、記者発表会、調査リリースなどを組みあわせた、立体的な戦略立案を得意とする。
2011年には、部長に昇格。またフィリピン、オーストラリア、上海など海外でのPR活動も実施。
2015年に退職、渡米し、現在はニューヨークのローカルPR会社Hall PRで勤務。飲食・ホスピタリティ業を専門としたPR会社で、アメリカのメディアやビジネス慣習を学びながら、日本の経験を活かし、日本のクライアントを担当している。
野村:
本日は宜しくお願いします。
吉本さん:
宜しくお願いします。
野村:
早速ですが、日本では何をされていたんですか?
吉本さん:
Vector(ベクトル)という日本のPR会社で8年程PRをやっていました。
野村:
PRっていうと、どんなことをしていたんですか?
吉本さん:
クライアントさんの商品やサービスが、どうやったらニュースになって話題化するか、その戦略を練るところから、実施まで一連の活動を担当していました。話題になりそうなコンテンツを考えたり、メディアを招いてイベントを開いたり。もともとミーハーだったので、話題の仕掛け人になれたのは、とても楽しかったですね。
野村:
ありがとうございます。
日本で8年間働いたあとでニューヨーク行きを決意したのは大きな決断だったと思います。
その理由をお伺いしてもいいですか?
吉本さん:
正直なところ、もともとニューヨークが好きで、いつかアメリカで仕事をしたいというだけの憧れもありました。ニューヨークの5番街をスタバのコーヒーもって、ハイヒールでカツカツ歩きたい!みたいな(笑)
そんな漠然とした憧れしかなかったんですが、日本で働いていたある時、フィリピンでのプロジェクトを任していただく機会があり、それが大きなきっかけとなりました。
私の業務としては、クライアントさんの商品をフィリピンで話題にするため、現地のPR会社さんと協力しながら、戦略を練ったり、発表会を開いたりするものでした。ただ、PRという手法は、言葉だけでなく、その国のメディア事情や文化の違い、何が今流行っているのかなど、ネイティブの感覚がないとできない仕事なので、英語もたいして話せない私には、難しいのでは…と思っていたんですね。
でも、実際に経験してみると、もちろんPR施策を実施するのは現地のPR会社さんの力が大きかったのですが、日本のクライアントさんの橋渡し役として、現地の感覚と日本の感覚を両方持った日本人の重要性って、特にPRにおいて、実は大きいのではと感じました。
長く駐在している人は別かもしれませんが、日本をベースにしている企業の方は、海外のメディア事情や感覚、ビジネス習慣を深く知ることは難しいし、逆に現地のエージェンシーの人たちは、日本独特のビジネス習慣や、求めているものを理解できないことが多々有ります。
日本流のやり方をそのまま海外で押し付けても上手くいかないので、海外との橋渡しができるPRパーソンになりたいなと思いはじめまして…。アジア市場は前の会社でもサービスが提供できていたのですが、アメリカ市場に向けたPRをやっている日本人はほとんどいなかったので、アメリカと日系企業の橋渡し役ができるようになれば、強いと思い、飛び込んでみようと思い渡米しました。
目次
Hall PRでの業務内容
野村:
現在のお勤め先のHall PRについて教えてください。
吉本さん:
Hall PRは米系のPR会社で、レストランやトラベルなどの、ホスピタリティ分野のPRに特化しています。もともとアメリカの会社なので、ローカルのクライアントがほとんどなのですが、ニューヨークには、日本食レストランが続々進出してきており、代表のStevenも和食がとても好きで理解が深いので、日系のレストランのサポートも多々行っています。
具体的には、クライアントのレストランを現地のメディアにニュースとして取り上げてもらえるよう、ストーリーの切り口を考えて、フードジャーナリストさんにアプローチしたり、プレスディナーを開いて実際に体験していただいたりしています。
そのほか、現地の人に魅力的に見えるメニューの書き方や、値段設定、照明やレイアウト、味付けについてなども、ニューヨーカー目線でのレストランのコンサルティングの部分に踏み込んで提案もします。
野村:
レストランのメニューや内装の部分の提案までされるんですね。
吉本さん:
そうですね。
飲食業界に特化している会社なので、スタッフはみなニューヨークのレストラン事情にとても詳しいです。アメリカのメディアは日本に比べてとてもシビアな目を持っていて、プレスリリースの情報をもとに記事にしていただくというよりも、実際に来店いただき、味はもちろん、サービスやお店の雰囲気まで、実際に感じたコメントを書かれることが多いです。そういった面で、コンサルティングの部分もPRの一部としてお手伝いしています。
特にニューヨークのレストラン事情をあまり深く知らない日系のクライアントさんには、コンサルティングはすごく喜ばれます。
野村:
お話を伺っているとレストランの総合コンサルティングをやっているようなイメージですね。
吉本さん:
そうですね。
ニューヨークでPRを成功させるための4つのポイント
野村:
日本の感覚でニューヨークのPRに挑むと痛い目を見そうな気がします。ニューヨークでPRをする際のポイントを教えてください。
ニューヨークでのゴールとターゲットを明確にする
吉本さん:
1点目は、PRというよりマーケティング全般においての基本だと思いますが、ゴールとKPIを明確にすることだと思います。
目的がぼんやりとしたまま、とにかく露出をさせたい!多くの人にリーチさせたい!という考えの方も多いのかなと感じる時があります。
例えばPRの面でいうとテレビに何媒体・新聞に何媒体に載ることをKPIにしてしまいがちだったりするのですが、例えばターゲット層が見ない媒体に載っても効果は薄いし、若い人はテレビを見ない人も多かったりします。
当たり前のことではあるのですが、掲載量を稼ぐことを目標にしても意味がなく、そもそもターゲットは誰なのか、そのターゲットに刺さるメディアはどこなのか、どういうメッセージを伝える必要があるのか、ゴールをはっきりさせないと難しいのではないかと思います。
野村:
例えばレストランの目標をたてる場合は売上や利益率、店舗数になるんでしょうか?
