アメリカで事業を始めるにあたって必ず知っておきたいのが税金。アメリカは連邦と州それぞれで税金が発生する上、州税は州によって異なるルールで複雑です。税金に関しては、顧問会計士に任せっきりという方も多いかもしれませんが、納税義務は会社にありますので、経営者として、基本的な知識は押さえておきたいです。
アメリカの税金には大きく分けて、給与税、法人税、売上税があります。今回は、その中でも種類が多くて分かりにくい給与税 (Payroll Tax)に焦点を当てて、雇用者の視点からその全貌をお伝えします。
本記事で紹介する給与税は以下の9種類となります。
- Federal Income Tax(連邦税)
- Social Security Tax(社会保障税)
- Medicare Tax(医療保障税)
- State Income Tax (州税)
- State Disability Insurance (州の傷害保険)
- Paid Family Leave Insurance (家族援護手当)
- Local Income Tax(地方税)
- Federal Unemployment Tax(連邦失業保険税)
- State Unemployment Tax(州の失業保険税)
給与税には、従業員負担分を雇用主が徴収して代わりに納税を行う源泉徴収分と、雇用主が会社の収入から納税する雇用主負担分があります。その中には、Social Security Tax (社会保障税)、Medicare Tax (医療保障税)のように、従業員と雇用主双方に支払い義務がある税金もあります。
それでは、従業員負担にあたる源泉徴収分と雇用主負担の税金それぞれについて、項目別に見てみましょう。
1. 源泉徴収される税金
例えば、従業員のお給料が$2000だった場合、$2000を従業員に支払うわけではありません。そこから従業員が納めるべき税金額を控除した金額を、会社は従業員へ支払うことになります。
そして、控除した金額、いわゆる源泉徴収分を、会社はしかるべき納税先へと納める必要があります。
源泉徴収分には、主に以下の項目があります。
- Federal Income Tax(連邦税)
- Social Security Tax(社会保障税): 老齢年金、遺族年金、障害年金の資金のための税金
- Medicare Tax(医療保障税):高齢者や障害者の医療保険を捻出するための税金
- State Income Tax (州税)
- State Disability Insurance (州の傷害保険):病気や怪我による休職期間の給与保証
- Paid Family Leave Insurance (家族援護手当):出産や家族の介護で休職する際の給与保証
- Local Income Tax(地方税):その地域の教育や公園の整備などに使われる税金
それぞれの税金について、支払先別に、いつまでにいくらをどのようにして支払うのかをまとめてみました。
1.1. 連邦へ支払う税金:Federal Income Tax (連邦税)、Social Security Tax(社会保障税)、Medicare Tax(医療保障税)
Federal Income Tax(連邦税)、Social Security Tax(社会保障税)、Medicare Tax(医療保障税)はいずれも連邦へ納付する税金で、支払いのタイミングは同じです。
源泉徴収の金額により、支払い頻度は異なりますが、月に1回または2回の支払いとなります。EFTPS (Electric Federal Tax Payment System)と呼ばれるオンラインのシステムを利用しての支払いとなり、会社は四半期に一度 Form 941をInternal Revenue Service (IRS) へ提出する必要があります。
源泉徴収する金額は、給与額に応じて異なります。連邦税は、雇用時に社員に提出してもらうW4 (Employee’s Withholding Certificate) に記載の控除項目を考慮した計算となります。
従業員雇用時はW4をしっかり提出してもらう必要がある
Social Security Tax(社会保障税)、Medicare Tax(医療保障税)は、FICA (Federal Insurance Contributions Act) という法律に基づく税金で、別名FICA Taxと呼ばれています。
前述したように、これらの税金は従業員と雇用主それぞれに支払い義務があります。源泉徴収される従業員負担分は、Social Security Taxは給与総額の6.2%(2021年は給与総額の$142,800まで)、Medicare Taxは1.45%となっています。
なお、Affordable Care Act (通称オバマケア)により、2013年より、給与総額が$200,000を超える従業員には追加で給与総額の0.9%のMedicare Taxの支払いが義務付けられています。
1.2. 州へ支払う税金:State Income Tax(州税)
州へ支払う税金としては、State Income Tax(州税)が挙げられます。詳細は州法によって規定されるため、州ごとに異なってきます。
以下に2021年度版の各州の州税をまとめたマップを添付します。
参照: Tax Foundation
ニューヨークの場合、前年度の州税の源泉徴収額により支払い期限は異なってきますが、いずれにしても支払い期限は連邦より厳しいルールとなっています。支払いは州のウェブサイトを通じて行います。
[州税の支払いページ一例]
- ニューヨーク州: https://www.tax.ny.gov/online/createaccount.htm
- カリフォルニア州: https://www.ftb.ca.gov/pay/
- テキサス州: https://comptroller.texas.gov/taxes/file-pay/
- イリノイ州: https://www2.illinois.gov/rev/individuals/pay/Pages/default.aspx
1.3. 保険会社を通じて州へ支払う税金:State Disability Insurance (州の損害保険)、Paid Family Leave Insurance (家族援護手当)
State Disability Insurance (州の傷害保険)やPaid Family Leave Insurance (家族援護手当)の取り決めは、州によって異なります。
State Disability Insurance(略称、SDI) は、社員が職務外での怪我や病気で出社できなくなってしまった場合に社員に対して支払いが行われるものです。
ニューヨークは、この制度を導入している数少ない州で、そのためのプレミアムの支払いを雇用主に義務付けています。
雇用主は州によって認められた保険会社から保険を購入する必要がありますが、その一部を従業員負担とすることができます。その場合、従業員負担分は給与から源泉徴収されることになり、1週間につき0.6ドルが上限となっています。
