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人工知能研究のメッカ、カナダの東海岸でAIの商用化を進める Vector InstituteとIVADOとは?

人工知能研究のメッカ、カナダの東海岸でAIの商用化を進める Vector InstituteとIVADOとは?

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コロナ禍の中、多くのプロジェクトがストップし経済界に大きな打撃を与えました。

そんな状況下でも、カナダでは2020年第2四半期のVC投資額が17億ドルに達するなど、テクノロジー投資は堅調に成長しています。

牽引力となっているのはAI特に、機械学習とディープラーニング研究の先端を走っているトロントとモントリオールの2つの都市です。

今回は、その両都市のAI研究機関、トロントの Vector Institute (ベクター・インスティテュート)とモントリオールの IVADO (イバド) の両組織の取り組みを紹介していきます。

本ページの内容はカナダ大使館主宰セミナー「Vector Institute – トロント大学と官民パートナーシップにより設立されたAI研究所」と「Institute for Data Valorization (IVADO) – モントリオールのAIネットワークへの入口となる機関」の内容の要旨となります。

AIのゴッドファザーも参画、トロントのAI研究機関 Vector Institute (ベクター・インスティテュート)とは

Presentation: Vector Institute Industry Innovation Program Overview
Speaker: 
Matthew Johnson, Director of Industry innovation, Vector Institute
Anna Matta, Director, Industry Innovation, Vector Institute

Vector Institute (ベクター・インスティテュート) は機械学習 (マシン・ラーニング)やディープラーニングの強みを持つ、AI研究の非営利組織。官民のパートナーシップにより設立され、AIテクノロジーの商用化を促進し、確立したエコシステムを築くために結成されました。

立ち上げには、Google BrainのVice Presidentであり、AIのゴッドファザーと呼ばれる Geoffrey Hinton (ジェフリー・ヒントン)氏、自動運転向けのAIの先駆者であり、Uber トロントの研究開発組織を束ねている Raquel Urtasun (ラケル・ウルタサン) 氏やコンピュータービジョンや画像処理の専門家である Sanja Fidler (サーニャ・フィドラー) 氏も関わっています。


参照: Vector Institute Industry Innovation Program Overview

Vector には、機械学習 (マシン・ラーニング) やディープラーニングの各エリアを牽引している400人以上のリサーチャー + Vectorが認定するトレーニングプログラムを卒業した800人以上の学生が在籍。それぞれの業界に特化したAIの教育トレーニングも提供しています。

注目度の高いAI分野の専門機関ということで、結成後のはじめの5年間におよそ $135 Millionもの投資を受けた実績があります。

以下では、実際にVectorが企業と連携して行った AIプロジェクトをご紹介していきます。

Vector x 自然言語処理 (Natural Language Processing, NLP) 関連プロジェクト

1. アクセンチュア (Accenture)

総合コンサルティング会社、アクセンチュアが開発している自然言語処理 (NLP) を使用した Accenture Open Information Extraction Engine (AccIE) の開発・改善をVectorがサポート。

Vectorを通して、自然言語処理 (NLP) のリサーチャーと協業。

AIのモデルの公平性 (fairness)、説明可能性 (explainability)、完成度 (model robustness)、リスクマネジメントの精度の改善に取り組みました。詳細はVectorのページ (英語) にて。

2. トムソン・ロイター (Thomson Reuters)

トムソン・ロイターは法律や税務・会計、コンプライアンスなどの専門情報を提供するグローバル企業。

Vectorではトムソン・ロイターが抱えるワークフォースの「機械学習のコンセプトの理解促進」のサポート、そして「関連能力の開発」をサポートしました。詳細はVectorのページ (英語) にて。

3. モントリオール銀行 (Bank of Montreal, BMO)

モントリオール銀行 (BMO) はトロントに本社を構える、カナダ5大銀行の一つ。

Vectorでは BMOが抱える機械学習のリサーチチームと協業。

自然言語処理 (NLP) を活用した、金融市場の高レベルな感情分析 (Sentiment Analysis) モデルの構築をサポートしました。詳細はVectorのページ (英語) にて。

Vector x モデルベースの強化学習 (Model Based Reinforcement Learning, MBRL) 関連プロジェクト

1. テラス (Telus)

テラスはカナダ大手の通信会社。

テラスが抱える膨大なデータセンターの冷却のための大量の電力・エネルギー消費が問題になっていました。エネルギー利用の効率化のために MBRLを活用し、運用コストと二酸化炭素の削減に取り組んでいます。

2. ロブロー (Loblaw)

ロブローはカナダ最大のスーパーマーケット、薬局、アパレル、金融サービスを運営する会社。ロブローが抱える配送用トラックのアイドリングの問題と食品腐敗を防止するために、MBRLを活用。配送センターでの積荷の優先順位決めを適切に行うサポートを行っています。

3. リナマー (Linamar)

