今回は、北米を中心に日本の食品や食材の輸出を手掛ける商社に勤める山根雄介さんにインタビューさせていただきました。
アメリカでは、日本食はヘルシーとのイメージが強く、その人気は高まりつつあり、今後も米国市場において日本食は大きな可能性を秘めていると言われています。人口減少により日本の国内市場が縮小しつつある中、中小の食品会社にとって米国市場は販路拡大の打開策にもなることでしょう。一見ハードルが高そうな米国進出ですが、適切な戦略を立てて取り組むことで、成功の道筋が見えてくるはずです。今回、米国進出を情報収集、パートナー選び、輸出・販売という3つのフェーズに分けて、それぞれのフェーズで知っておきたいことや取り組みたいことを、多くの米国進出事例を手掛けてきた山根さんにお伺いしました。
北米を中心に欧州・アジア主要各国への日本食品・食材の輸出を手掛ける商社、クラウン貿易に在籍。日本食輸出商社にて15年間、北米を中心に欧州・アジア主要各国の取引先に向けた日本食材の提案営業に従事。日本食がユネスコ無形文化遺産に登録され世界中に広がっていく一方で、食材の現地化によって日本産食材の需要が伸び悩んでいることにジレンマを感じる。Umami Insiderとの協業により、生産者の想いを、これまでとは違った形で現地に届け、新しい需要を生み出す為に日々奮闘中。
Umami Insider (メディア): https://www.umami-insider.com/
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インタビュー前編: 中小食品会社のアメリカ進出の流れと押さえておくべきポイント10個
インタビュー後編: [中小食品会社のアメリカ進出] 成功企業、そうでない企業の傾向、そしてUmami Insiderの魅力
目次
Phase 1:「情報収集」のポイント4つ
01 現地のバイヤーやアメリカに進出済みの企業に話を聞く
野村:
中小食品会社で米国進出を目指す企業は今後も増えてくると思いますが、どのようなことから始めたらよいでしょうか。
山根さん:
米国進出を目指すきっかけは様々だと思いますが、現地のバイヤーやアメリカに進出済みの企業に話を聞いてみるのが最初のステップになるかと思います。
今のコロナ禍の状況ではなかなかそういう機会を作るのは難しいかもしれませんが、農林水産省やJETROがオンラインのイベントを開催し、現地のバイヤーを招待して商談する機会を作ってくれています。そうした機会を利用して、自社の商品がアメリカ市場でどのような反応があるかを直接ヒアリングしてみるのもおすすめです。
Umami Insiderとして展示会に出展した際の写真。実際に、現地バイヤーの声を聞くことで参考になる意見を貰うことができる。
02 Webの情報は深さや質が様々、読み込んでしまうとハードルが上がる
山根さん:
最近はWebで情報を得ることが一般的ですが、アメリカの輸出規制などは日々刻々と変わっているので最新情報を入手することはなかなか難しいです。さらにそこに書かれていることが、最初の進出のタイミングで考慮すべき内容なのか、それとも現地に法人設立する際に考慮すべきことなのかの判断も難しいと感じています。
最初の段階でWebの情報を読み込んでしまうと、何から手をつければいいのかがわからず「アメリカ進出は難しい」となりがちです。情報収集した上でわからないことがあれば、直接アメリカで事業をしている会社に質問した方が、必要な情報を効率よく収集できるのではないかと思います。
03 初期段階ではどういう人に届けたいかの仮説立てが重要
野村:
「スタート時に取り組むべき課題」とは具体的にどういうものがありますか。
山根さん:
「アメリカ進出」となった時に、アメリカのGDP、人口推移、マーケットの成長率などアメリカ全体の情報収集から始めるケースを目にします。
これらの情報ももちろん重要ですが、それ以上に重要なのは自社の商品をアメリカの「どういう人に届けたいか」を明確にし、そのために何をすべきかを考えていくことです。
もちろん狙い通りにいくかどうかは実際にやってみないとわかりませんが、予めターゲットの仮説を持ってマーケットを見ていくことはとても重要です。
「食」は個人個人で趣味や嗜好が分かれます。海外における日本食となると尚更です。同じ地域でも日本食を食べる人もいれば食べない人もいますし、同じぐらいの所得水準でも日本食への関心は人により異なります。そのため、地域や所得といった切り口で顧客を分類し、その中の特定の層にアプローチしていくというやり方が難しいなと感じています。
