インタビュー , 北米進出

Ex-Googlerに聞く海外スタートアップの日本進出成功の裏側

Ex-Googlerに聞く海外スタートアップの日本進出成功の裏側

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Touch-Baseの8人目のインタビュウィーは宜保さんです。

楽天、グーグルを経て、ニューヨークに単身渡米。その後、ゼロから現地のスタートアップの日本事業の立ち上げを行い成功をおさめる。その後、現地のグロース(※)戦略ディレクターとしてアメリカ市場を中心にグローバルのユーザを相手にしたグロースマーケティングを統括し、現在は起業準備中・・・という素晴らしい御経歴をお持ちです。

日本人として海外で働く上で、日本事業部の中で動くというのは見逃せない選択肢の1つです。今回は日本事業部の責任者として、リソースゼロから成功に至った経緯を伺っていきたいと思います。

(※注釈: グロースとは、短期間で仮説検証を繰り返して事業を成長させること)

プロフィール:
宜保 陽子(ぎぼ ようこ)
上智大学法学部卒。楽天、グーグルでマーケティング・セールスを経て単身渡米。1年間市内の大学でビジネスを勉強した後、NYのヘルスケアスタートアップ Noom, Inc(ヌーム※)に入社。2013年同社サービスの日本事業を立ち上げ、ユーザー数ゼロから2014年Googleベストアプリ受賞へ導く。2016年よりNoom本社でアメリカ・グローバルのグロース戦略ディレクターとしてB2C向け事業の成長戦略立案から実装の責任者を担う。2017年6月Noom退社後、US市場向けD2Cファッション・スタートアップAVANT GARDEを創業し、現在サービスリリースに向け準備中。

(※注釈: Noom, Incとは
NoomはNYを本社とするヘルスケアスタートアップ。モバイルアプリを通じて、一人ひとりの生活にあわせた行動変容(主に減量)プログラムを提供し、ユーザのより良い健康をサポートしている。)

Googleからの単身渡米

野村:
まず最初に、素晴らしい経歴をお持ちですね。

宜保さん:
いえいえ(笑)

野村:
Googleを辞めて単身渡米を決意した理由を教えてください。

宜保さん:
もともとは19歳の時に初めてニューヨークに来て、ニューヨークの活気にインスパイアされたのがきっかけですね。ただ、渡米できればどんな形でも良いというわけではなく、自分の納得できる形での渡米を考えていました。

そんな折りにGoogleからオファーを頂き、自分の渡米の夢が叶うかもしれないと思い入社を決めました。

ただ入ってみると、Googleも大企業なので、アメリカの部署に飛ばしてもらうにはすごく時間がかかることがわかりました。それを当てにして待っているよりは自分で行った方が早いと思い、入社後1年半程で退社し渡米を決意しました。

リソースゼロからのスタート!日本市場の開拓

野村:
その後に、現地での学校生活を経てNoomに入社されたわけですね。
Noom入社当時のお話を教えて頂けますか?

宜保さん:
日本事業部立ち上げのタイミングで事業部責任者としてNoomに入社しました。
入社当初、日本事業部は私以外誰もいない状態で、日本版のアプリリリース後もしばらくはインターン生と2人で日本事業部を回していました。

完全なスタートアップなので外部のリソースを使う予算もなく、ユーザも全てオーガニックで獲得していました。

野村:
具体的にどのようにしてユーザ獲得をされたのでしょうか?

宜保さん:
認知とアクセスが増えない事にはプロダクトが良くてもインストール数も増えないので、まず初めはそこを注力しました。

プレスリリースの際にメディアにアプローチするのはもちろん、それ以外に記者の方にとってベネフィットになるようなトピックを送ってメディアと関係構築を図りました。またジャンルもヘルスケアだけに絞らず、女性向けメディアにもアウトリーチをしつつ、資金調達やパートナーシップの話があればテック系のメディアに連絡を入れるということを繰り返していました。


参考: PR TIMES


参考: ねとらぼアンサー

他にもローソンさんと協賛してキャンペーンを行ったり、オーディエンスが類似するメディアやサービスプロバイダーとのパートナーシップを組んだり地道なことの繰り返しです。

そういうのがきっかけでTVからの取材に繋がることがあるので、とにかく情報を発信し続けることが大切だと実感しました。


参考: 日本テレビ


参考: 日本テレビ

野村:
マスメディアにもアプローチされていたのでしょうか?

宜保さん:
いえ、あくまで間接的にTVの取材に繋がったということです。

もちろん最初からマスメディアのコンタクトリストがあったわけではなく、情報を発信し続けてコンタクトリストを増やしていきました。

特にTVの取材はこちら側が意図して作れるものではなく、運もあります。

野村:
なるほど。

宜保さん:
あとは、日本向けのプロダクトのローカライズに注力しました。

サイズの限られたスタートアップの開発のスピードを考えても、日本版だけアプリの機能変更を加えることはせず、ユニバーサルなものとして統一するというのが会社の方針でした。そのため特にコンテンツ部分のローカライズに注力しました。

主にローカライズを注力した点は2つあります。

1つ目は、日本のユーザに合わせてアプリ内コミュニケーションを変えた点です。

アメリカとアジアではそもそもダイエットをするユーザ層が異なります。
アジア人の場合、ダイエットは美容が目的でユーザは女性がメインですが、アメリカ人の場合はダイエットしないと生活習慣病に陥る可能性が高いような方がメインのユーザです。アジアだと7、8割が女性ユーザですが、アメリカでは4、5割程度が男性ユーザになります。