リナマーは自動車部品の製造業者。

物流の中での排気ガス削減のためMBRLを活用。トラックの数や走行ルートの最適化を行い、燃料使用量の削減を行っています。

Vectorのスポンサーシッププログラム

Vectorの紹介の最後に、スポンサープログラムをご紹介していきます。

Vectorが提供しているスポンサープログラムに参加すると以下のサービスを利用することができます。

  • Collaborative Projects: R&Dのコラボレーションプロジェクトへの参加
  • Expert Guidance: AIの技術的な課題に対して、リサーチャーの知見を 1対1のミーティングで聞くことができる機会の提供。
  • Preferred Recruitment Channels: ネットワーキングイベント、スポンサー限定の Digital Talent Hubへのアクセス。
  • Comute Power: 1000以上の高機能なGPU (画像処理に特化した半導体)を使った研究開発設備の提供。
  • Professional Development: AIに関する技術的・非技術的なセミナーやコース、オーダーメイドのトレーニングプログラムへの参加 (別途費用発生)。
  • Executive Network: グローバル企業の経営層 (C-Suite)とのネットワーキングの機会の提供。
  • AI Startups: 選定されたAI関連のスタートアップ・スケールアップとのコネクションの提供。
  • Industry Affiliate Program: Vectorのリサーチャーとの関係構築のための、毎週のリサーチトークイベントへの参加。

スポンサー費用は年間 CA$300,000のGoldと、年間 CA$600,000のPlatinumの2つのプランがあります。

Johnson氏によると、両プランとも受けられるサービスの内容は同じだが、量の部分で差がでるとのこと。
例えば、コラボレーションプロジェクトの場合、Platinumは担当者を最大3名送れるのに対して、Goldは1名のみ。コンサルティングミーティング (上記の Expert Guidance)の場合、Platinum は12回/年に対して、Goldは6回/年となります。

イメージとして、Platinum は既にAIにある程度力を入れている会社向け、GoldはAIに取り掛かり始めた会社向けとのことです。

ディープラーニングのメッカ、モントリオールの IVADO (イバド)

Presentation: The Montreal AI Ecosystem and International Collaboration
Speaker:
Gilles Savard, CEO, IVADO
Jean-Marc Rousseau, Director of Technology Transfer, IVADO

続いて、モントリオールの IVADO (イバド) の紹介。

前回の記事でもご紹介した通り、モントリオールは AI、特にディープラーニングに強みがあります。モントリオールには世界最大のディープラーニングのリサーチラボ Milaがあり、ディープラーニングに関する書籍の出版量ではトップです。

モントリオールのテクノロジーへの投資は1968年にまで遡り、特に過去3年でFacebook, Samsung, Densoなど大手企業からの投資が集中しています。


参照: The Montreal AI Ecosystem and International Collaboration

そんなモントリオールのAI関連の投資の加速をサポートしているのが IVADO

IVADOは University of Montréalの教授 Yoshua Bengio (ヨシュア・ベンジオ)と Andrea Lodi (アンドレア・ロジ) を中心に設立。企業のDX (デジタルトランスフォーメーション) の支援など、大学と産業の架け橋として活動をしています。

合計20の研究施設を持ち、1400以上の研究者を抱えています。
108の産業界のパートナー + 20のインターナショナルパートナーを持ち、現在300以上のR&Dプロジェクトのマネジメントを行っています。


参照: The Montreal AI Ecosystem and International Collaboration

IVADO の過去のプロジェクトとコラボレーションの流れ

IVADOが関わった過去のプロジェクトとして、以下の3つが紹介されました。

1. トゥルーノースマリーン (True North Marine)

トゥルーノースマリーン は船舶輸送のルートの最適化を支援するソフトウェア会社。天気や海上のコンディションをベースに、最適なルートを割り出します。

トゥルーノースマリーンは自社のアルゴリズムを改善するために、IVADOと協業。

IVADO は3つの大学から最適なプロフェッサーを3人紹介。ソフトウェアのルート最適化の性能向上に寄与しました。

2. モントリオール証券取引所 (Montreal Exchanges)

IVADOでは、モントリオール証券取引所の取引データを使って、不正な取引をしている事業者を割り出す仕組みの開発支援を行いました。

3. ハイドロケベック (Hydro Quebec)

ハイドロケベックはケベック州の電力会社。

ハイドロケベックが保有する水力発電施設の水の使用量などの水マネジメントの部分や、電力料金の売買の最適化支援を行いました。

IVADO とのコラボレーションの流れ実例

また、プレゼンテーションの最後にIVADO と協業する際の流れを実例を使って紹介されました。(会社名をXYZ社とする)

  1. XYZ社がリサーチプロジェクトのリスト提供
  2. IVADO が関連するプロフェッサーや大学とのミーティングを設定
  3. プロジェクトに関する詳細な議論を行う
  4. XYZ社は、フルタイムの従業員を一人モントリオールに派遣
  5. PhD x 1人、MSc (Master of Science)の学生 x 2人、パートタイムの研究員 x 1人を紹介
  6. まずはトライアルで1年間の契約 (CA$150k / year) 
  7. その後、契約更新 + McGillのプロフェッサーに出会った。NSERCの補助金を活用し、別のプロジェクトを追加。

Savard氏によると、研究員の給与の例として、PhDは年間$30,000、MScは年間$20,000 程度で雇うことができるとし、受け入れができるR&Dプロジェクトのサイズは、年間 $50,000 から $40 Millionと小規模なプロジェクトの受け入れも行っている点が強調されました。

まとめ

今回は、トロントに拠点のある Vector Institute (ベクター・インスティテュート)とモントリオールに拠点がある IVADO (イバド) の両組織の取り組みを紹介しました。

デジタル化が遅れていると言われている日本が AIをはじめとしたデジタルに強みも持つカナダ企業とうまく連携して、本格的なR&Dのプロジェクトをスタートさせる、本セミナーがそんなきっかけになるのではと思います。

AI投資が進む、カナダの東海岸の様子を引き続き追っていきたいと思います。

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