毎年堅調な伸びを続けるニューヨーク不動産市場も、2020年には新型コロナで影響で一時期不動産価格も下落。
ただし、歴史的な金融緩和の影響もあり2020年の末ごろからすでに回復傾向にあります。
今回はニューヨークで不動産業を営むナミ・ニューヨーク不動産 (Nami New York Property)の代表山木奈美さんにインタビューをさせて頂きました。
これから、初めてニューヨークで住宅用マンション購入をされる際のポイントをご紹介していきたいと思います。
ニューヨークの日経不動産会社にて住居用物件の賃貸・売買及び管理と商業用物件賃貸の営業として経験を積んだ後、2015年に独立。現在はニューヨークの不動産投資・コンドミニアム売買・物件管理・アパート賃貸・商業用物件コンサルティングと仲介を行うナミ・ニューヨーク不動産 (Nami New York Property)の代表として活動を行う。
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目次
まずは予算を明確に住宅ローンの事前承認を先に取得する
山木さん:
まず一番最初にして頂きたいのは「予算を明確にすること」、そして「住宅ローンの事前承認 (Pre-approval)の取得」です。
現金でマンション購入をする場合を除き、購入オファーを出す際に住宅ローンの事前承認の取得有無はほぼ必ず聞かれます。
住宅ローンの事前審査には納税申告者や給与明細、雇用証明書など銀行の事前審査の際に提出する書類は多岐に渡り、書類の準備だけで1〜3週間程度かかります。
そのため予め住宅ローンの事前審査の承認を得ていると、その後のマンション購入の流れがスムーズに進みます。
基本的には事前審査には費用がかかりませんので、
できれば1つではなく、3つ程度の銀行や住宅ローンのブローカーに連絡をして
住宅ローンの事前承認 (Pre-approval)を取得することをおすすめします。
本格的に住宅の内見をスタートする前にローンの事前審査をスタートする
野村:
なるほど。
山木さん:
住宅ローンの事前承認に関して、1点補足すると
事前審査が通過したからといって、本審査が必ず通るわけではない点に注意です。
本審査ではさらに細かなチェックが入りますので、事前承認は得たものの、本審査で落とされるというケースもあります。
野村:
なるほど。本審査で落とされる原因とは何でしょうか?
山木さん:
例えば、収入よりも負債の割合が大きい、勤務年数が少ない、クレジットスコアが悪いなど、ケースバイケースになります。
加えて、購入されるマンションがランドリースの場合は
更新まで期間が少ないと住宅ローンの本審査で落とされる原因になります。
Co-op (コープ *)という形態のマンションの場合は
建物の所有者と土地の所有者が別に存在し、建物のオーナーがランドリースを受けている、つまり土地を借りているケースがあります。
特に問題になるのは、例えば10年後にランドリースの更新日が控えていて、30年の住宅ローンを申請するケースです。この場合、ほとんどはローン審査が始まる前に断られることが多いです。
Co-opは共同所有のマンション、Condoは日本の分譲マンションを指します。詳細に関しては後ほど山木さんから解説して頂きます。
クレジットヒストリーがなければ、賃貸で生活をしてクレジットスコアを貯める
山木さん:
アメリカに来たばかりの方はクレジットスコアがない状態です。
そうすると、通常の銀行ローンの審査が通る可能性は少なくなります。
野村:
銀行以外から住宅ローンを借りる方法はないのでしょうか?
山木さん:
モーゲージブローカー、つまり住宅ローンのブローカーを利用する方法があります。
クレジットヒストリーが無い人でも借りられる住宅ローンを探してきてくれます。
ただし、銀行の金利と比べて1〜3%程度高くなること、
そして頭金が50%(*)近く求められることがあるのでおすすめはしません。
そのため、最低でも半年、できれば2年くらいニューヨークに賃貸で生活をして
クレジットスコアを高めてから購入されることをおすすめしています。
野村:
やはり、住宅ローンのブローカーを利用する方はほとんどいないのでしょうか?
