アメリカで事業を始めるにあたって知っておきたい事項は多岐に渡りますが、その中でも複雑で分かりにくい税金。アメリカは日本と異なり税務に特化した税理士事務所はなく、税金関連の依頼も会計士に行うことになります。
最終的な確定申告書の作成は会計事務所に任せる場合でも、確定申告書の作成責任は会社にありますし、そのための必要資料も会社が保管していなければいけません。
前回は種類も多くて分かりにくい給与税に焦点を当てましたが、今回は、法人税に絞って、基本的なルールや経営者として知っておきたい事項をまとめてみました。
目次
アメリカの法人税の種類
アメリカで会社を営む場合、連邦と州のそれぞれへの確定申告書の提出が必要です。
アメリカは州ごとに異なる自治が行われているため、州税はその有無から税率まで、州によって大きく異なります。
また、カリフォルニア州のように、法人税とは別に、課税所得の有無に関わらず、毎年$800のフランチャイズ税がかかる州もあります。そのため、特に登記の場所にこだわりがない場合、こうした法人税等の税金負担も考えた上で、会社の設立場所を決めることも重要です。
確定申告書の提出期限
非課税法人を除く米国の法人は、課税所得の有無に関わらず、連邦法人税の申告書 (Form 1120) をアメリカ合衆国内国歳入庁(以下、IRS)に提出しなければいけません。
日本から進出する場合の会社形態として一般的なC corporationの場合、確定申告書の期限は、会計年度終了後4ヶ月目の15日まで(12月決算の会社の場合、4月15日まで)となっています(消印有効)。ただし、その期限までにForm 7004を提出することで、提出期限を6ヶ月自動的に延長することができます(12月決算の会社の場合、10月15日まで)。
その場合、延長申請の際に、対象となる会計年度に予想される税額を納付しておかないと、当初の期限以降の延滞利息や罰金がかかるため注意が必要です。多く納付した分は最終的には還付されますので、実務上は、延長申請を行う際に少し保守的に多めに税金を納めておくのが無難かもしれません。
州税の確定申告書の期限は州によって異なりますが、連邦法人税と同じく、会計年度終了後4ヶ月目の15日までといった州が多いです。
納税に遅れると延滞利息が発生。予定納税では多めに支払っておくと安心
忘れてはいけない年に4度の予定納税
その年にかかる連邦法人税は、一般的に、年間予定税額を計算し、1年を通して4度にわたって分割した予定納付が必要です。これは、年間の税額が$500を超えることが予想される会社に対しての規則であり、ほぼ全ての会社が当てはまることになります。
12月決算の会社の場合、予定納税の期限は4月15日、6月15日、9月15日、12月15日となっています。予定納税の額があるべき納税額よりも少ない場合、延滞利息と罰金がかかるため注意が必要です。
日米での税額計算の違い
日本は確定決算主義を採用していて、法人税の課税所得は、確定した決算に基づいて行われます。
すなわち、法人税額の計算は、株主総会の承認を得た計算書類に税法を適用することになります。
それに対して、アメリカにはこうした規定が存在しないため、その年の会社の会計帳簿を元に米国の税法を適用して、税金を計算します。そのため、法人税と会計基準での会計処理が異なることにより損益認識のタイミングがずれるケースが、日本よりも頻繁に見られることになります。
会社は、会計帳簿とは別に税金計算のための資料を保管し、帳簿上の税引前当期純利益 (pre-tax income) からどのような調整がなされて課税所得 (taxable income) が計算されているのかを把握しておく必要があります。
会計事務所と信頼ある長い付き合いを
法人税の計算は専門的で複雑であるため、会計事務所に依頼することになります。会計事務所は年間を通じて多くの会社の依頼を受けてスケジュールが混み合っていることも多いため、決算期が過ぎてからでは依頼を受けてもらうことが難しいこともあるでしょう。
早い段階で動き出し、会社の動きを共有することで、先方の作業もスムーズに進みますし、予定納税などの段階から関わってもらうことができますので、会社を設立したらすぐに会計事務所を探すことが望まれます。
