カナダ政府は、2050年までに二酸化炭素ネット排出量ゼロ(カーボンニュートラル)を実現すると宣言。
政府による具体的なCO2削減目標が立てられたことが、カナダの電気自動車業界の活性化の引き金となりました。
実はカナダでは、自動車を始めとする運輸分野がCO2の大量排出源となっています。
運輸分野でのCO2削減の大幅なテコ入れが必要な状況を踏まえ、政府は「2040年までに販売する自動車を100%、EVなどのゼロエミッション車に限定する」という目標を立てました。
そもそも、カナダには風力・水力発電をはじめとする再生可能エネルギーが豊富。90%以上の電力は再生可能エネルギーが使用されています。
再生可能エネルギーを使って充電ができるEV (Electric Vehicle: 電気自動車、以下 EV)が、CO2削減の鍵として注目されています。
政府はEVサプライチェーン戦略の1つとして、EV製品に関わる企業に対して法人税を50%軽減するなどの経済支援を行うファンドを立ち上げ、カナダへの企業誘致を積極的に行っています。
その誘致活動の成果として、すでにオンタリオ州では、米国自動車大手フォード・モーターが2020年9月にEV生産設備に18億カナダドルを投資すると発表し、フィアットクライスラー・オートモービルズも、ハイブリッド車とEVの両方を生産する最先端設備に最大15億カナダドルを投資することが明らかとなっています。
こういうった背景から、カナダ大使館による日本、韓国、台湾を対象とした、「カナダEVサプライチェーンへの投資、参入」に関するウェビナーが開催。本記事ではウェビナーの要旨をまとめました。
目次
1. 鉱山資源から製造工場まで、EVバッテリーの全てが揃うエコシステム
Presentation:Battery Manufacturing and R&D in Canada and the Federal Government Programs
Speaker: Dr. Sankar Das Gupta CEO and Co-founder, Electrovaya. Adjunct Professor, University of Toronto
まず「カナダという国がいかに世界的なEVマーケットにおいて重要か」というテーマで Electrovaya社CEOのSankar das Gupta氏による講演が行われました。
カナダ政府が「2040年のゼロエミッション車100%」という目標を立てた事で、EV業界が注目を集めていますが、それ以前からカナダにはEVバッテリー製造のエコシステムがすでに存在していました。
特にカナダの一番の強みは、豊富な資源。
EVバッテリーに必要不可欠なミネラル資源が豊富で、蓄電池に必要なコバルトやリチウムなどの鉱山資源はカナダの強みです。
さらに蓄電池の製造、部品工場、使用済み蓄電池のリサイクルまで一連のエコシステムがすでに存在します。
フォードやフィアットクライスラーなどの大手自動車企業のOEM工場がカナダにあり、資源の採掘から製造までの一連の流れを行うことができます。
参照: Battery Manufacturing and R&D in Canada and the Federal Government Programs
また政府のフラッグシッププロジェクトとして、イノベーションファンドを設立し、このエコシステムをさらに活性化させようという動きがあります。
このプロジェクトは、イノベーションのための開発費援助から、優秀なエンジニアのビザサポートまで、カナダのEV業界の活性化のために必要なサポートを幅広く提供。特に毎年約30億カナダドルが提供されるイノベーションサポートは、世界でもトップクラスの支援額です。
またオンタリオ州、ケベック州を始めとする州規模でもEVバッテリーイノベーションへの研究開発サポートが行われています。例えば、オンタリオ州に新たに新たに設立されたフォードのEV生産設備には、予算18億カナダドルに対して、5.9億の政府サポートがあったと発表されています。
参照: Battery Manufacturing and R&D in Canada and the Federal Government Programs
2. 本気でEV推進するカナダ政府の手厚い補助
Presentation: From Mines to Mobility
Speaker: Cara Clairman CEO, Plug’n Drive
次にPlug’n DriveのCEO、Cara Clairman氏による、EVの啓蒙活動に関する講演が行われました。
世の中でEVへの注目が高まっている中、Plug’n Driveの主な取り組みは、トロントで Electric Vehicle Discovery Centreという施設を運営し、試乗や展示施設を通して、EVの魅力を消費者に伝えることです。
実際にEVに乗り換えた場合、経済面と環境面で、どのようなメリットがあるのか、消費者目線でのEVのメリットに関する説明がありました。
EVは高額なイメージがありますが、Clairman氏によると、カナダ全土で電気代はガス代の20%程度の金額であるため、年間$2,000カナダドルの維持費を節約できる。さらに、環境面では最大90%CO2削減に繋がるということです。
また、EVの電気を建物や送電網に供給する、V (Vehicle) to Xの実証実験も行われており、今後、環境面での更なるメリットが期待できるようです。
参照: From Mines to Mobility
