今回は、ボストンで日本企業のアメリカ進出のコンサルタント・サポートを行っているBoston Marketing PartnersのEric Hyett氏とSpencer Thurlow氏にお話を伺いしました。
詩の翻訳など、深く日本の文化に理解がある二人に、日本企業のアメリカ進出において、気をつけるべき点を中心に話して頂きました。
ビジネス開発のプロフェッショナルで過去に20カ国で、ビジネスの立ち上げを経験。
日本には計7年間住み、MicrosoftのローカライズマネージャーやTradeCard社のビジネス立ち上げを行った実績がある。
最終的にはExperian社のカントリーマネージャーを務め、その後ボストンに戻る。
帰国後は2008年からBoston Marketing Partnersの母体となる活動を開始。
日英翻訳家としても活躍していて、Spencer Thurlow氏と共に詩人の水無田気流氏の『音速平和 sonic peace』を英語に翻訳し、「Sonic Peace」というタイトルで出版している。
日本関連のビジネス開発のプロフェッショナル。
2016年に高知にある英語学校で海外留学のプロジェクト発足に従事する。
帰国後は日本での経験を活かし、ボストン日本協会のMembership Managerを務める。
以前からEric Hyett氏とは詩の翻訳などで共に活動をしていたが、昨年から本格的にBoston Marketing Patnersとしてビジネスの立ち上げのコンサルティングを行っている。
目次
まずはリサーチ、アメリカという市場を理解する事からスタート
渡部:
早速ですが、アメリカ進出を考えている日本企業がよく勘違いしていることはありますか?
Eric:
日本の企業がアメリカ進出を考える時、日本のやり方ですぐに売り上げを求めてしまう。
これは日本企業のよくある勘違いです。
正直に言って、僕らはセールスは全ての準備が整ってから最後のフェーズと考えています。
このフェーズというのは
1. リスニング
2. マーケティング
3. ブランディング
という3つのフェーズです。これらのフェーズの準備が完了して、初めてセールスのフェーズとなります。
基本的には、弊社の場合この3つのフェーズには6ヶ月くらいの期間の想定をしています。
セールスはこれらの6ヶ月の準備をしっかり行ってから付いてくるイメージとなります。
マーケティングについて理解していて、すでに日本で利益も上げている企業となると、なかなかもう一度準備から行う発想にならないかもしれないですが、日本のやり方のまま売ろうとするとまず失敗しますね。
リスニングのフェーズでは売ることを考えず、まずアメリカ人について知ることから。
私たちはいつもお客様に、まずリスニングの為だけのトリップをセッティングしています。
そのくらいこのフェーズは重要です。
Spencer:
リスニングのフェーズの狙いは、アメリカ人の生の声を聞くこともそうですが、理想はアメリカ人と友達になることですね。本音で話せるかということです。
例えば、
「この製品を売りたいのですが、欲しいですか?」ではなくて、
「この製品どう思いますか?」という質問が重要になります。
そうすると、アメリカ人はその質問に対して、
「こういう風にすればアメリカでも流行るのでは」と話してくれるようになる。そうやって徐々に本音を聞き出すことが必要です。
Eric:
このリスニングは本当に重要ですね。
例えば、今でこそラーメンブームはアメリカでも起きているのですが、当初は全く日本人が思うラーメンとアメリカ人が思うラーメンというのは違うものでした。
アメリカ人にとってラーメンと聞くと、それこそ学生が食べるカップラーメンのイメージがあったんですね。
そこに、突如日本の上品なラーメンが現れても、それに1,000円以上払って食べようとはならないですよね。
日本のラーメンの歴史を伝える事も大切ですが、まずはアメリカ人が思うラーメンのイメージを明確にしないといけない。
それからブランドをローカライズしていくかを考えていくわけです。
西海岸と東海岸でも異なるアメリカのローカライズの重要性
渡部:
そのローカライズという部分は非常に繊細な問題かなと思うのですが、具体例を教えてもらえますか?