一口に会計事務所といっても、得意な業種は異なります。もし現地に英語が堪能なスタッフがいて会計事務所の担当者と英語でのコミュニケーションが問題なくとれる場合は、自社の業界に強い現地の会計事務所に依頼することが理想です。
そうでない場合は、現地の中規模の日系事務所に依頼することになるでしょう。いずれにしても、知人など現地にいる方に話を聞いて評判の良い事務所を見つけ、その事務所と長いお付き合いをしていきたいです。
また、スケジュールの関係から、多くの会計事務所は延長申請を行いますが、その場合、延長申請の期限ぎりぎりになって焦らないためにも、いつぐらいの時期に申告書の作成を行ってもらえるのか、自社の業務スケジュールを勘案しながら事前に合意しておくと良いと思います。
スピーディに連携ができる会計士を見つけて、税務にリソースをかけないようにすることが重要
締切前に焦らないために
年に一度の確定申告。会計事務所に申告書類作成のための資料を提出しなければいけませんが、そうした資料は一朝一夕に準備できるものではありません。日頃の正確な記帳、そして資料の保管が重要です。
例えば、費用についてはレシートや請求書をきちんと保管すること、また、固定資産については申告書類の作成時に税務上の減価償却費の計算が必要となるため、会社が保有している固定資産を網羅的に記載した固定資産台帳の整備が必要です。
申告書ができあがったら
確定申告書の作成責任は会社にあります。会計事務所は作成の委託を受けた第三者として確定申告書に社名を記載し、その内容についてのIRSからの質問に答えてくれますが、確定申告書には会社代表として会社の代表者(または経理責任者)も署名を行います。そのため、会計事務所から確定申告書のドラフトがあがってきた際には、必ず目を通して記載内容に誤りがないかを確認しましょう。
確定申告書は専門的な内容なので分からない箇所も多いかもしれませんが、EIN番号(納税者番号)や会社の住所といった基本的な情報や、会計帳簿から取ってきた数値(例えば税引前当期純利益)については、できる限りその正確性を確認した方が良いです。また、会計事務所の担当者から申告書の内容について簡単に説明を受ける機会を設けることも有益です。
書類の保管期間
米国税制は、あくまで会社からの申告内容に依存して成り立っていますが、IRSや州の税務当局は定期的に監査を行って会社が提出した確定申告書の内容を確認しています。その結果、税額が調整されることもあります。
また、追加書類の提出を求められることもあるでしょう。IRSの場合、その期限は当初の申告期限から3年となっていますので、その間は関連資料は全て保管しておく必要があります。
資料は3年間の保管義務がある。管理しやすい方法で。
最後に
米国税制は複雑で、税金のルールは日本とは勝手が異なるため、会社設立後早い時期に、現地に信頼できる会計事務所を見つけることが大切です。予算との兼ね合いもあると思いますが、米国税制は頻繁に変わるため、そうした新規のルールにも適時に対応できる体制が整った中規模以上の会計事務所とお付き合いすることができたら良いと思います。
あくまで人間同士の付き合いになりますので、会計事務所のネームバリューよりも、自身が信頼できる会計士がいるかどうか、という観点から事務所選びをしてみたら良いかもしれません。
参考資料: 法人税に関する日英用語集
日本語 | 英語 |
アメリカ合衆国内国歳入庁 | Internal Revenue Service (IRS) |
確定申告書 | Tax return |
連邦法人税 | Federal corporate income taxes |
州の法人税 | State corporate income taxes |
課税所得 | Taxable income |
予定納税 | Estimated tax payment |
固定資産 | Fixed assets |
減価償却費 | Depreciation expense |
会社の代わりに有償で税務申告書を作成する人 | Paid tax return preparer |
納税者番号 | Employer Identification Number (EIN) |