なので、まずは「どういう人に伝えていきたいか」を明確にした上で、現地で活動している事業者やパートナー企業の意見を聞くことをおすすめします。
04 まずは国内の事例を収集することから始める
山根さん:
アメリカのマーケットの状況は実際に行ったことがないとイメージがしづらいかもしれません。
ただ日本国内にいながらでも出来ることは色々とあります。例えば、国内の卸先にもアメリカから来られた観光客を相手にビジネスをしている小売店やレストランがあるかと思います。
それらの小売店やレストランが、なぜ自社の商品をアメリカの観光客に向けて販売してくれているのか?その提案方法は?など国内の事例を調べてみるだけでも、アメリカでどうやったら売れるかを具体的にイメージできるようになるので確認する価値はあると思います。
Phase 2: 「パートナー選び」のポイント3つ
05 アメリカでブランド認知があれば自社販売。なければパートナー企業を活用
野村:
情報収集の次のステップは何でしょうか。
山根さん:
アメリカで商品を流通するためには、当然現地に商品を届ける必要がありますが、そこが最初のハードルです。どれだけ良い商品でも、現地へ届かなければ消費者の手には渡りません。
そして商品を販売するには、商品を預ける現地パートナー事業者が、商品を届けたいターゲットの消費者に繋がる販売チャネルを持っている必要があります。そのため、現地のパートナー事業者の選定、及び連携強化はとても重要です。
自社が狙っている消費者層や商品への想いを理解してくれる現地のパートナー事業者であれば、その後の物流やマーケットへのアプローチ方法など、次のステップに進みやすいです。
野村:
現地での商品の販売には、自力での販売と現地の事業者と組む方法の2つが考えられると思いますが、どちらが良いでしょうか。
山根さん:
商品がアメリカで既にある程度認知されていたり、ブランディングがされていて消費者が検索してくれる状況であれば、Amazon等を使って自社の力だけで販売していくことも可能だと思います。
しかし日本食は世界中に進出していて市場規模は拡大しているものの、まだまだ個々の商品や食材を認知している消費者の数は少ないのが実情です。
そのため、ほとんどの企業は自社の商品をどのように発信していくかが最初の課題になります。「効果的に認知を増やすために、どういう人にどのようにPRすべきか」という部分は知識や経験がある現地の事業者と一緒に進めていくのが近道です。
06 輸出商社と組めば、必要なものは一式そろう
野村:
食品会社がアメリカ進出する際に、どのようなパートナーと組むケースが多いですか。
山根さん:
私の立場からこういうことを言うと宣伝のように聞こるかもれしませんが笑、米国進出のスタート段階では、我々のような輸出商社と組むケースが多いように思います。
輸出商社と組めば色々な細かいことへの対応が可能で、食品会社のアメリカ進出に必要なサポートを包括的に受けることができます。
ただ、物流や販売などに特化したプロフェッショナル企業もいますので、状況に応じて臨機応変に組み合わせた方が良いかと思います。
もし最初のステップが分からないという状況であれば、輸出商社と組むのが良いかと思います。
ワシントンD.C. にヘッドクォーターを置く全米のレストラン組合、National Restaurant Associationのイベントに参加した際の写真。常にアメリカの食事情にアンテナをはっている様子が伺える。
07 いきなり現地市場を相手にするなら米系商社もあり。ただ一定の認知度が必要
野村:
中にはアメリカの商社と提携する会社もありますか。
山根さん:
アメリカの商社と組むことできれば、最初からアメリカのメイン市場に入っていくことも夢ではありません。ただ、その為にはアメリカの商社が「あえてその商品を取り扱う理由」を作ることが不可欠で、それがなければ、当然相手にして貰えません。
中にはインスタグラムなどのソーシャルメディアや英語の媒体を活用して、日本式のモノづくりが海外で先行して注目される会社もあります。そういった場合、米系商社側から商品取り扱いのリクエストがくる事例もございます。
アメリカでの認知度に応じてやり方が変わってきますが、取り組み方はケースバイケースです。
Phase 3:「輸出・販売」のポイント3つ