Spencer:
はい、このローカライズの問題は細かい部分まで言うときりがないですが、本当にいろんなところで直面しますね。
マーケティング手法で日本人が良いと思っている事も、アメリカ人には全く効果がない事もありますからね。
Eric:
例えばテック系の企業の例だと、ログインのスクリーンのカラー1つでも、ローカライズの必要があります。
機能として問題なく動いていても、見え方がアメリカ人に合わないこともあるんですよね。
Spencer:
あとはWebサイトのローカライズでもよく勘違いされる点がありますね。
日本の企業はよく自分たちでウェブサイトを翻訳したがるのですが、細かい部分を間違ってしまうと伝えたいことが伝わらないことが多いですね。
私は英語教育の業界にもいたので、よくわかるのですが、意味があっている英文でも、ビジネスとしては通用しないことがあります。
日本企業は製品の品質がいいから、ウェブサイトでは意味が通じればいいだろうと思っている方が多いですが、細かい部分のミスが買うか買わないかに影響することを理解しなければいけませんね。
Eric:
そうですね。それこそラーメンや日本酒など日本文化を提供する会社であっても、Webサイトはアメリカ人が喜ぶビジュアルにしないと良い印象を持たれないこともあります。
Spencer:
面白いエピソードがあるのですが、実は当社の最初のお客様はアメリカの会社でした。
その会社はLAに本社があり、ボストンに進出したいと言うことで、弊社がサポートすることになりました。
そのお客様のウェブサイトはいかにも西海岸と言う感じで、すごい派手なデザインだったんですよね。
それを見て、これはボストンでは通用しないなと思ったので、そこからかなり修正しましたね笑
アメリカでも西海岸と東海岸でここまで価値観が違うので、日本の価値観がそのままアメリカで通用するという事はなかなかないですね。
※UNIQLOの日本WebsiteとアメリカWebsiteの比較(参照:https://citrusjapan.co.jp/column/cj-column/w006_201707.html)
日本:商品情報含む全ての情報がTop ページでわかるように文字数が多いレイアウト。
アメリカ:価格などの必要最低限な情報量で写真が目立つレイアウト。
いくら品質が良くてもストーリーがないと売れない
渡部:
それでは、マーケティングという部分で、アメリカと日本で大きく異なる点はありますか?
Spencer:
そうですね。日本とアメリカで大きく異なることがあります。それはストーリーの重要性です。
アメリカ人にとってマーケティング=ストーリーなんですよね。
アメリカ人は製品の質だけでなく、どんな会社なのか、どのようにして作られたのかといった物語を気にします。
日本人の考えだと、製品の質がよければ売れるだろうという商品もしっかりとした物語がないとアメリカでは売れない事もありますね。
Eric:
このストーリーはアメリカでは本当に重要ですね。
アメリカ進出を考えると、企業の歴史だけでなく、自分の個人的な事もストーリーとして語ることができないといけないです。
こういう個人の話って、日本人はあまり好みませんよね。少し恥ずかしいと思うのかもしれません。
「弊社はこういうサービスを持っていて・・・」だけではなくて
「私はこういうキャリアで・・・」といった個人的な話も語ることが必要となりますね。
最終的にはこの人から買ってみようということになり、ここでも最終的に、アメリカ人は物語ベースで買うか、買わないかを決めることになるわけです。
名刺交換だけではないリレーションシップの作り方
渡部:
ここまでマーケティングの違いについて説明を頂きましたが、ビジネス習慣での大きな違いはありますか?
Eric:
もちろんありますよ笑
アメリカでは友達の関係になってそこからビジネスと変わっていく文化があります。
これはなかなか日本人には馴染みがないと思いますね。
日本のように、名刺交換をして、お酒を飲めばビジネスが始まるということはないんですよね。
もっと時間をかけて関係を構築していかないといけません。
Spencer:
ビジネスネットワーキングの場を見ても、日本とアメリカでは大きく違いますね。
日本では名刺交換が大きな目的となってますよね。
ただアメリカでは、友人のような本音を言い合えるような関係を作ることが目的となります。
ここでは営業トークは一切なしで、みんな好きな野球チームの話とかをしていますね。
要するに、正直に意見が言えるような信頼関係がビジネスでも必要になるんですよね。
最後に一言
渡部:
最後にこれからアメリカ進出を考えている企業にアドバイスがあればお願いします。
Spencer:
まさにこのようなインタビューでリアルな情報を発信していくことが我々にとっては重要かなと思っています。
アメリカに進出したくてもどのくらいのコスト、タイムラインになるのかわからない。そもそもどこに聞けばいいのかわからないという企業も多いと思います。
そういう課題を持っている中小企業をサポートするのが私達の使命だと思っています。
アドバイスとしてはやっぱりビジネスといってもアメリカ進出するのなら、アメリカ人の友達を作るという意識を持つということですねかね。
マーケットを理解することはその国の文化を理解することです。
その為には、信頼できる友人がいなければ文化を理解する事はできないかなと思っています。
Eric:
私も文化を理解することが一番重要だと思っています。
私はこの20年間で200回ほど太平洋を横断しています笑
そんなこともあり、日本の文化もアメリカの文化も理解しています。
文化を理解する事はゼロから始めると時間がかかりますが、そういう手助けをしたいと思っています。
そのような手助けをできるネットワークを私たちは持っていますからね。
また具体的なアドバイスになりますが、最初にも申し上げたように、セールスが生まれるまでの準備期間を6ヶ月間ほど想定しています。その6ヶ月のリソースをしっかり確保して頂くことが重要かなと思います。
まとめ
私自身今までは、アメリカのビジネスに対して、かなりドライな印象を持っていました。
しかしながら、今回のインタビューから、実際は友人関係のような信頼関係がビジネス構築には必要となる事、またマーケティングでもストーリーが重要視されることなど、想像していたものと違うことがわかりました。
このような文化の違いについて、日本からはなかなか見えてこない部分をサポートをして頂くことは、日本企業にとってアメリカで成功する為の大きなアドバンテージとなるかと思います。
まさに「文化を基にビジネスをリードする」というBoston Marketing Partnersのモットーが重要だなと考えさせられました。