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NYで日本食ビジネス!起業、スモーガスバーグ出店、ローカルの顧客獲得の全て | Chef Katsu Brooklyn インタビュー

NYで日本食ビジネス!起業、スモーガスバーグ出店、ローカルの顧客獲得の全て | Chef Katsu Brooklyn インタビュー

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今回はカツバーガーを軸に、ハイエンドな日本食を提供するChef Katsu Brooklynにインタビューさせていただきました。Chef Katsu Brooklynのオーナー Machida Katsutoshiさんは、ミシュランガイドにも掲載されていた「Sushi of Gari」や「Blue Ribbon Sushi」など、NYで有名な日本食レストランで経験を積んだ後、独立したという経歴の持ち主です。今回は、そのMachida Katsutoshiさんと、マネージャーでもあり、奥さんでもあるChiemiさんにインタビューさせて頂きました。

NYの有名レストランを辞めて、起業に至った経緯。
起業後の顧客獲得やNYの食の祭典とも言われている屋外グルメイベント『スモーガスバーグ』へ出店した時の話、そして地元ブルックリンでの顧客開拓にシフトしていったときの話をご紹介していきます。

NYのブルックリンの顧客獲得を通して、Chef Katsu Brooklynが学んだレッスンとは?

これからNYで食関係での起業を考えている方はもちろん、NYの食ビジネス事情に興味がある方は必見です。

Profile:

Machida Katsutoshi:日本でシェフとして修行を積み、渡米後は「Sushi of Gari」や「Blue Ribbon Sushi」など有名日本食レストランで勤務。その後日本食レストランのヘッドシェフとしてオファーをもらい新メニュー開発などに従事しながら4年間勤務。レイオフをきっかけに独立、現在は奥様のChiemiさんとともに、ブルックリンにて「Chef Katsu Brooklyn」を営んでいる。

「NYでの起業とスモーガスバーグへの出店 | Chef Katsu Brooklyn インタビュー #1」

「NYブルックリンでのローカル顧客の開拓 | Chef Katsu Brooklyn インタビュー #2」

(※以下の記事はインタビューのハイライトです。)

NYで起業した経緯について

野村:
NYで起業した経緯について教えて頂けますか?

Chiemiさん
元々、夫は日本でシェフの修行をしていましたが、NYに来てからは「Sushi of Gari」や「Blue Ribbon Sushi」などNYでは有名なSushiレストランで働いていました。

人気のレストランで働いていると待遇面でも安定感があるのですが、夫はずっと独立志向があったんです。

日本食を食べるのも作るのも好きだったので、寿司だけでなく、アラカルトのメニューを出すレストランを開きたいという希望がありました。

ただその当時は、子供が小さかった事もあり、「待ってほしい」と私がブレーキをかけていました。

野村:
なるほど。

Chiemiさん
それから少し経って、子供も大きくなってきた時、ブルックリンのあるお店から「寿司以外のアラカルトも作れるヘッドシェフとして雇いたい」というオファーを頂いたんです。

そこで4年間ほどヘッドシェフをしていました。将来自分が開きたい店に近い環境で経験を積む事が出来て良かったです。子供も大きくなってきて「そろそろ独立したいね。」というタイミングで、レストランからレイオフ(解雇)されたんです。

そのレストランのオーナーからしたら、夫は今までで最も高い給料を払っているシェフだったんです。今考えると、4年間ヘッドシェフとして新しいメニューを残し、お店の成長に貢献してきた夫に対して、この先を考えた時「他の所に行っても良いよ。」というメッセージだったのではと思います。

最初は落ち込みましたが「この機会を活かそう!」と気持ちを切り替えました。レイオフだったので半年間失業保険をもらえたという事もあり、転職ではなく「独立」の助走に使いました。

野村:
レイオフがキッカケになった形ですね。

Chiemiさん
そうですね。その当時はまだ何をやるか決まっていませんでした。住んでいるブルックリンのコミュニティやネイバー(隣人)の方々から「いつかこの近所に日本食レストラン出してよ」なんて声も頂いていましたが、何から始めたらいいのか分からなくて…。

