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米サステナブルファッションの牽引役、thredUP(スレッドアップ)の成長戦略

米サステナブルファッションの牽引役、thredUP(スレッドアップ)の成長戦略

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パンデミックにより苦戦を強いられたり、ビジネスの軌道修正を迫られたり、と多くの経営者が試行錯誤を続ける中、既存のビジネスを急拡大して売上を伸ばしている会社があります。それは、オンラインで古着の委託販売を行うカリフォルニアを拠点とするthredUP(スレッドアップ)

2009年の設立以降、1億着もの衣類を受け付け、45万トンの二酸化炭素の節約に貢献したと言われています。長引くパンデミックの中で、2021年3月にはナスダック市場への上場も果たしました。

thredUPのビジネスは、どうしてここまで急成長できたのでしょうか。消費者としても何度も利用した体験を踏まえ、thredUP躍進の秘訣を探ってみたいと思います。

thredUp誕生秘話

thredUPは、共同創業者でありCEOであるジェームス・ラインハルトさんのある疑問から始まりました。

クローゼットに一度も着ていない洋服がたくさんあるのを見て、こうした洋服にも価値があるのではないか、と思ったのです。そして、同じ想いを持った人は自分以外にもいるだろう、と感じたことが会社誕生へとつながりました。

2009年の起業当初は、「洋服は成長しないが、子供は成長する」をキャッチフレーズに、子供服事業に専念。2012年に最初の配送センターを設けてビジネスは拡大。その翌年には女性服にも参入し、今に至っています。


thredUP最初の配送センター。©thredUP

日本でも2013年にメルカリが誕生して以降、以前よりも古着に対する抵抗は少なくなっていると思います。アメリカは日本よりもはるか前、私が渡米した2009年には既にマンハッタンの一等地で古着屋さんを見かけていました。

目を見張るような高い家賃で知られ、人気店でさえも生き残りにしのぎを削っているマンハッタンのこうした光景に、驚きました。

非営利団体のボランティアスタッフが運営しているお店もあれば、高級住宅街として知られるアッパーイーストでは、裕福な近隣住民が委託した未使用、またはほぼ使用されていない有名ブランドの洋服や靴を専門に取り扱っているお店もあるほどです。


非営利団体Housing Worksが運営するマンハッタンの店舗 ©Housing Works

見ず知らずの人が身に付けたものに対して大きな抵抗がない人がもともと多かったのは、良いものが手ごろな値段で手に入るのであれば、モノの背景には特にこだわらない、というアメリカ人の合理的思考ゆえかもしれません。

thredUP躍進の鍵

そうした土壌の中で誕生したthredUP。競合他社が多いものの、オンラインでの古着の委託販売という分野で一人者としての地位を築くことができた理由は、大きく分けると3つあると思います。

それは、細かい点まで徹底的に消費者目線で設計された使い勝手が良いサービスであること、そして、SDGsの機運の高まりとともにアパレルの世界での大量生産・大量消費のモデルに疑問を呈する人たちが増えてきたこと。さらに、アパレル業界を中心に戦略的に提携を進めて事業を横方向に広げていったことも注目すべき点です。


様々な商品が並ぶthredUPのホームページ。

それでは、これらを一つずつ見てみましょう。

成長した理由#1: 徹底的に考え抜かれた消費者目線のサービス

thredUPを委託者(販売者)として初めて使用した人は、あまりに簡単なプロセスに驚くことでしょう。

他社のサービスでは、自分で洋服の写真撮影から写真の加工、サイトへの写真の掲載、お客さんとのやり取り、発送まですべてを自分で行わなければいけません。部屋の整理をしている過程で、捨てるのがもったいないので誰か喜んでくれる人に譲りたい、という気軽な気持ちで行うには相当な負担です。

また、サイトに掲載してもいつ売れるか分からないので、それまでの間、自宅で商品を保管していなければいけませんし、お客さんからの問い合わせにも対応しなければいけません。私は、そんなに換金価値が高いわけではないものに、ここまでの時間と労力を使うのがもったいなくて、以前はいらなくなった洋服は近所のリサイクルボックスに投函したり、捨ててしまったりしていました。

私が以前住んでいたブルックリンは、環境問題への意識が高い人が多い場所で、近所に大きな洋服のリサイクルボックスがあって重宝していました。いつでも好きな時に投函できる利点はありましたが、洋服がその後どのようにリサイクルされたのか、本当に環境へ悪影響が出ない方法で処理されたのかは分かりません。

パンデミックの最中、自宅を整理してたくさんの洋服が出てきたとき、試しにthredUPのサービスを使用してみたのが、私とthredUPとの最初の出会いです。thredUPのサイトから洋服を詰める袋、通称クリーンアウトキットを注文(無料)すると、配送ラベルがついた大きくて丈夫な袋が届きます(自宅にある適当な袋に詰めて送ることも可能です)。その袋にいらない洋服を好きなだけ詰めて、郵便局へ持ち込むだけ。送料はthredUPが支払い済みのため、郵便局の回収箱に入れてしまえば、郵便局が混んでいても待ち時間もかかりません。


thredUP から届く郵送用の袋、クリーンアウトキット。


自宅にあるいらなくなった洋服をこのようにしてクリーンアウトキットへ詰めていきます。©thredUP

thredUPに届いた洋服は、先方が査定し、マネキンに着せたきれいな写真を準備して彼らのホームページに掲載をしてくれます。そして、商品が売れるとthredUPのスタッフがお客さんへの配送を行い、一定の手数料を差し引いた残額が、私たちの手元に届くしくみです。


商品が売却されるとthredUPから届く通知メール。

委託側としては、従来手間がかかっていた多くのプロセスをthredUPが行ってくれるので、負担はほとんどありません。何より、委託販売という形で、販売前に商品を先方が引き取ってくれるため、自宅の断捨離をどんどん進めることができるのも魅力的です。