山木さん:
そうですね。
住宅用のマンションで、長く住むならCo-opがおすすめ
野村:
先ほど、ニューヨークのマンションにはCo-op (コープ) という形態があるという話がありましたが、それ以外にはどういう形態があるのでしょうか?
山木さん:
ニューヨークのマンションには大きく、Co-op (コープ)とCondo (コンドミニアム) の2種類があります。
コンドミニアムは日本で言うところの分譲マンションです。
購入すると物件の所有者になり、自由に賃貸や売買ができるようになります。
一方でコープは日本には存在しない形態で、共同所有マンションになります。
マンションの所有者が法人として協同組合を設立し、部屋の購入者はアパートの価値(面積)に応じて
建物の株式を購入し、賃借権を得ます。
ポイントは不動産の所有権ではない点です。
もちろん株主としてそのアパートを独占的に占有する権利があり、その建物の株主である限り権利は存続しますが、コンドミニアムのように自由に賃貸や売買ができないという制限がつきます。
賃貸や売買をする場合は、毎回ボードメンバーの承認を得る必要があります。
たとえ審査を落とされたとしても、原則はその理由を聞くことはできない点も注意です。
ランドリースの物件のほとんどがバッテリーパークシティに所在。
野村:
つまりコープのマンションに入居するのは難しいということでしょうか?
山木さん:
その通りです。入退去の両方が簡単にできません。
ただ、それだけ厳しい審査に通った人のみが入居しているので、
例えば夜間に騒ぎ立てたりするような人はほとんどいません。
またコープのマンションには「コンドミニアムと比べて購入金額が10%以上安くなる」、「光熱費が安くなる」というメリットもあります。
光熱費に関しては、個人で契約せずにまとめて契約できるのでボリュームディスカウントを受けることができるのが安くなる理由です。
野村:
住宅用としてマンション購入される場合はコープのマンションを選ばれる方が多いのでしょうか?
山木さん:
そうですね。ニューヨークでは7〜8割程度がコープになります。
野村:
ただ、アメリカに来たばかりでクレジットスコアが低いと審査が通りづらいと
山木さん:
そうですね。ただ、その場合はスポンサーユニットを購入すると審査がありません。
スポンサーユニットとは、開発者や投資家などマンションの元々の所有者 (スポンサー)が直接保有している部屋(ユニット) を指します。初めて売買市場に出てきたユニットの事を指します。
スポンサーユニットを購入すると、ボードメンバーの承認が不要で、スポンサーの許可のみで購入ができます。
スポンサーユニットは通常の物件と比べて件数は多くありませんが、コープは審査が厳しいので難しいという方はスポンサーユニットに絞って物件探し行うのも一つの手です。
ネットで”Sponsor Unit”と検索すれば該当の物件が出てくるかと思います。
マンション購入側は手数料がかからない?不動産業者を最大限利用する
山木さん:
冒頭でお話した銀行の事前審査を始め、ニューヨークで物件購入する場合
膨大な量の資料提出が求められます。
提出書類に少しでも不備があると、出し直しになります。
物件によっては、出し直しをする度に数百ドル程度の審査費用を請求される場合もありますし、
書類が戻ってきてから再審査がスタートするまでに1〜2週間程度かかることもあり、時間のロスにもなります。
最初の段階で、間違わないように何度もチェックして、完璧にしてから提出する方が良いと思います。
不動産業者を利用すれば、事前に提出書類の情報提供はもちろん、提出書類のチェックも行ってくれます。
また、ニューヨークでは住宅の買い手側には仲介手数料が一切発生しません。
手数料は売主側が全額負担しますので、不動産業者は利用された方が良いと思います。
野村:
なるほど。例えば、直接売主に連絡をとった場合でも購入費用は変わらないのでしょうか?
山木さん:
変わりません。
時々、そういう風に誤解される方がいらっしゃるんですが、
基本的には売主も不動産業者を雇うのと、仲介手数料は売主側の不動産業者と買い手側の不動産業者で折半することになります。
仮に買い手側が不動産業者を通さない場合は、売り手側の不動産業者が100%仲介手数料を得ることになります。
そのため売主側の不動産業者が得をするだけなんです。
野村:
なるほど。売主側が不動産業者を付けないケースはないのでしょうか?