そのため、たとえば日本向けには女性にも好まれるようなダイエットtipsやコンテンツを加えたり、といった調整を加えることもありました。他にもアプリ内のAIプログラムでは、コーチのトーンも、英語版ほどカジュアルすぎない言葉に変更するといった小さな最適化もたくさん施されています。

野村:
なるほど。

宜保さん:
2つ目は、当たり前ですが日本食のIndexを改善した点です。

日本語は平仮名・カタカナ・漢字があり、英語と比べてとても複雑な言語です。

その上1つの物を表す言葉が複数存在することもあります例えば「おにぎり」と「おむすび」のように、同じ意味でも2-3通り以上の言い方が存在する単語があり、アプリ内の検索ログを見ながらそういう類義語をリストに追加していきました。また、ログしたいアイテムが存在しない場合はユーザーが報告できるような仕組みをアプリに実装し、随時ローンチしていました。

他にも、日本とアメリカでは特定のシチュエーションで食べるものが異なります。
例えばアメリカでの間食のリストにグラノーラがありますが、日本で間食にグラノーラを食べる事は一般的ではないので、他のものに代替えしたりしました。

細かいことかもしれませんが、ダイエットのアプリで食事を記録するということはストレスがたまるもので、検索しても該当するアイテムが出てこないとモチベーションをそがれます。そういうことがないように日本食のIndexを繰り返し改善しました。

BtoCからBtoBの市場へ

宜保さん:
日本事業拡大するにあたり、途中からB2Bをより強化する戦略をとるに至りました。

日本の場合、近年「健康経営」をはじめ、医療費の削減を目標とした政府や企業の施策が多くあります。なので、Noomのような「予防」に変わるソリューションの需要が日本ではとても高いんです。

例えば、健康診断で肥満や糖尿病予備軍と診断され、生活習慣の改善が必要と判断された方が参加するプログラムや、リスクの高い人向けの特定保健指導といったプログラムがすでに存在します。

Noomのアプリは数々の臨床実験で科学的にも有効性が証明されており、アプリを通じてスケーラブルなポピュレーションに安価で且つ「結果(減量)」を提供することが求められる、企業向けに注力していく方が理にかなっていると考えたんです。

野村:
健康組合や病院にリーチされたということでしょうか?

宜保さん:
そうですね。健康組合以外でいうと一般の企業もあります。

日本でも、数年前から予防の分野に注目が当たりはじめ、ヘルスケア事業部を抱えている企業様が増えています。

当時は、情報収集の一環で来てくださる企業様が多く、アメリカではどのようにやっているかというのを聞きいらっしゃる方が多かったです。そういう企業様に向けて説明会を開いて、Noomのサービスの活用方法を提案していました。

野村:
教育の部分からされたということでしょうか?そうなってくると、導入前に時間がかかって大変だったと思います。

宜保さん:
そうですね。
ただ、Noomの場合はBtoBの領域に注力する前に、幸い Google Bestアプリ を受賞できたこともあり、特にヘルスケア業界の方には認知していただいていたのと、その頃にはいわゆる予防ソリューションを提供する競合企業が多く出てきたこともあり、ある時期からは一からコンセプトを説明する、といったことは多少減りましたよ。

むしろ苦労したのは、日本のビジネスの慣習をマネジメント層に理解してもらう部分でした。

BtoBになると、ビジネスの進め方の違いが露骨に出ます。

小さな一例ですが、アメリカだと国土も広いこともあり、直接会って打ち合わせしなくてもビデオ会議などを通じてリモートで物事が先に進みますが、日本の会社だととりあえず会って話をしましょうとなります。

まずは情報交換から入って、複数回対面の打ち合わせがあってから決断をするので、プロセスが長く、関係を築くまでに時間がかかります。

その他にも、書類のサインなどアメリカでは電子サインで済むのですが、日本だとまだ印鑑が主流なので電子サインではNGだったりと、小さなことですが時間差を生みます。

あくまでもこれらは一例ですが、日本ならではのビジネスの進め方や進捗を頻繁にマネジメントとコミュニケーションをとり、理解させることは、日本の責任者としてとても重要なことだったと感じます。


画像: 日本チームとNoom本社メンバーとのチーム・アウティング

最後にひとこと!

野村:
最後に読者にひとことお願いします!

宜保さん:
海外進出をしたいマーケターの読者の方が多いということなので、そういう方に対して、、、
もし海外で挑戦したいという目標があるのであれば、ぜひ挑戦してほしいと思います!最後は自分自身が決断することでしかないかな、と思うんです。

以前、Googleをやめてニューヨークに来た事について記事を書いた事があります。
その後、学生から社会人まで海外で働きたいという方から連絡を頂くようになりましたが、日本を出るという決断に至らない方も多い印象があります。

もちろんアメリカで仕事を見つける、または事業を始めるということは簡単なことではないと思います。その上、日本のような失敗が許されない社会にいると「もしアメリカに行って失敗したら。仕事が見つからなかったら」という不安を抱くのは普通だと思います。ただ、その不安は大抵、アメリカという国で仕事をするためのその方法やプロセスについて不明瞭で、漠然としているからだと思います。

なので、周りの経験者に話を聞く、とかリサーチをたくさんしてほしいなと思います。そうすることで自分に足りないスキルやバックグラウンド、アメリカの企業で就職するのに必要なビザステータスなどについても明確になり、行動に移しやすいのかなと思います。
野村さんが運営するこのTouch-Baseも、そういった海外で活躍されるマーケターの方のリアルなストーリーを知る良いリソースだと思います。頑張ってください。

まとめ

今回は宜保さんにお話を伺いました。海外スタートアップの日本事業部責任者として、ここまでバリバリ活躍された方になかなかお会いする事がなく、とても勉強になりました。何事も地道なことの積み重ねが大切だと改めて実感しました。

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