08 小売店の棚に穴を空けないよう、経験+商品を理解しているパートナーが必要
野村:
アメリカの消費者に商品を届けるまでの期間は最短でどれぐらいですか。
山根さん:
輸出パートナーが決まった後は、登録作業や物流・輸送の日数がかかります。
商品登録にかかる時間は最短で1か月ほどです。それ以外にかかるのは、商品の輸送時間。西海岸は船便で日本から2週間強、東海岸は4週間ぐらいです。その前後に輸出通関手続き、輸入通関手続きなどそれぞれ1週間程度かかります。
そのため、製造元の手を離れて(商品を国内で納品して)から、西海岸は1か月、東海岸は1か月半ほどで商品が現地に届き、販売可能となるイメージです。
野村:
なるほど。
山根さん:
日本からアメリカに商品を届けるまでタイムラグがあるので、最初の段階でいかに現地のニーズを読んで適正在庫を把握するかも重要なポイントになります。
例えば、売れ行きが良くて商品がすぐに売り切れてしまった場合、次の入荷までの間、お店を困らせることになってしまいます。逆に、在庫を持ちすぎると倉庫代がかかってしまう上、最悪、賞味期限切れによって商品を廃棄することになるリスクも発生します。
アメリカでの商品販売において、もちろん販売努力や資金回収も重要ですが、販売予測と適正在庫管理も同様にとても重要です。流通事業者のノウハウが活きてくるのがまさにこの部分だと考えています。
Amazonなどを使って自社販売する場合は、この在庫調整を自身で行う必要があります。
野村:
適正在庫の維持にはある程度の勘が必要となってきますか。
山根さん:
そうですね。「勘」と「商品の理解」が必要になります。どれだけ経験があっても商品のことを理解出来ていなければ勘も働きません。
商品のことをよく理解して消費者に伝えるのが流通の役割ですので、流通の人たちに自分たちの熱量や商品のこだわりをしっかり伝えることが、適正在庫を確保してもらうことにも繋がってきます。
09 商品が良くても決まるタイミングがずれることがある
野村:
計画が決まってから現地での販売スタートまで、最短で3か月ぐらいのイメージでしょうか。
山根さん:
だいたいそれぐらいのイメージです。
野村:
現地で販売を開始するまでに時間がかかるケースはありますか。
山根さん:
国内も同様だと思いますが、販売先(レストラン、小売、消費者)によってタイミングが異なり、それぞれのお客さんが購入したいタイミングはこちらでは決められません。このことが「輸出」となった途端に忘れられがちなように思います。
小売であれば、季節ごとの新商品を入れたいタイミングがあります。レストランであれば、定番メニューは頻繁に変えませんが、季節のメニューを考えるタイミングがあります。
冬にふさわしい季節商材であれば、夏に商談して秋に到着するようなスケジュールで動くのが一般的です。そのため、商談を春にしていた場合、採用するか否かの決定は夏以降になってきますので、採用決定までの時間は長くなります。また、既にメニューが決まってしまっていた場合は、翌年以降に持ち越される可能性もあります。
商品の販売は、ニーズのあるお客さん側のタイミングによりますので、決まるタイミングにバラつきがあります。
10 一度、断られたからといって諦めない。フォローアップを続ければ可能性はある
野村:
そうすると、先を見越して早い段階で商談を開始したほうが良いでしょうか。
山根さん:
そうですね。商品を投げてみないと相手の反応は分からないので、早い段階での商談をすべきです。簡単に断られるケースも多いと思いますが、単にそのタイミングでニーズがないだけ、ということもあります。
クドすぎても良くないですが、一度だめだからといってあきらめないことも重要です。
同じ人に繰り返し紹介する、別の会社にアプローチしてみるなど、色々と方法はあるかと思いますが、最初はタイミングが悪かっただけで、二度目以降はスムーズに話が進んだという事例も良く聞きます。諦めずにチャレンジしていただきたいと思います。
食品会社のアメリカ進出!成功企業と失敗企業の傾向
アメリカで成功する食品会社の傾向
野村:
アメリカでの成功している中小規模の食品会社の傾向を教えてください。
山根さん:
以下3つの事例が思い当たります。
1つ目は、日本側から英語で情報発信を行い、現地での需要をうまく作り出している事例。この会社は、物流専門会社やAmazonを使って自社販売を行っておられます。