また、thredUPのプラットフォームで綺麗な写真を掲載してくれるため、他社のプラットフォームと比べて商品も売れやすいです。thredUPと類似したビジネスはありますが、高級ブランドに特化しているため、特定のブランドの商品しか引き取ってくれません。一方でthredUPは取り扱いブランドの幅も広く、日本独自のブランドの洋服も引き取ってくれたのには驚きました。

では、購入者側としてはどうでしょうか。前述したように、商品の写真撮影をthredUPのスタッフが全て行ってくれるため、オンライン上で商品の統一感があってとても見やすいです。また、庶民派ブランドから高級ブランドまで幅広いブランドの取り扱いがあるため、多くの消費者を取り込めるメリットがあります。さらに、前述したように簡単なプロセスであることから委託者が増えていることにより、各ブランドの商品のラインナップも充実していて、買い手側の選択肢が多く、今や通常のアパレルブランドのホームページのようになっています。

成長した理由#2: 高まるサステイナブルファッションへの注目

このように、委託者、購入者にとってwin-winの関係を構築したthredUPですが、現在までの大躍進の裏には、SDGsへ敏感な人たちが増えてきたことによる時代の機運も大きく関係していると思います。

近年、アパレルビジネスの地球環境への悪影響が深刻な問題として取り上げられるようになり、サステイナブルファッションへの注目が集まっています。安くて手軽に買えると以前はもてはやされていたファーストファッションの功罪が議論されるようになると同時に、児童の強制労働や人権を無視した労働環境で働く人々がアパレル業界を下支えしていることも社会問題として世界各国のメディアが取り上げるようになりました。

そして、ブランド各社のサステイナブルを意識した取り組みへが、消費者行動にも影響を与えるようになったのです。こうした時代の流れがthredUPのビジネスを後押ししたことは間違いありません。

成長した理由#3: ウォールマート、eBay、レントザランウェイ等、他社との積極的なパートナーシップ

thredUPの躍進はそれだけではありません。シナジー効果が期待されるアパレルビジネスや他社のオンラインプラットフォームとの巧みな提携が、thredUPの事業の拡大を後押ししています。

その一つが、2020年5月に発表されたアメリカの大手スーパー、ウォールマートとの提携。ウォールマートと言えば安売りで知られ、全米で事業展開をしているスーパーですが、thredUPとの提携により、ウォールマートのオンラインサイトにthredUPの商品が並ぶようになりました。こちらのサイトを通じて買った商品の返品はウォールマートの店舗で受け付けるという利便性も話題を呼んでいます。


ウォールマートのホームページ内のthredUP特設ページ。

また、アメリカのオンラインショッピングサイトの大手、eBayのサイト内にもthredUPの特設コーナーがあり、thredUPの商品を購入することができます。

さらに注目すべき話題は、貸しドレス事業でその地位を築いた Rent the Runway (レントザランウェイ)との提携です。パーティーやイベントで着用するドレスやアクセサリー。高いお金を出して購入して着回すのではなく、その都度違うものを楽しみたいという消費者の嗜好に応える形で、Rent the Runwayは多くの人気ブランドのドレスやアクセサリーの貸し出し事業で不動なる地位を築きました。

Rent the RunwayとthredUPが2020年9月に発表したのが、”Revive by Rent the Runway”、という新事業。Rent the Runwayは以前から自社のホームページでも貸し出しを終えた商品の販売を行っていましたが、今回のthredUPとの提携により、両社にとってそれぞれのお客さんを取り込むことができるようになりました。thredUPのサイト内に、Revive by Rent the Runwayという特設サイトがあり、高級ブランドのドレスを定価の8割引きで購入することができるのです。両社は、この取り組みより、ファッション業界での無駄を削減する取り組みを進め、洋服の寿命を3倍伸ばしたいと発表しています。


thredUPのサイト内に作られた人気高級ブランドの商品が並ぶRevive by Rent the Runwayの特設ページ。こちらのページへは、Rent the Runwayのサイトからも飛べるようになっています。

thredUPの取り組みはそれだけではありません。ジーンズブランドで知られるMadewellとも興味深い取り組みを行っています。

Madewellは自社以外のブランドを含め、はかなくなったジーンズをお店に持ち込むと$20のクーポン券を進呈する、というリサイクルプログラムを以前から行っていました。2019年10月から、thredUPはMadewellとの”The Madewell Archive”というプログラムにより、thredUPが委託者から受け付けたMadewellのジーンズをMadewellの店舗で$50で販売しています。Madewellの新品のジーンズは平均$130であるため、古着でも良いと考えるお客さんにとってはかなりお得な値段設定となっています。

そして、その発展という形で、2021年9月には、ブルックリンの中でもお洒落な地域として知られるウィリアムズバーグに、thredUPとMadewellは共同でお店をオープンしました。循環経済を推進するお店として話題を呼んでいるこの店舗では、thredUPが委託者から受け取ったMadewellの商品を買うことができます。


ブルックリンのthredUPとMadewellとのタイアップストアは、古着屋さんとは思えないお洒落な造り。©Forbes

まとめ

消費者目線に立った使い勝手の良いサービスに加えて、パンデミックの巣ごもり生活で断捨離する人が増えたことも追い風となり、利用者と売上を着実に伸ばしてきているthredUP。2018年には、アパレルブランドや小売店を巻き込んだ新サービス、Resale-as-a-Service (通称RaaS)も開始して、ファッション業界で存在感を増しています。しかし、直近の2021年第3四半期(9月末)の業績は赤字を計上。今後、技術開発費などの運営経費と売上のバランスをいかにとりながら黒字化を目指していくのか、注目していきたいと思います。

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