今回はニューヨークの商業不動産に特化した Whitebox CRE Solutionsの代表であり、不動産仲介会社Vicus Partnersで日本マーケットのディレクターも務める茂木様にお話を伺いました。Vicus Partnersは借手サイドのレップ機能に特化したニューヨークで最大手の商業不動産仲介会社です。
ニューヨーク州、ニュージャージー州の、オフィス、レストランを含む小売店、ショールーム、倉庫や工場などクライアントの希望と予算に合った物件を探し、同時にコンサルタント機能を持つトータルサポート型の商業不動産仲介会社です。
本インタビューでは、日系企業のニューヨーク進出に焦点を当ててお話を伺いました。
茂木 美紀: 日本で国際会議・イベント運営会社勤務後ニューヨークへ渡る。
ニューヨークでは、全日空ニューヨーク支店で予算とプロモーションを担当した後、日本政府観光局(JNTOニューヨークオフィスで、国際会議誘致のリーダーとして、日本の国際会議都市を北米アメリカの各種組織のトップにプロモーションをかける。
2011年からの三年半は、東京で人材教育コンサルタントのビジネス開拓を担当。外資企業トップと現地社員の意識のギャップなどについて話を聞き、異文化コミュニケーションの重要性を再認識するきっかけとなる。これらの経験と異文化マーケティングとコミュニケーションの知識を、商業不動産でもフルに活用し、クライアントの声に耳を傾け、ニュアンスを汲み取り、適した空間と、リース契約の交渉を行う。ブルックリン美術館近くのブラウンストーンに、ティーンエージャー二人と夫、そして愛犬ブルックリンと暮らす。
目次
街の流れを掴む力で日系企業マーケットの開拓をスタート
渡部:
そもそもなぜニューヨークに来ることになったのかというところから伺ってもいいですか?
茂木さん:
幼い時から漠然とアメリカにいきたいと思ってたんですよね。それこそ幼稚園児の時から英語には興味を持っていたような気がします。
そして16歳の時に短期留学でNYに2ヶ月滞在したんですよ。その時のプログラムで国連の見学に行ったんですけど、そこで案内をしてくれていた人が日本人の女性で、その人に声をかけられたことがすごく色濃く印象に残っているんですよね。当時海外で活躍する日本人女性のキャリアウーマンってかなり珍しい存在でした。だからその方にすごい感化されて。絶対アメリカに行こうと決めました。
最終的には、偶然にも、日本でアメリカ人の主人と出会い、24年前に一緒にニューヨークに来ました。こういう形でアメリカ行きが実現するとは思っていませんでした。
渡部:
元々、不動産業界には興味を持たれていたのですか?
茂木さん:
東京で流通業界マーケティングの調査の仕事を行なっている時から、街の流れを見ることが好きで、漠然と不動産業界には興味はありましたね。その為、不動産業界で働くことは、なるべくしてなった気がしています。
渡部:
そもそも茂木さんがVicus Partnersに入社した時から、会社としては日本マーケットへ注力されていたのでしょうか?
茂木さん:
いやいやそんなことはなくて、最初は会議だけに参加してくれと声がかかったんですよ笑
そしたらその後、実際にオフィスに来て日本のマーケットも開拓しましょうとなった。
私もそういうことには興味があったので、躊躇なくやることに決めました。
ニューヨーク現地の不動産仲介会社だからこそできるサポートとは
渡部:
それでは茂木さんが先頭に立って日本マーケットの開拓を始めたのですね。
ゼロからの開拓は大変でしたか?またどのような業種のクライアントが多いですか?