2つ目は現地でセールスレップと契約し、現地で積極的なPRを行っている事例です。現地の声を拾えることを強みとして機動力を武器にして顧客獲得を進めておられます。
そして3つ目は、現地のレストランやスーパーで試験販売をして、その実績を元に他のお店に商品提案をしているケースです。
テスト販売を通して、現地でのニーズがあることを確認してから提案することにより説得力が増し、商品の採用率も高いです。
野村:
テスト販売の棚やスペースはどのようにして借りられるのでしょうか。
山根さん:
商社など現地にパイプを持っている方に相談するのが良いと思います。行政が企画する現地の物産展に参加するのもいいかもしれません。現地視察渡航の際に小売店に直接話を持ちかけるケースもあります。
最初は難しいかもしれませんが、パイプを持ってそうな人にまず相談することが出発点になると思います。
アメリカで失敗する食品会社の傾向
野村:
逆に、アメリカで失敗している会社の事例を教えてください。
山根さん:
1つ目は誰にどのように売っていきたいかが不明確な事例。結果的に意図しない形で販売されてしまった例がありました。
先程の適正在庫の話とリンクしますが、商品が売れずに在庫が積みあがってしまうと、流通サイドは在庫をさばくために値引き販売を余儀なくされます。これが続くと、もともとは高い値段で売るというコンセプトでスタートしたのに、安く買えるというブランドイメージがついてしまいます。すると、セールの時にしか商品が売れず、その後高い値段で買ってもらうことが難しくなります。
誰にどのように売っていきたいかが曖昧だと、目指している姿と実情に乖離が生じてしまう恐れがあります。
2つ目は、パートナーに丸投げしてしまう事例でしょうか。
メーカーの熱量が卸の担当者に伝わらないと、その先の消費者へもその熱量が伝わりません。熱量が伝わらないと結局数ある商品の1つとして認知されてしまいます。
商品の特長がきちんと消費者に伝われなければ、消費者は有名ブランドや安価な商品しか手に取ってくれません。
丸投げしてしまうと、売れない理由だけでなく売れている理由もわかりません。検証が出来なければ、やはり意図した形で消費者に提案していくことも難しくなってしまうので、しっかり市場と向き合う姿勢は大切だと思います。
食品メーカーの想いをアメリカへ!Umami Insiderの魅力とは
野村:
これまでのお話を伺っていると、食品会社のアメリカ進出にはマーケティングが重要という印象を受けました。このマーケティングの課題を解決するためにUmami Insiderとパートナーシップを組まれたかと思いますが、Umami Insiderとの協業を通して実現したいことは何でしょうか。
山根さん:
まず、Umami Insider事業の概要をご紹介させて下さい。
クラウン貿易は、商社として現地に食材を届けること、そしてそれに付随した日本側での規制対応や我々が持っている既存のマーケットへのセールス活動を行っています。一方、Umami Insider はアメリカ現地で日本食の情報発信を行っているフードメディアであり、日本食に特化したマーケティングサービスを提供しています。
クラウン貿易の商社の知見とUS現地のUmami Insiderの発信力とマーケティング力を活かして、物流から情報発信・PR、さらにUmami InsiderのECサイトでの販売とUmami Insider以外の販路開拓まで一貫してサポートができるようになりました。いわば、日本食のアメリカ進出支援プラットフォームという位置付けです。
これまで様々なメーカーさんとの取り組みの中で強く感じるのは、メーカーさんの「こだわり」や「想い」が現地まで十分に伝わっていない、ということです。
その大きな理由は、情報が流通の過程で薄まってしまうこと、また消費者に響くポイントが日本とアメリカで大きく異なり、メーカーさんが考える商品の価値と、現地の人達がその商品に見出している価値がずれていることなどが考えられます。
ただ、メーカーさんが独自にこの違いを見つけて適切なマーケティング戦略を立案するのは現実的に難しく、それがメーカーさんにとって一番大きな課題だと考えています。
そこで、我々がその部分を代行し、戦略を考え施策を実行します。また、その結果をメーカーさんにフィードバックし、一緒になって次の戦略を考えていく、という循環を考えてます。
まず、現地でどのようなマーケティング戦略を立てるかがこの取り組みを行う上で一番のポイントですが、その点をUmami Insiderとの提携によりフォローできるようになりました。