吉本さん:
それも一つの目標ではあると思うのですが、もう少し掘り下げた時に、そもそもなぜアメリカに進出しようとしているのか、それは例えば利益よりもブランディング戦略の一環でニューヨークに店舗があればいいのか、それともレストランを通してアメリカに何か伝えたいことがあるのかなど、レストランといってもそれぞれに思いがあるはずです。
自分のレストランがやりたいことは何なのか、ターゲットはどういった人なのかをじっくり考えて、KPIをたてたほうがよいかと思います。
数百人レベルで現地の人の話を聞く
吉本さん:
次のポイントですが、たくさんの現地の人の話を聞くというのも大切なポイントかなと思います。
ニューヨークは、人種も考え方も趣味嗜好も本当に人それぞれ過ぎるので、たとえニューヨークの知り合いがいて話を聞いたとしても、それはその中のほんの一部の意見でしかないので、そこからニューヨーク全体を見た気になるのは危険です。
10人20人レベルではなく、数百人くらいの勢いでとにかくできるだけたくさんの人の話を聞きまくるというのは必須だと感じます。
野村:
特に、食の話でいうと好き嫌いはすごく分かれそうですね。
僕の友人でも、ベジタリアン、魚を食べれない人、野菜を一切食べない人がいて、人それぞれです。また、北米では単に好き嫌いではなくてアレルギーを持っている人や宗教が絡んでくるので日本以上に難しいと思います。
吉本さん:
あとは日本人のビジネス感覚からすると調子がいい人が多いので(笑)、そこも気をつけないとですね。
野村:
その話はすごくわかります。長く滞在しないと見えてこないモノってたくさんありますよね。調子いい事いっているのか、真面目にいっているのかは1,2ヶ月程度の短期の滞在だと見えてこない部分なので、全部鵜呑みにするのは危険ですね。
吉本さん:
日本のビジネス感覚だと、言ったことをは必ず達成しなくてはならないという意識だと思うのですが、アメリカの人たちは話の可能性をより広げるために、少し楽観的に予測をたてたりするのかなぁと感じています。
現地のPRエージェンシーをうまく頼る
吉本さん:
あとは、PRに限ったことになるかもしれないのですが、私はPRはとてもドメスティックなものだと思っています。言葉の壁だけではなく、現地の人の感覚やトレンド、メディアの事情がわかってないと何が新しいかがわからない、どういう話題がメディアで取り上げられるかが見えません。
また、ジャーナリストさんは日本よりもかなり厳しい目を持っていると感じるので、よっぽどの大ニュースであれば別かもしれませんが、ただ情報を渡しただけだとなかなか現地メディアに取り上げられることは難しいと感じています。
なので、予算があればやはりローカルのエージェンシーを活用するのは、やはり効果的ではあると思います。
ただ、アメリカのエージェンシーと仕事をする際は、日本やアジアでのエージェンシーとはスタンスが違うということを認識しておく必要があると思っています。
たとえば、ニューヨークのエージェンシーの場合はお客さんと本当に対等の感覚でいるので、これとこれとこれをやってくださいという、タスクベースでの頼み方ではうまくいかないと感じています。目標を共有しないまま、詳細のタスクだけ依頼しても、「それは、結局何がしたいの?」「何が目標なの?」「それは意味があるの?」と聞かれてしまいます。
それよりもゴールを共有して、それをどうやって一緒に達成するかを考えるところから始めたほうが良いのかなと思います。
野村:
北米のエージェンシーはクライアントの言われたことをなんでもやるベンダーではないですよね。
吉本さん:
そうですね。正直なところ、日本にいた時はクライアントは神様で(笑)、多少思うところがあっても、それをとりあえずやるっていうスタンスのところも正直あったと思うのですが、
ニューヨークでは、あくまでも対等のパートナーとしてのスタンスなので、意味のない業務については、やらないほうがいいとはっきり言いますし、エージェンシー側から契約を解除するという例もよく聞きます。カルチャーショックでした。
野村:
本当そうですね。僕が勤めているエージェンシーでも、例えばクライアントから月次レポートを出して欲しいって言われても、その分の追加料金を貰わえないとやらない、そもそもそれをやる意味がないのでオススメはしないとはっきり言います。
そういう展開になると、クライアント側も意味のないものに無駄使いしたくないので「じゃあいいや」と諦めるのですごく建設的です。
「今日取材したい!」という要望に応えるスピード感をもつ
吉本さん:
最後のポイントとしては、スピード感をもって柔軟に動くことはとても大切だと思います。
例えばこの前、バレンシアガが新しく出したバッグがイケアのバッグにそっくりだったという話をご存知ですか?