茂木さん:
やはりまだまだこの会社自体が日本で知名度があるわけじゃないので、どうしても規模の大きな日系の会社のオフィスリースとなると、仲介会社のディシジョンが日本で決まるのが大きな障壁となってしまうんですよ。
その為、今までのクライントは、オーナーと直接お話ができるリテール系が多いです。ただ他アメリカ人スタッフは欧米のクライアントのオフィス、工場、学校と様々な案件をしています。
私個人的には、規模に関係なく、ニューヨークに進出する日系の会社だからこそ、マーケットを理解しているアメリカ人主導の仲介会社に相談するメリットは大きいと思っています。
少し手前味噌になってしまいますが、なぜ現地の仲介会社に依頼するメリットがあるのか説明しますね。
二年前にあった例で言うと元々LAにオフィスを持つクライントがニューヨークにショールームを持ちたいという話がありました。
この日系の会社は、私たちに相談される前に日系の会社同士の繋がりで、ある日系の仲介会社にお話されたみたいなんですよ。
すると駐車場付きという条件があったので、かなり郊外のスペースを紹介されたみたいなんですよ。
そこで私どもにも相談しに来られました。
この会社の製品が飲食系の製品ということだったので、レストラン業界ではやはりNYの中心部に近い方が有利だと思い、しかも駐車場付きならブルックリンで決まりだと直感的に思って、ブルックリンにある※インダストリーシティを紹介しました。
※インダストリーシティは、もともと工場や倉庫だった建物群を再開発した複合施設。現在も開発途中だが、フードホール、レストラン、カフェ、メーカースタートアップスペースなどが次々とオープンしている。
自由の女神も見えるこの開発のスペースを、お客様には気に行ってもらえて、オープニングのパーティには沢山の方が見えてました。その時に、「どこの不動産仲介会社に頼んだんですか?」とクライアントが聞かれていて。
今ではインダストリーシティはジャパンビレッジと呼ばれる日本食に特化したフードコートが入り、メイン・テナントになっています。まさに先見の明があったということでしょうか!笑
やはりお客さんの世界観を理解して、箱を紹介する以上の想像力を持つ。そしてニーズを把握する。素早く対応できるのは現地の情報を持った会社が強いなと思いますね。ちなみにこのインダストリーシティには、ニューヨーク発のアメリカ人による日本酒造会社、ブルックリンKuraで最近かなり有名になっていますが、このクライアントも弊社がご案内しました。今はほんと色んななメディアで引っ張りだこです。
渡部:
ブルックリンKuraについては聞いたことがあります!こちらも御社が対応されていたんですね。やはりマーケットを理解した仲介会社がいると成功に結びつきやすいということでしょうかね。
茂木さん:
そうですね。このクライアントは私が入る前に、アメリカ人の同僚が担当したのですが、日本酒造りについてドキュメンタリーを見るなど勉強をしたそうです。今から三年前ですよ。
どうしても日本人だけだと、マーケットの見方が偏りがちになる。最終的にお客さんはアメリカ人になるわけなので、より現地の感覚に近い人間に相談することが近道かなと思います。
そういった意味でも、日本語版のWebサイトは既にありますが、そこをさらに改善して、日本人の方にニューヨーク進出に必要な情報が入ったサイトを持つことが私の使命かなとも最近は考えていますね。
変化し続ける街ニューヨーク。これまでの既成概念は通用しない?
渡部:
NYの不動産市場の特徴はどういったところにあると思いますか?
茂木さん:
弊社の特徴が、米国しいてはNYの特徴でもあるかと思います。弊社は、借手代理機能(テナントレップ)に特化したファームです。
大きな仲介会社は、大家レップとテナントレップセクションが同じ会社の中にあって、ということは、クライアントに物件を探すときも自社で持ってる物件を紹介したくなると思うんです。でもNYで商業不動産ブローカーの仕事をしている人全てが見れるデータベースがあり、例えば弊社のような会社は、借手サイドのクライアントしか持たないので、NY全ての物件をお客さまのご希望に添ったものを提案できます。
だから、情報量が多いテナントレップに相談することはそれだけでもメリットですよね。
それと日本の方がお店等をオープンする前に、NYに来て街を歩きながら空室物件に直接連絡する方もいると思いますけど、そうすると、自分サイドの不動産のプロを持たないまま、大家サイドのブローカーに連絡することになります。なので先ずはテナントレップブローカーにご相談することをお勧めします。本当にこれはメリットだと思うんです。NYの情報を持っている人がいないと難しいですからね。
渡部:
ニューヨークは街として様々なカルチャーが混ざっている印象です。不動産業界としてはこれは難しいですか?
茂木さん:
そうですね。ニューヨークは街の流れを読む力が本当に必要になります。
例えば日系の会社に出店先として、ミッドタウンのイーストサイドについて聞かれることがあります。
日本は土日でも平日でも昼でも夜でもたくさん人がいる駅があるじゃないですか。それこそ新宿とか渋谷なんて昼も夜でも人がいますよね。
それに対してアメリカは、結婚すると自宅に戻る文化なんですよね。さぁ仕事終わったから同僚と飲みに行くかーとはならない。それなんでNYのビジネス街は夜静かになるんですよ。週末も同様ですね。
ミッドタウン=渋谷ではない。(タイムズスクエアは昼夜人がいるが、観光客が中心。)まずはこういった街の人の生活スタイルも理解する必要があると思います。
あとはまさにいろんなカルチャーがミックスされているという部分ですが、よく相談を受ける質問として、「どのエリアがお金を持っている人が多い?」というものがあります。または「健康に特に気をつけている人が住むエリア」とかですね。NYはブルックリンの北部を含め、お金がある。また健康意識も全体的に高いです。
年齢層の高い富裕層が集まる住むエリアもあれば、若手ITの富裕層が集まる場所、かと思えば、2ブロック離れると、低所得層の住宅街ということもあるんですよね。
また日本の方には、まだまだ昔のNYが危ないイメージが根付いているのかなと思う時もあります。
これに関して大きな勘違いだなというエピソードがあるんですけど、今、ニューヨークではそれこそ西のさらに西の開発が進んでいます。ハドソンヤードという開発になるんですけど、この開発はロックフェラーに次ぐ規模と言われています。
ただ昔のNYを知る日本の方に、「そんなごみためのエリアに大企業がオフィスを移す訳ない」と言われたことがあります。大きく外れてらっしゃいますけど。
NYは常に変わっているんですよね。なるべく既成概念は持たないようにした方がいいと思います。ただそれこそ、このような情報って現地にいる人しか知らないケースがありますよね。
スタートアップには低リスクでできるコワーキングスペースがおすすめ!