商品の魅力の言語化とアメリカ市場に響くコンテンツ作り
野村:
食品会社は具体的にどのようなサポートを受けられるのでしょうか。
山根さん:
まず1つ目は、商品の魅力の言語化と、それをアメリカの消費者に届くコンテンツに作り変える部分のサポートです。
メーカーさんと話をしていると、商品の魅力やこだわりを日本語でもきちんと言語化できていないケースが散見されます。
強いこだわりがあり、それが社内全体の共通認識になっているにも関わらず、それが会社紹介やカタログのどこにも載っていないということもあります。当たり前すぎて会社の魅力として認識されていないのかもしれませんが、それは非常にもったいないです。
英語への翻訳にあたっては、グーグルなどの機械翻訳で言いたいことの主旨は伝わるかもしれません。ただ、細かいニュアンスを捉え、現地の人にとってしっくりくる表現にすることで、商品の魅力を現地の人に理解してもらいやすくなります。これは現地にいないと分からないことですし、日米の文化を理解している翻訳のスペシャリストが必要になります。
これらを自社で全てやるのは難しいので、我々は、日本側では会社の強み・魅力の洗い出し、そして、現地では英語化のサポートを行っています。そして、どのように発信するとどういった反応があるか、といったことをメーカーさんと一緒になって考えていきます。
消費者の「欲しい」の創出と欲しい時に「買える」環境の提供
山根さん:
2つ目は、Umami InsiderのメディアとECサイトを活用した全米への商品販売サポートです。
情報発信と商品販売を結び付けることで、アメリカ側での需要を生み出し、そして欲しいと思ったタイミングですぐに買うことのできる環境を作り出しています。
これまで展示会や物産展が終了した後、その商品に興味を持っている消費者が商品を買うことが出来ないというケースがありました。
展示会や物産展で商品を購入し、商品を気に入って再度買いに戻った時には展示会・物産展が終わっていて商品が売られていなかった、という状況です。せっかく顧客がついているのに、もう一度商品を渡すチャンスを逃してしまっているのは勿体ないです。Umami Insiderではこういう課題を解決出来ればと思っています。
野村:
展示会や物産展出展後に、Umami Insider側で在庫を抱えてくれるということでしょうか。例えば、1年後まで商品がアメリカ消費者に届けられる状態におくのは大変かと思いますが。
山根さん:
我々のアプローチとして、最初から大規模に在庫を抱えることはしておらず、販売実績に応じて少しづつ取り扱う在庫量を増やしていきます。そのため、中長期的にアメリカの消費者に届けられる状況を作ることができます。
例えば、最初に月10ケースずつ売れると見込んだ商品をいきなり100ケース仕入れてしまったら、商品が売れなかったという結論になってしまいますが、我々は月10ケース売れる見込みのある商品の場合、少し多めに30ケース仕入れて販売努力を行います。
そして30ケースをクリアできたら、もう少し発注量や在庫量を増やしていく、といった形で継続的に売上を伸ばしていくことを目標に取り組んでいます。
野村:
売上を伸ばす手段としてUmami Insiderのメディアだけではなく、マーケティングやプロモーション全般をサポートしてもらえるのでしょうか。
山根さん:
そうですね。
マーケティングやプロモーション施策にもそれぞれコストがかかってくるので、全てを我々で負担する訳にはいきませんが、施策内容に応じてメーカーさんと相談しながら進めていく形を考えています。
野村:
なるほど。
日本食品のチームを作って消費者目線のプレゼンテーション
山根さん:
我々はいくつかの食品会社さんをチームにすることで、効率的かつ効果的な取り組みができると考えています。
例えば、5社の食品メーカーさんが出張を計画して各社の担当者さんが個別に渡航した場合、1社あたりの出張経費を60万円とすると、5社の出張経費は合計で300万円となります。
仮に、私がその5社を代表して1人で出張に行けば、出張経費は5分の1で済ませることができます。みなさん同じような気持ちで同じような取り組みをされているので、そうした会社さんがチームになることで効率的に取り組みができますし、コスト削減もできると思います。