当時、食のトレンドとして「ポップアップレストラン」や「ソーシャルダイニング」が流行っていたんです。ポップアップレストランは、「1日だけなど期間限定でオープンするレストランのスタイル」、ソーシャルディナーとは「普通の家庭のダイニングのような場所に人を集めてシェフが料理を振る舞う」というコンセプトです。


参照:
Chef Katsu Brooklyn Instagram

まずは「ポップアップディナー」からスタートしてみようという事で、2018年6月頃に活動を開始しました。継続的に開催できる場所探しからスタートしたのですが、最初こそ良い反応を頂けるものの、最終的な決定には至らないという状況が続きました。

そんな中、私の友人から「知り合いの日本人女性が、フォトスタジオの空き時間を活用してイベントを開いているから食べ物を出してみたら?」というお話を頂いたんです。そのご縁で昨年夏頃からフードベンダーを開始しました。

何を売ろうかと考える中で「カツバーガー」という選択肢にたどり着きました。

Katsutoshiさん
なぜカツバーガーにしたかというと、僕のファーストネームが「Katsutoshi」なんですね。友人からは「Katsu」と呼ばれているので、それを掛けたという意味もあり、店名にも入れました。

さらに当時アメリカでは「カツサンドブーム」が来ていたので、話題作りの観点でも良かったと思います。

Chiemiさん
実はここ数年、NYでは全然日本食と関係ない、比較的高価なレストランでもカツサンド出すところがあるんです。

Katsutoshiさん
NYは豚ではなく和牛サンドが主流ですけどね。A5などの高級牛を使用したサンドイッチです。

Chiemiさん
私たちは「バーガー」にする事で差別化をはかりました。

Katsutoshiさん
ポークの肉自体もこだわっていて、自家製の塩麹でマリネしたものを揚げているんです。他とは違う点ですね。シェフならではのアイディアを盛り込みつつ、他と違う「カツバーガー」という形にしました。

スモーガスバーグへの出店

Chiemiさん
ターニングポイントになったのが「スモーガスバーグ」への出店でした。「スモーガスバーグ」はベンダーを80-100社集めて、毎週末グルメイベントを開催しているオーガナイザーです。

それが当時NYで大流行りだったんです。今は少しピークを過ぎたくらいですが、若い世代など新しい情報に敏感な人達が集まるイベントで、1日1万人以上の集客力があるんです。


参照: Smorgasburg ウェブサイト

食に関するスモールビジネスオーナーにとっては「スモーガスバーグが出店して、バズって、独立する」というのが一つのルートになっているんです。


参照:
Chef Katsu Brooklyn Instagram

登竜門的な立ち位置になっていて、出るまでにも書類審査、審査員による試食などいくつかの難関があるのですが、応募したらラッキーなことに通ったんです。9月から11月頭までの2ヶ月間出店することになりました。

野村:
良いチャンスですね。

Chiemiさん
いい機会ではあったのですが、スモーガスバーグはビジネスの観点では難しい部分があります。まず家賃が非常に高いです。1ヶ月週末4回で約2,000ドルです。さらに、会場にはコンペティターがとても多くて、認知してもらうのにプラスアルファの仕掛けが必須です。

例えばSNS、フードブロガーに紹介してもらう、何かしらの媒体に取り上げてもらうなどです。さらに味よりインパクトが重視される傾向があります。「インスタ映え」するような見た目が重要なんですね。

私たちは、味に対してこだわりを持ってるので、その面でさらに改良を行いました。塩麹だけでなくキャベツに「シソ」を混ぜたり、ブリオッシュを使うことなどです。食べてくれた人は「おいしい」と言ってくれるのですが、見た目はそこまで華やかではないし、チキンバーガーと何が違うのか説明する必要もありました。

野村:
なるほど。味よりも「パッと見で分かりやすいもの」が売れる状況ですね。

NY全体で流行り廃りが多い中、インパクトがあるものが伸びている傾向ですか?