渡部:
先ほど年齢層の話が出ましたが、不動産の選び方でもかなり違いますか?
茂木さん:
本当に違いますね。私たちもまさに注目している部分となります。
例えば今40歳以上は郊外に住んでいる人口も多く、電車でオフィス通勤が普通なんですよね。だから必然的にミッドタウンのイーストサイドにオフィスが多いという流れができていました。
ただミレニアル世代はこの意識が全く違います。
働く場所、遊ぶ場所、住む場所がかなりコンパクトにまとまっていることがミレニアル世代の働き方の特徴かなと思いますね。
渡部:
確かに、若い人はそもそも車も持たなくなり、通勤の為に駅まで運転とか、買い物に運転とかあまり考えられないですよね。
茂木さん:
そうですね。また面白い傾向としては、一昔前まで工場や倉庫が集まる場所であったチェルシー、フラットアイロンや、オフィス街ではなかったビレッジなどにオフィスを選ぶ会社も人も多いです。
Google、Facebook、Twitterを始めとするIT系のオフィスがこぞってこのエリアにオフィスを構えています。
こういった大きなIT系企業の影響も大きいかなと思います。
クールな場所というイメージが一気に広がりましたからね。
またミレニアルの働き方が大きく変わったポイントがあります。それがコワーキングスペースの台頭ですね。WeWorkはNYで一番のオフィスリーシングしている企業となってますからね。このようなコ・ワーキングにオフィスを構えるのは、今ではスタートアップだけではないんです。NYに進出する企業にも、こういうオフィスに出店するのも簡単でよろしいかもしれないです。
渡部:
コワーキングスペースには、どのようなメリットがありますか?
茂木様:
様々な国の色々な企業と一緒のスペースにいることで、マーケットを感じる、そして人脈が広がるメリットがまずありますね。
またセキュリティデポジットなどが安く抑えられること、契約が普通のオフィスを借りるよりも簡易であること、があります。
通常海外から出てきて、米国にアセット等がない場合、高額のセキュリティデポジットを求められることになります。平均として6ヶ月分の賃料、高い場合は9ヶ月という話も聞いたことがありますね。
その点、コワーキングスペースは通例2ヶ月分のみとなるので、リスクを少なくスタートができるメリットがありますね。
こういうコワーキングスペースを使うのはスタートアップなどにもかなりメリットがあると思います。
そもそもニューヨークという土地がスタートアップに適していると思います。
金融だけでなく、E-commerce、ファッション、メディアもあってと、かなり様々なインダストリーがありますよね。起業する魅力はかなりあるのではと思っています。
コワーキングにも色々あるので、ご興味があればご連絡いただければと思います。
また、お店のポップアップをしたい、とお考えの場合も同様です。クライアントには手数料はかかりません。*稀に例外もあります。
ニューヨーク進出の相談はニューヨーク現地の不動産屋へ
渡部:
今後NY展開を考えている企業の方に向けて一言お願いします。
茂木さん:
NY展開を考えている企業って多いと思うんですよね。日本国内の少子化などもあって、今後外に出ざるを得ない状況もあると思うんですけど。
やっぱりNYに行くならNYのことをよく知っている仲介会社に意見を聞くことが重要だと思うんですよ。うちは私以外は生粋のアメリカ人ニューヨーカーです。ここで生まれ育っている人が半分以上です。
現地の情報だけではなくて、投資家の情報や、進出をサポートするプロのネットワーク量も違いますからね。
そしてアメリカ人だから判ることもあると思うんですよ。あとは感性が合う人、というのもあるかな。アメリカ人だって例えばケンタッキー州から<にレストランの進出すると、とんちんかんなことする可能性もありますよね。”NY”に住む仲介会社という部分が大事になりますね。
あとは本当に出てみないとわかりませんからね。
不安が多いと思うので、最初はなるべくコミットメントを高くしないで、
それこそコワーキングスペースとかで進めるのはアリなんじゃないかなと思いますよ。
まさに今はそう言う気軽に挑戦できる環境が整っていますからね。
海外で一旗揚げたいって人って多いと思うんですよ。そう言う気持ちを持った人が海外にどんどん挑戦して欲しいと思います。そういう人が増えれば増えるほど、どんどんそういう意識って連鎖的に人の中に育まれて行く気がしてるんですよね。
そう言う一旗揚げたいという世界観を持った人達のサポートを行いたいし、それがやりがいですね。
まとめ
「街の流れを読む力」この言葉が印象に残りました。現地のマーケットを理解した茂木様だからこそ直感的にわかることがあり、さらにクライアントの世界観を形にできるのではないかと思います。
またリスクを最小限にした海外進出の一つとしてコワーキングスペースは今後もさらに重要な存在となりそうです。