山木さん:
稀ではありますが、あります。
売主側は「仲介手数料を省けるので安くなります」とアピールします。
ただ、直接オーナーとやりとりすると正直大変です。
私自身一度、不動産業者をつけないオーナーさんとやりとりしたことがあるのですが、
私が直接マンションのマネジメントに連絡、調整など、全て行いました。本来であれば売主側の不動産業者が行うことを全て行いましたが、正直とても大変でした。
売主であるオーナーも必要な書類や手続きを知らないケースが多いので、おすすめはできません。
不動産業者選びは最終的には担当者の熱量で判断
野村:
それでは不動産業者を利用するとなった際に、選び方のポイントのようなものはありますか?
山木さん:
そうですね。担当者の実績、人柄、そして英語力はとても重要です。
当たり前ですが、
実際に購入プロセスを進めていくと契約書や交渉は全て英語で進んでいきます。
詳細内容を丁寧に日本語で共有してくれるかを見極める必要があります。
まずは、複数の不動産業者にお問い合わせをして
電話やZoomなどで一度話を聞いてみるのが近道かもしれません。
受け答えや実績、担当者の知識量などを見ながら信頼できる不動産業者を選ぶのが良いかと思います。
野村:
逆に気をつけたほうが良い不動産業者の特徴などはありますか?
山木さん:
そうですね・・・。
営業の方の性格もあるかとは思いますが、妙に押してくる不動産業者は注意したほうが良いかもしれません。例えば「これを逃したら、これ以上の物件はもう出てきませんよ」とか言ってくる場合は気をつけたほうがいいかもしれません。
住宅購入は大きな買い物ですので、じっくり考えて、納得してから購入されたほうが良いと個人的には思います。
もちろん必要なアドバイスや購入しない方が良い物件に関しては助言させて頂きますが、最終的にはお客様の方で決めていただくことを優先しています。
野村:
ネットではニューヨークでは「即断即決」が原則だという記事もありますが、その点に関してはいかがでしょうか?
山木さん:
おそらくそれは賃貸に関する記事ではないでしょうか?
確かにニューヨークの賃貸の空室率は年間を通して1%を切るくらい競争が激しいです。
なので、じっくり考えていると無くなってしまうのが現状です。特に夏場は即断即決が基本です。
ただ住宅購入に関しては、少なくとも何千万円という高い買い物になりますので
街並みを歩いたり、数十件の物件をよく比較して、じっくり研究・検討してから決められた方が良いかと思います。
野村:
なるほど。米系の不動産業者の方が地場で顔が効くので、取扱物件数が多いなどの強みがあるかと思いますがいかがでしょうか?
山木さん:
ニューヨークの不動産市場はオープンです。
売り出し中の物件情報はもちろん、過去の物件の販売推移などのデータも一般公開されており、誰でも見ることができます。
そのため不動産業者ごとの取扱物件数の違いはほとんどありません。
ただ、稀に不動産オーナーと友人・親戚で、マーケットに出る前の物件情報を持っているケースがありますが、ほとんどありません。90%以上は一般公開されています。
野村:
であれば、不動産の会社単位ではなく、担当者レベルが重要になってくるということでしょうか?
山木さん:
そうですね。
あとは実際に交渉が終わり売買手続きに入ると
双方の弁護士が入りますので、小さい会社だから契約に不備があるなどの心配もありません。
初めての海外不動産購入であれば日系の不動産屋が良い
山木さん:
米系の不動産屋を利用される場合は、買い手の方に英語力が必要です。
あと注意すべきなのはビジネス慣習の違いです。
米系の担当者は日本のようにすぐに返信をくれたり、丁寧にメールを返信してくれる方は少ないように感じています。
また、日本の方は物件に関する質問を10〜20個聞くのが当たり前ですが、
米系の担当者の場合、あまり細かい内容だと、そもそもメールの返信が無かったり、数個しか回答してくれないこともあります。
そのため、私が間に入る場合は
質問をそのまま先方に丸投げするのではなく、自分で可能な限り調べて、最終確認のみを先方にやってもらうようにしています。
また、それでも返答が無い場合は別の方にも聞いて、なるべく早く的確な回答を得られるように奔走しています。
野村:
大変ですね・・・。
山木さん:
ここが一番大変なところかもしれません。笑
昼・夜、平日・週末の人の流れと雰囲気をしっかり下見しておく
野村:
マンション購入後を見越してやっておくべきことはあるでしょうか?
