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中小企業の研究・開発投資の入り口?カナダ Mitacs (マイタクス)の研究インターン制度

中小企業の研究・開発投資の入り口?カナダ Mitacs (マイタクス)の研究インターン制度

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「カナダの若手人材活用プログラムの紹介と活用事例」というテーマで、カナダ大使館主宰のウェビナーが開催されました。

その2日目として「Mitacs(マイタクス)の研究インターン制度」の紹介が行われました。
1日目のCJCPプログラムでは学生インターンの雇用にフォーカスが当てられましたが、今回はもう少し若手の研究者とのコラボレーションに焦点が当てられました。

本記事ではウェビナーの要旨をまとめました。Mitacs(マイクタス)の概要、実績、主要プログラムをご紹介していきます。

Mitacs(マイクタス)とは?

Presenter:

Jesse Vincent-Herscovic氏, Vice President, Mitacs

Mitacs(マイタクス) はカナダ国内外の高等教育機関とビジネス・産業界を結びつけ、ビジネス課題を解決するための研究・開発、イノベーションのサポートを行っています。

新商品の開発はもちろん、市場変革を起こすようなテクノロジーの発掘、既存製品・プロセスの最適化、研究・技術の商用化をサポート。これまで高等教育機関や研究施設とのコネクションがない小中規模のビジネスに研究・開発のきっかけを提供し、長期的な関係構築を生み出すことをゴールにしています。

Mitacs(マイタクス)は1999年に設立され、当初は非営利団体として、Complex Systemsの領域に特化していました。
その後カナダ政府の要請を受けて対象領域を全業界に拡大。現在はカナダ政府と10の地方政府から資金援助を受けて運営されています。

カナダ国内だけに限らず、国を跨いだインターナショナル規模のプロジェクトにも関与。
日本との連携では、昨年 (2020年)日本学術振興会と研究開発に関する業務提携 (Collaboration Agreement)が締結されました。

【Mitacs(マイタクス)のこれまでの実績】

  • カナダのプロジェクトに約CA$850 Million (約772億円) の資金提供。昨年度はCA$221 Million (約220億円)
  • カナダの 100 を超える高等教育パートナーと連携
  • 80以上のカナダのビジネス開発リソース (30以上の共同出資)
  • 23カ国 + 欧州連合の政策執行機関「欧州委員会」との40協定
  • 今年は70,000以上のプロジェクトを達成する予定
  • 約6,000 の受け入れ組織 (ビジネスおよび非営利)と連携


Mitacsの実績 (参照: Mitacs – Championing Global Innovation)
 

Mitacs(マイタクス)が提供している具体的なサービスは以下の通りとなります。

  1. 企業の現状の状況・課題の聞き取り + 求める成果と研究内容のすり合わせ
  2. ビジネス課題を解決するために最適な専門分野の選定
  3. 適切な人材採用をサポート
  4. 当プロジェクト資金援助を実施 (プロジェクト費用の約半分。ほとんどが人材雇用費用)

 
Jesse氏によると、研究機関とのコラボレーション通じて、開発中のプロダクトや技術が本当に市場ニーズに合致しているか、またニーズに合わせて研究・開発も柔軟に変化を加えることが重要で、どういう専門分野を持ったエキスパートとタッグを組み、どのようにプロジェクトを進行していくかが成功の鍵を握るとのこと。

そのため、何よりも重要なのは初回の現状の聞き取り。
全ての会社がIndustry 4.0の導入準備ができているわけではないので、各企業が抱える課題にあった最適な取り組み方を一緒に模索してくれます。

95%以上の成功率?研究開発プログラム Mitacs Accelerateとは

Mitacs Accelerateプログラムとは募集型の研究プロジェクト。企業の研究開発ニーズと研究者をマッチングするサービスです。研究開発の資金の半分をMitacsの補助金で賄います。

2007年のスタートから累計で35,000以上の研究プロジェクトを実行し、CA$15,000から数 Million (140万円〜数億円)規模のプロジェクトを行ってきました。

全てのプロジェクトをスタートする前にプロポーザルの詳細をしっかり精査し、プロジェクトに大きな欠陥が存在しないかを入念にチェック。そのため、95%以上という驚異の成功率をほこります。


Mitacs Accelerateの投資分担イメージ (参照: Mitacs – Championing Global Innovation)
 
また、全てのプロジェクトはモジュールベースで行われます。
例えば大きなプロジェクトの場合、1つのプロジェクトを複数のモジュールに細分化。1モジュールあたりフルタイムで4ヶ月 (必要に応じてパートタイムで6ヶ月に延長可能)で実施します。