カナダ政府では、すでにEV販売促進プログラムの一環として、EV購入の際の補助金を提供しています。
例えば、「iZEV」プログラムでは、バッテリーのサイズに応じて$2,500カナダドルから$5,000カナダドルの補助金が購入者に支給されます。
さらに、充電インフラのさらなる整備拡大のため、ケベック州では電力大手ハイドロケベック社に500万カナダドル(約4億円)を資金援助することを発表しています。
研究開発への投資はもちろん、消費者に対してEV購入のプログラムを積極的に推進しており、今後のカナダのEV業界の成長に期待がもてます。
3. サンフランシスコの1/3?圧倒的に安いオペレーションコストと豊富な資金調達環境
Presentation: From Mines to Mobility: Opportunities in the Canadian Battery Supply Chain
Speaker:
Eric Rondeau, Senior Strategic Advisor Battery & Electrification Initiatives
Karim Zaghib, Senior Strategic Advisor Battery & Electrification Initiatives
Amyot Choquette, Senior Director, Investments
次に「ケベック州を中心に、カナダがどのようにEVバッテリーサプライのハブとなるか」というテーマで Investissement Québec InternationalのKarim Zaghib氏による講演が行われました。
Investissement Québec Internationalでは、EV関連企業への投資やファイナンシャルサポートを提供。
実際にInvestissement Québec International がシェアホルダーとなり、マイニング企業とバッテリー部品プロジェクトが進められています。
カナダにはEVバッテリー製造に必要な資源が揃っているという話がありましたが、特にケベック州ではリチウムを始めとする、EVバッテリーに必要不可欠なミネラル資源のマイニング事業が盛んです。下の地図をみると、ケベック州にはリチウム、コバルト、二ケルの採掘場所が豊富であることがわかります。
参照: S&P Market Intelligence, Québec Government Market Study
マイニング事業には政府からの経済援助が盛んに行われており、過去3年間の援助額を比較すると、特に2018-2019年のデータではマイニング事業にトータル4億円以上の資金援助が行われ、政府の期待度の高さが伺えます。
参照: From Mines to Mobility: Opportunities in the Canadian Battery Supply Chain
また他の北米の主要都市と比較すると、ケベック州の工場のオペーレーションコスト、電力コスト、従業員の給料水準は低いという特徴があります。
特に水力発電が盛んなケベック州では、工場での電力コスト他の北米都市と比較して圧倒的に低く、例えば、ケベック州の電力コストはサンフランシスコと比較すると3分の1になります。
参照: Comparison of Electricity Prices in Major North American Cities, 2019 Edition, Hydro Québec
製造においても、99%以上の電力を水力発電などの再生可能エネルギーで賄うことができ、環境面においても企業がケベック州に工場を置くメリットがあります。
4. カナダのEVバッテリー業界を後押しする大学・研究機関
Presentation: University of Toronto Electrification Hub
Speaker:
Prof. Cristina Amon, Scientific Director
Dr. Carlos Da Silva, Executive Director
最後にトロント大学のCristina Amon氏とCarlos Da Silva氏から、トロント大学内におけるイノベーションエコシステムの簡単な紹介がありました。
参照: From Mines to Mobility: Opportunities in the Canadian Battery Supply Chain
トロント大学では EV普及に向けて、特に以下の6つの分野を研究し、カナダのEV産業の成長を促しています。
- 次世代バッテリーの研究
- シミュレーション・データ解析
- E – モビリティのサブシステム(パワートレイン、充電)
- E – モビリティのシステム
- E – モビリティ関連技術(蓄電池、再生可能エネルギー)
- E – モビリティと社会の調和
トロント大学は世界トップクラスのEVや再生可能エネルギーの研究機関ということで、富士通など日本の大手企業も積極的にパートナーとして参加しているということです。
まとめ
豊富な資源、その資源を活かすエコシステム、そして積極的な政府の経済援助が、カナダのEVバッテリーサプライチェーンの優位性に繋がっていることがよくわかる講演でした。
世界で脱ガソリン車への動きが注目を浴びていますが、カナダの今後のEV市場への取り組みが理解できると同時に、カナダへの事業誘致を図るためにも効果的なウェビナーであったと思います。