山木さん:
不動産屋に色々話を聞くのも重要ですが、ご自身で物件の周りを散策して、周辺の様子を確認することをおすすめします。
例えば、最寄駅やスーパーから物件まで、
昼夜、平日・週末と歩いてみることで見えてくるものもあります。
物件周辺の車の交通量などもチェックしておく。
私は以前マンハッタンのミッドタウンに住んでいたことがあるのですが
ミッドタウンのイーストサイドは平日の昼間は人通りが多いのですが、夜になると人が少なくなります。
人通りが少ないからといって治安が悪いわけではありませんが、昼間の賑やかさだけを見て購入すると、昼夜のギャップに驚かれるのではと思います。
あとは逆に一階にレストランのある物件を購入して、うるさかったというケースもあります。
レストランなので、静かなのかと思ったら、若者が集まる賑やかなレストランで騒音が大変だったと言う話も聞いたことがあります。
コロナ後のニューヨークは歴史的な低金利で住宅購入市場は伸びている
野村:
最後にニューヨークの住宅市場の話を伺いたいと思います。
例えば、賃貸と商業用不動産は落ちているというニュースを見たことがありますが、住宅購入市場の動向はいかがでしょうか?
山木さん:
まず、賃貸と商業用不動産市場は新型コロナの影響で落ちていたのですが、ここ最近、また回復に向かっています。
賃貸市場は2021年の4月末ごろから、商業用不動産に関しては2021年の初め頃から引き合いが増えてきていると感じています。
ちなみに住宅の売買に関しては2020年の末ごろから良くなっています。
野村:
なるほど。では今はむしろ買い時ということでしょうか?
山木さん:
ニューヨークはいつも買い時です。笑
ニューヨークは毎年2〜3%程度、不動産価格が上昇を続けています。
そのため今年買わなかったら、来年また2〜3%上がった価格になります。
確かに新型コロナで価格が落ちた物件はあるものの、今は回復しており、
特に低価格帯の物件はすぐに売れてしまいます。
逆に $5〜10 Million (およそ5.5億円から11億円)の物件は10〜20%ほど価格が下がったままなので、狙い目です。
また、新型コロナの影響もあり、昨年からアメリカでは歴史的な低金利が続いており
それがきっかけで初めて不動産購入に踏み切る人が増えています。
野村:
なるほど。では購入後に値崩れを起こすリスクは低いということでしょうか。
ちなみに中古物件はどうでしょうか?
山木さん:
ニューヨークは中古物件の数がすごく多いです。
中には築50〜100年の建物もあり、中をきれいに改装して新築より高値で売られることもあります。
日本のように中古だから値崩れを起こすということはほとんどないですね。
最後にひとこと
野村:
これからニューヨークでマンション購入予定の方にひとことお願いします。
山木さん:
これからご購入でわからないことも多いかと思いますので、わからないことがあればお問い合わせ頂ければと思います。
野村:
ありがとうございました。
まとめ
最後までお読み頂きありがとうございます。
今回は山木さんにニューヨークでの住宅用のマンション・不動産購入のポイントをご紹介頂きました。
ご紹介頂いたポイントは住宅用だけではなく、不動産投資用にも共通する部分は多々あると感じます。
ニューヨークでのマンション購入を検討されている方は参考にして頂けると幸いです。
また、山木さんに「NY不動産投資ガイド: コロナ後の市場動向と購入時のポイント」の資料をご提供頂きました。ダウンロード無料ですので、こちらも併せてご参照ください。