もちろん、プロジェクトの規模に応じてモジュールの数を無制限に増やすことができます。

 

AI研究開発の入り口 Artificial Intelligence Assessment Internship プログラム

Mitacs(マイタクス)が提供しているもう一つの魅力的なプログラムが Artificial Intelligence Assessment Internship プログラム

Artificial Intelligence Assessment Internship プログラムとは、そもそもAIに本格的に投資すべきなのか、またAIに本格的に投資するとどういうことができるのかを見極めるためのプログラム。

業界や規模にかかわらず、AIのビジネス活用は大きなポテンシャルがあるのは周知の事実です。
ただ、全ての会社がAIに投資できる状態ではありません。特に小規模事業者の場合、AIに投資することの具体的なメリットが不透明な状態でAI投資することは難しいのが現状です。

本プログラムを通じて比較的安価でAIツールとPhDにアクセスができます。
まずは2ヶ月でできる短期間のプロジェクトを行い、AI活用のポテンシャルを可視化することができます。
 

Mitacs(マイタクス)の研究・開発プロジェクト事例3選

以下では、Mitacs(ミタクス)の過去のプロジェクト例を3つご紹介します。

プロジェクト#1: ハイブリッド飛行船の設計プロジェクト

  • 会社: Win Global Partners
  • 連携大学: University of Toronto
  • 業態:  Aerospace and defense

垂直離着陸 (VTOL) 機能を備えたハイブリッド飛行船の設計プロジェクト。

垂直離着陸 (VTOL) 機能を備えた飛行船を使って、貨物を直接配送することで、商用輸送システムを大幅に簡素化し、輸送コスト削減に繋がります。
具体的には、輸送コストをペイロード1kgあたり50%削減、陸上および海上輸送の貨物1kgあたりの輸送コストの10%削減できると試算しました。

この研究では、ハイブリッド飛行船の新しい概念的な空力設計を提案。少なくとも 185 km/hrの速度で巡航しながら、1回のバッテリー充電で少なくとも 25トンの貨物を最大1000kmの距離まで持ち上げることができるデザインを設計しました。
 

プロジェクト#2: フェーズフィールドモデリングを使用した材料の耐久性予測

  • 会社: ESSILOR International, Safran Group
  • 連携大学: Polytechnique Montréal
  • 業態: Health & Related Sciences Technology, Aerospace, Nanotechnology

眼科および航空宇宙産業で使用される層状コーティングの亀裂の発生と進行を予測するためのフェーズフィールドモデリング (phase field modeling) の研究。

光学レンズにはキズ防止のため、また、航空機のジェットエンジンでも、ファンブレードの腐食防止のためにコーティングが使用されています。 
このモデルの開発をすることで、製造パートナーが高品質かつスピーディ、そして安価な鋳造を行うことができます。

このプロジェクトは、Safran社 と Essilor社 が保有している実際の産業事例をもとに
博士研究員がPolytechnique Montréal で開発されたモデリングツールを使用して開発。機械工学および工学物理学科の知見を生かして開発を行いました。
 

プロジェクト#3: Covid-19の感染状況の監視のためのブレスレットの開発

  • 会社: iMD Research
  • 連携大学: University of Alberta、McGill University

個別の電話診断で行われていた非効率なCovid-19の監視方法を改善するために実施。
特に容態が急変し、患者が即時の医療を必要とする場合対応が難しいという課題がありました。

そこで、呼吸、体温、血圧、脈拍などのバイタルサインを継続的にモニタリングできる、安価で使いやすいマルチセンシングブレスレットを開発。バイタルサインに異常が見られた場合、即時に救命医療を派遣。

当デバイスは、カナダ、アメリカを含む様々な地域の研究対象者に与えられる予定です。

 

まとめ

本記事ではMitacs(マイタクス)の魅力をご紹介しました。

個人的には大きな初期コストをかけずに新たなビジネス領域やテクノロジーの開発、可能性を模索することができるのは大きな魅力だと感じました。

ウェビナーの最後に実際にMitacs(マイタクス)を通じて、採用したインターン生のおよそ1/3はインターン終了後に会社に正規雇用されており、そのうちの半分はこれまでになかったポジションで採用されているという話がありました。

特に小規模事業者にとって、テクノロジーへの投資のきっかけは中々ありません。
もしぼんやりした必要性を感じている場合は、一度 Mitacs(マイタクス)に相談して、イメージを具体化するのも選択肢の一つだと思います。

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