Chiemiさん
見た目重視は1つの方向性ではありますね。例えば去年は7色のベーグルが流行っていました。「分かりやすいもの」、「インスタで映える見た目」というのが重要視されています。

若い世代は、経験にはお金を払う傾向があります。彼らがスモーガスバーグを訪れる大きな動機は、味だけでなく、見た目なども含めた「経験」を求めていると言えます。

野村:
なるほど。

Chiemiさん
NYのどこでも「見た目見た目」なのかと言うとそうではありません。NYの良いポイントを挙げると、日本と違って「ダイバーシティ」がある点です。

言い換えると「ニッチな市場が、スポット的にいっぱいある」ということです。

日本は1つのトレンドを皆が真似して、一気に広まりますよね。そして廃れるのも早いです。

NYの場合はニッチな市場が存在し続けているので、アメリカ人全体にウケなくても、小さなマーケット内でまわるようになったらビジネスが続くんです。

野村:
なるほど。多様性はすごくありますよね。

Chiemiさん
良い例が「日本酒ビジネス」ですね。日本酒ブームが来ていて、10年前と比較にならないほど、色々なレストランで提供されています。ワインより高い場合もあります。

日本酒は見た目も華やかじゃないし、浸透させるのは大変だったと思いますが、「文化」や「ルーツ」に興味を持ってくれるマニアが多く存在するんですね。そういう人達から深く浸透すると、ジワジワと周りに伝播していきます。

野村:
なるほど。

Chiemiさん
もう1つ良い事例があって、ウィリアムズバーグに日本食で流行っている小さな定食屋があるんです。

そこでは、お魚と副菜、味噌汁とご飯を定食として出しているシンプルなお店です。ブルックリンの街中に「和」がミックスしたような雰囲気のお店で、口コミで広がり若い人で賑わっています。他に無いもの、健康に良い物、日本の雰囲気が好きな人が訪れていますね。

地元ブルックリンでの顧客開拓について

Chiemiさん
スモーガスバーグにまた出店するかどうか考えた時、改めてその立ち位置を見返してみると「NYに来た記念に行きたいイベント」とか「中高生のグループが遊びに来る場所」なんですね。スモーバスバーグに出た事自体は経歴的に良いステップになりましたが、次の出店はやめる事にしました。

実はスモーガスバーグに出店していた時、ベンダービジネスの先輩にDumbo(ダンボ)での出店を勧められました。Dumboはブルックリンの一部で再開発が進んでいるエリアで、Estyの本社などがあってミレニアルの女性が多く働いていたり、テック系のスタートアップもたくさんあります。観光客にも人気のエリアですね。


参照: Dumboの場所 – Google Map

実はそのダンボは観光客向けのレストランはたくさんある一方で、働く人が気軽に行ける場所がなく、ランチ難民が多く存在しているんです。

そのニーズに対して、スモールビジネスを応援しているあるNPOがオーガナイザーになり、ランチ難民向けにマンハッタンブリッジ下の公園でフードベンダーを出店しているんです。

出店できるベンダーは4つだけなのですが、そこの1つとして声を掛けてもらったんです。平日週3回ランチタイムに出店しています。ダンボ周辺に住んでる人や勤務している人がメインの顧客です。

ここの特長は、スモーガスバーグと比較して出店料が安い事です。スモーガスバーグは営利目的で行っている一方で、ダンボの方は「周辺のスモールビジネス支援」が目的です。

私たちのように「味で勝負」しているところは、美味しいと感じた人が口コミを広げ、リピーターになってくれる方が確実と言えます。

ダンボでの出店を始める時、私個人としては正直「今さらベンダーの手伝いをやるんだ」と思いましたが、やってみたらすごく楽しいんです。夫の事をさらに尊敬できるようになったし、素晴らしい物を提供しているということを近くで見る事が出来てとても良い経験になっています。

野村:
いい経験ですね。

Chiemiさん
反応も良くて、リピートのお客さんが多いです。ほぼ毎日来る人もいますね。アメリカではピザなど毎日同じ物を食べる人がいるとは聞いていましたが、飽きちゃうんじゃないかってこちらが心配になるくらいです。笑

次の来店で、彼女や同僚を連れてきてくれたりする事もあり、口コミの広がり方も理想的ですね。

野村:
NYの食の流行りはスピード感があると思うのですが、どういやってついていくのですか?