Image: Adweek
野村:
え?そんな事があったんですか?(笑)
吉本さん:
あったんです。これはスウェーデンでの話ですが、IKEA側の対応が素晴らしいなと思いました。
別にバレンシアガ側はIKEAのバックに似せようと思った訳ではないと思うんですが、この話がネット上で話題になった後、すぐにIKEAが「バレンシアガとIKEAのバッグの見分け方」という広告を出したんです。
Image: Acne
そのスピード感がすごくて、バレシアガのバッグが発売された翌日に、IKEAのパートナーエージェンシーのAcneがIKEAの担当者に連絡を入れて、その日の内にバレンシアガのカタログ写真に似せてIKEAのバッグの写真を撮影して広告を発表したそうです。[参考]
[注釈: 結果、VOGUE, DAZEDやADWEEK, MASHABLEなど、名だたる有名媒体で取り上げられたので、PR効果は高かったと言えます。]
野村:
すごいスピード感ですね。
確かにソーシャルメディアで話題にされて広がっている間にこういう施策をやらないと今更何言っているの?って雰囲気になってしまいますよね。
吉本さん:
そうなんです。これは今の時代のスピードを象徴する出来事だったなと思います。
もし同じことを1週間後にやっていたとしても、ここまで広がらなかったと思います。
これを数十人が集まる会議でいちいち決済を取っていたら難しかっただろうなと思います。
PRにおいても、メディアからの取材依頼を受けた時、まず担当者に連絡して、そこから本社の決済をとって、本社で揉んでから正式な返事が返ってくるという会社も多く、そうすると取材依頼から取材okまで2-3日かかってしまうこともあります。そうすると、スピード命のメディアでは大きな機会損失になってしまいます。
きちんとした手順を踏むっていうのが日本企業のやり方ですが、アメリカの場合だと、そこの連絡経路が最短距離で最速でできるようになっているところが多いと感じており、メディア側もそのスピード感を求めますね。明日取材したい、極端に言えば今日取材したい、といった要望にいかに対応できるかが、メディアに好かれるポイントにもなったりします。
現場でそういう判断ができるように、本社側ではなく、ニューヨークの担当者に権限をもたせることは重要です。
ニューヨークでのPRは簡単じゃない、だからこそ誰かがやらないといけない!
野村:
締めくくりにニューヨーク進出を狙っている日系企業さんやPRスペシャリストの皆さんに熱い一言をお願いします!
吉本さん:
アメリカ市場で日本人がPRやマーケティングを成功させるのは、確かに簡単ではありません。
でも難しいから諦めるのではなくて、魅力的なマーケットなのでどんどん進出してきてほしいと思います。
日本には、世界に誇れるものがたくさんあるし、日本のビジネスの方が優れているところもたくさんあると思います。
野村:
めちゃくちゃあります!
吉本さん:
(笑)、そういうところで日本人の力を見せつけてやりたいなと思います。
野村:
そうですね。
僕自身、2年程前にバンクーバー行きを決意した時に、無謀な挑戦という風に思われ、笑われることも少なくありませんでした。
僕はそれはそういう成功事例が見えない、具体的な道筋が見えづらいからだと思っていて、そんな経緯もあってこのTouch-Baseを立ち上げました。
吉本さん:
私もアメリカで日本のものをPRできるようになりたいから渡米をするというむねを人に話した時に、「日本の良い物をアメリカに広げる手助けをするというのは良いアイデアで正しいと思うけど、それを実際にやっている人が誰もいないのは、それが難しいからだよ」と言われ続けました。
ただ、できないからって諦めるのは悔しいし、全く不可能だとは思わないのでそこの可能性を探って行ければなと思います。
野村:
本当にそうですね。数ヶ月、数年でできる話ではないですね。
吉本さん:
そうですね。ただ誰かがやらないと進まないと思います。頑張りましょう。
野村:
頑張りましょう。
まとめ
今回はニューヨークでのPR成功のための5つの秘訣を紹介しました。これらのポイントはPRの分野だけに限らず、北米で日系企業が成功するために必要な考え方なのかなと感じました。個人的に最後の吉本さんの一言は、僕自身バンクーバーに来て以降ずっと思っていたことなのでウルっとしてしまいました。
> アメリカのマーケティングエージェンシーのリストはこちらをご確認ください。