また、食品会社がチームになることで、消費者に向けてそれぞれ個別にアプローチするより魅力的なプレゼンテーションができると考えています。というのも、アメリカの消費者が日本食材を買うきっかけとして、日本食メニューを作りたいという購買動機が多いからです。
つまり素材そのものよりも、作りたいメニューを作るために食材を探している。例えば、醤油を食べたいと思って買いに来るというよりは、家でお寿司が食べたくて醤油を探しています。
そのため醤油単体ではなく、お寿司を作りたい人に、しょうゆ、わさび、のり、ごはん、お酢などをまとめて販売すると喜ばれます。
それぞれの食材を持っている人たちがチームになることで、より消費者目線の提案ができると考えています。
Umami Insiderとして展示会に出展した際の写真。メーカーと協力して商品の魅力をPR。
アイデアを双方向で磨き上げていけば、アメリカ市場はポテンシャルがある
野村:
アメリカの消費者からの反応で印象的だったものはありますか。
山根さん:
コロナの前、ニューヨークでアメリカ人のシェフやバーテンダーを招待して、日本の食材を使ったカクテルを紹介するというイベントを開催しました。
バーテンダーは日々新しいレシピアイデアを考えておられるクリエイティブな職業なので、その方達に日本食材を紹介するとどんな発想が得られるかを試すイベントだったのですが、1つアイデアを投げると、我々日本人が考えもしなかったようなアイデアが次々に返ってきました。
ラムと薔薇シロップを使ったカクテルを制作中のバーテンダーの様子 (左)と日本の食材を使ったカクテルとおつまみのメニュー (右)。現地のバーテンダーとアイデアを出し合い、斬新なカクテルのラインナップが並ぶ。
この経験から学んだことは、自分たちのアイデアをそのまま受け取ってもらおうとするのではなく、まずはこちらのアイデアをアメリカ消費者にぶつけてみる、そして相手のリアクションやフィードバックを受け取って、さらにアイデアを磨き上げていくことができるということです。
このプロセスを通して、アメリカのマーケットで受け入れられるアプローチが明確になり、アメリカの消費者にもっと喜んでもらえるやり方が見つかるのではと思います。
アメリカは成熟市場と言われますが、日本食材を知らない人たちに対してまだまだ紹介できるポテンシャルがあると確信しています。
最後にひとこと
野村:
今後アメリカ進出を考えている中小の食品会社へ伝えたいことがあれば教えてください。
山根さん:
アメリカへの輸出は規制などもあってハードルが高いと思われがちですが、取り組み方さえわかれば対応できる企業も多いと思うので、ぜひチャレンジしてほしいです。
これからの時代、海外に限らず国内においても、「自分たちの取り組みをきちんと消費者に伝えていくこと」が必要になってくるのではないでしょうか。
輸出という取り組みをそれ単体で捉えるのではなく、これまで商品を知らなかった人(特に外国人)に伝える取り組みの一環として捉えることで、輸出に取り組む意義はより大きな意味を持つのではないかと思います。
そして、アメリカへの商品輸出のオプションの1つとしてUmami Insiderを考えていただけたら嬉しいです。
野村:
ありがとうございました。
山根さん:
最後に余談ですが、日本食がアメリカでこれだけ広まっていったのは、現地で活躍されている日本人のおかげだと思っています。日本人がホームパーティーでふるまった日本食から、そのメニューを知ったというアメリカ人の方は多いはずです。
我々商社や現地の小売店・レストランも日本食PRをビジネスとして行っていますが、現地にいる日本人や日本に縁のある方はビジネスとしてではなくとも、日本食を広めることに大きく貢献して下さっています。
現地の日本人たちと一緒になって日本食を普及することができれば、ビジネスという枠を超えて、日本食の魅力をより一層世界へ発信することができるのではないかと思います。また将来的にUmami Insiderがそういった皆様のコミュニティの場になれればいいなと思っています。
まとめ
今回は、北米を中心に日本の食品や食材の輸出を手掛ける商社にお勤めの山根さんに、中小企業のアメリカ進出に際して押さえておくべきポイントについてお話をお伺いしました。
「商品の良さを言語化する」というのは日本国内でのマーケティングでも重要なポイント。
アメリカ進出を「自社商品の良さを言語化するきっかけ」にするというお話が印象的で、海外進出は国内での販売活動の延長線上にあるのだと改めて再確認させられました。
実体験に基づく貴重なお話をありがとうございました。