ニューヨークではSDIが導入されているので不意の事故の際も給料がもらえる。
一方、Paid Family Leave Insurance (略称、PFL)は、新生児の世話、病気や怪我をした家族の看病などのために一定期間仕事を離れている間の給与を一定額まで支払うという制度です。
この制度の有無も州によって異なりますが、ニューヨーク州の場合、そのための積立は全額従業員負担で、2021年は給与の0.511%(年間上限$385.34まで)が源泉徴収されることになります。
State Disability Insurance (SDI)、Paid Family Leave Insurance (PFL)のいずれも保険会社との契約になりますので、保険会社からの請求のタイミングでの支払いを行います。
1.4. 群・市へ支払う税金:Local Income Tax(地方税)
群・市へ支払う税金としては、Local Income Tax(地方税)が挙げられます。
税額や支払い期限は地域により異なりますが、通常は四半期ごとの支払いです。
2. 雇用主負担分の税金
次に、雇用者負担分の税金を見てみましょう。雇用主が負担する税金として、以下のものがあります。
- Social Security Tax(社会保障税): 老齢年金、遺族年金、障害年金の資金のための税金
- Medicare Tax(医療保障税):高齢者や障害者の医療保険を捻出するための税金
- Federal Unemployment Tax(連邦失業保険税)
- State Unemployment Tax(州の失業保険税)
- State Disability Insurance (州の傷害保険):出産や家族の介護で休職する際の給与保証
- Paid Family Leave Insurance (家族援護手当):出産や家族の介護で休職する際の給与保証
2.1. 連邦へ支払う税金:Social Security Tax(社会保障税)、Medicare Tax(医療保障税)、Federal Unemployment Tax (連邦失業保険税)
Social Security Tax(社会保障税)とMedicare Tax(医療保障税)は、従業員と会社が折半して支払う税金です。そのため、会社側もSocial Security Taxは給与総額の6.2%、Medicare Taxは1.45%に相当する額を会社も支払うことになります。
雇用主負担 | 従業員負担 | |
Social Security Tax(社会保障税) ※2021年度の課税上限は$142,800 | 6.2% | 6.2% |
Medicare Tax(医療保障税) | 1.45% | 1.45% |
支払い頻度や方法は、前述の1.1をご覧ください。
次に、Federal Unemployment Tax(連邦失業保険税)ですが、これは、Federal Unemployment Tax Act (FUTA) に基づく税金であることから、別名FUTA Taxと呼ばれています。失業保険は対象者に対して州から支払いが行われますが、州の財源が不足した時に、州は連邦からお金を借りることができ、そのための財源が Federal Unemployment Tax(連邦失業保険税)です。
年間を通じて少なくとも20週を働く従業員が一人でもいる場合、もしくは、いずれかの四半期に従業員に少なくとも$1,500を支払った場合に支払い義務が発生し、各従業員の年間給与の$7000を上限として6%が課されますが、多くの雇用主は州の失業保険分の控除5.4%を受けることができますので、実質の負担は0.6%です。
原則として各四半期の翌月末まで(4月末、7月末、10月末、1月末)までに EFTPS (Electric Federal Tax Payment System)と呼ばれるオンラインのシステムを利用しての支払いが必要です(四半期でのFUTA tax合計が$500以下の場合は、支払いは$500を超える四半期まで繰り越されます。ただし、年度末では、$500未満であっても翌月末までの納税が必要です)。
そして、会社は、年間の支払額を、翌年の1月末までにForm 940でInternal Revenue Service (IRS) へ報告しなければいけません。
2.2. 州へ支払う税金:State Unemployment Tax(州の失業保険税)
State Unemployment Tax (州の失業保険税)は、The State Unemployment Tax Actにより雇用主に義務付けられた税金で(州によっては従業員への支払いも義務付けられています)、別名SUTA Taxと呼ばれています。州によってはState Unemployment Tax (略称、SUI) など別の名前で呼ばれることもあります。
State Unemployment Taxは州の規定に基づきますので、税率や対象となる給与水準も州によって異なってきますし、税率も毎年変更になる可能性がありますので、各州のウェブサイトでの確認が必要です。標準レートが決まっていない州の場合、会社を設立した直後に、その年の両立について州から連絡が届きます。
支払いは通常四半期ごとで、州のウェブサイトでのオンラインでの支払いが可能な場合が多いです。
2.3. 保険会社を通じて州へ支払う税金:State Disability Insurance (州の損害保険)、Paid Family Leave Insurance (家族援護手当)
State Disability Insurance(州の損害保険)の加入の要否は州によって異なります。大きな会社であれば会社独自にファンドを作ることもありますが、州が認可した保険会社を通しての加入が一般的で、該当するプレミアムを支払うことになります。また、前述したように、その一部を従業員負担とすることを認めている州もあります。
Paid Family Leave Insurance (家族援護手当)も、対象者や期間などの詳細を含めて、州によって取り決めが異なります。また、そのためのの積立が雇用者負担か従業員負担かも州によって異なります。例えばニューヨークの場合は、全額が従業員負担となっています。
3. まとめ
従業員の給与の支払いや源泉徴収は、ADPやPaychexといった給与システム会社を通じて行うことが一般的です。給与システム会社は、雇用者に代わって各当局への納税や四半期・年次の給与税の確定申告書の作成や提出も行ってくれます。社内に経験者がいない場合は、給与計算そのものを代行会社に委託することが望ましいです。
この記事では従業員がいる会社を前提とした内容となっていますが、従業員が誰もいない場合でも、自分自身の給与に対してSelf-employment taxとしてSocial Security TaxやMedicare Taxの四半期ごとの納付が必要となってきますので注意が必要です。
また、アメリカの税金は頻繁に変更されるため、税金に関する正確な情報は連邦および各州のウェブサイトを確認してください。