Chiemiさん
あまり流れに乗らないように気をつけています。中身としては「オンリーワン」を発信する、あくまで流行はブランドにあう形でエッセンスとして取り入れるようにしています。


参照:
Chef Katsu Brooklyn Instagram

良い例だったのが、抹茶あんドーナツ
です。バーガーのバンズを使って「あんドーナツ」を出した事がありました。日本人は絶賛したのですが、アメリカ人は「黒いものは何?」という感じで分からないんです。説明をしないと食いついてくれない状況でした。

そこでトレンドの「抹茶」を活用しました。NYでは今、抹茶の人気が定着してきています。色々な会社が抹茶ビジネスに参入しています。

「Why not?」という感じで、あんことホイップクリームの部分に抹茶を入れて「抹茶あんドーナツ」として売り出したんです。見事に反応が違いましたね。新しいものを吸収しつつ、使えそうなものはトライするというスタンスです。

NYで新しい事に挑戦する方に一言

野村:
これからNYで新しい事にチャレンジする方に一言お願いします。

Katsutoshiさん
NYに限らず、何か新しい事に挑戦する時は、自分が本当にやりたい事を明確にして、どれだけそれに情熱を注げるか、そこだけだと思います。

NYは一番世界で厳しい場所だと思います。そこで勝負をしたいという人は、それなりに覚悟をもって来るべきですね。

Chiemiさん
覚悟というのも事実ですが、私の周りで、ビジネスで成功している人は実はそんなに意気込んでない人が多いです。考えすぎず、とりあえず始めてみるというのも大事なのかなと思います。

NYという街は、厳しい一方チャンスがたくさんあります。日本の文化だけでなく、「デザイン」もリスペクトされています。来たいと思ったら、とりあえず来る事ですね。何かを始めやすい街ではあります。

今後の展望について

野村:
今後の展望について教えてください。

Katsutoshiさん
カツバーガーでお金が回ってきたら、自分がやりたい事にお金を投資したいと思っています。

最終的にやりたいのは、懐石料理のような和食です。お店を持つというより、自分の家に20人くらい集客でいるスペースを作って、招くようなスペースを作りたいです。

招待制で作りたいものを作るという形をイメージしています。コミュニティを広げれば、そういうビジネスでも回るだろうし、気張って仕事するというより、楽しく喜んでもらえるものをやりたいですね。

お店を持つと人事の問題やその他しがらみが発生しますよね。自分には得意じゃない部分がついてきます。

自分のスペースで作りたいものを作り、呼びたい人を呼んでというのが魅力的ですね。お金につながるかは分かりませんが、バーガーでお金を生みつつ挑戦していきたいですね。

今後レストランを開きたいという夢も出て来るかもしれません。その時は全力投球しますが、今は僕が考えているのは「楽しいと思える事」ですね。

まとめ

今回は今回はカツバーガーを軸に、ハイエンドな日本食を提供するChef Katsu BrooklynのKatsutoshiさん、Chiemiさんにインタビューさせて頂きました。レイオフというピンチをチャンスに変える力や、スモーガスバーグへの出店、そこからダンボエリアへの方向転換など、実際に現地でビジネスを行っているからこそ語れるストーリーでした。

インスタ映えなどの流行りに便乗するのではなく、料理の味という本質で勝負している点は、食に対するお二人の強い想いを感じ取る事が出来ました。インパクトや見た目など「発信力」が重視されがちな風潮ですが、本質となる「コンテンツパワー(料理においては味)」があって初めて成功に結びつくという点を学ぶ事が出来ました。貴重なお話をありがとうございました!

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