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【2020年7月発効】新NAFTA (USMCA/CUSMA/T-MEC) と北米の自動車業界への影響

【2020年7月発効】新NAFTA (USMCA/CUSMA/T-MEC) と北米の自動車業界への影響

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2017年にトランプ大統領が掲げる「米国第一主義」の一環として、自由貿易協定 (Free Trade Agreement: FTA) の見直しが行われました。その一つが、北米エリアの3ヵ国 (アメリカ、カナダ、メキシコ)の間で締結されてきた NAFTAの見直しです。

本ページでは、カナダ大使館主宰セミナー「カナダの視点から見た新NAFTA(合意の意義と企業へのインパクト)」の要旨をまとめました。

新しいNAFTAで押さえておくべきポイント、特に NAFTA再交渉で最も意見の対立が激しかった自動車産業の原産地規則の見直しについて、押さえるべきポイントご紹介していきます。

まず、本記事の内容に入る前に主要な用語の振り返りを行います。

新NAFTAに関連する主要用語の振り返り

新たに発行されるNAFTAの呼び方

今回新たに発行されるNAFTAには、New NAFTAやNAFTA 2.0など様々な呼び方が存在します。また国によって呼び方が異なりますが、基本的には同じものを指します。(※手続き方法は国によって異なります。)

  • カナダ: CUSMA (Canada United States Mexico Agreement)
  • アメリカ: USMCA (United States-Mexico-Canada Agreement)
  • メキシコ: T-MEC (Tratado entre Mexico, Estados Unidos y Canada)

Preferential Treatment (特恵関税)

Preferential Treatmentの要件を満たし、適用が認められれば、カナダ-アメリカ-メキシコ間の関税、Merchandize Processing Fee (通称: MPF、商業貨物税関使用料)が免除されます。

本記事では、このPreferential Treatment (特恵関税)の適用の条件について、セミナーで語られたことをご紹介しています。

Regional Value Content (通称: RVC、域内原産割合)

前述の Preferential Treatment の適用を受けるために特定の域内原産割合の数字を満たす必要があり、以下の式で求めることができます。詳細はJETROのページにて (※パーセンテージなどは以前のNAFTAのままなので注意。)

  • RVC=[NC (Net Cost of the good、物品の純費用) − VNM (Value of Non-originating Materials、非原産材料価額) ] / NC×100

新NAFTA、自動車産業に関する5つの主要な条件変更

Presentation: CUSMA: Rules of Origin & Alternative Staging Regimes
Speaker: Martin Thornell カナダ・グローバル連携省 原産地規則担当交渉官

本セッションでは新NAFTAでの主要な変更、5つが紹介されました。

以下では条件変更を個別に見ていきます。

Regional Value Content (RVC) 条件が62.5%から75%へ引き上げ

乗用車、小型トラックなどの、いわゆる Light Vehicle の完成車に対しての域内原産割合 (以下、RVC) を現行の62.5%から75%への引き上げられます。

移行期間は合計3年。新NAFTAの発効日である 2020年7月1日に66%になり、そこから段階的にパーセンテージが引き上げられます。

Core Parts (基幹部品) の条件も62.5%から75%へ引き上げ

上記の完成車と同様に、Core Partsに対してもRVCの条件が課されます。

Core Partsとは 6+1 Core Partsを指し、具体的にはエンジン、トランスミッション、車体、サスペンションシステム、ステアリングシステム、アクセル、電気自動車用バッテリーの7つのことを指します。

自動車用の鉄鋼の調達率条件の追加 (Originating Steel)

自動車メーカーが購入する鉄鋼の域内調達割合を70%とする条件が追加されました。

また、自動車メーカーが直接調達する鉄鋼だけではなく、自動車の部品を提供しているサプライヤーが購入したものにも適用されます。

例えばサプライヤーが車の車体部分を作った場合でも、そこに使われている鉄鋼の域内調達割合が70%であることが求められます。

自動車用のアルミニウムの調達率条件の追加 (Originating Aluminium)

上記の鉄鋼の条件と同様です。

労働者の賃金条項の追加 (Labor Value Content – LVC)

乗用車製造に関わる、工場、部品製造施設、組み立て施設などで働く従業員に対しての賃金条項も追加されました。

時給US$16 (およそ、CA$21)以上の賃金を受け取っている従業員の割合を、発効日である2020年7月1日には30%、3年後には40%とする必要があります。

現時点でアメリカ、カナダではこの賃金要件を満たしているため、両国のケースでは大きな問題にはなりません。

一般的な自由貿易協定 (通称: FTA、Free Trade Agreement) は複数条件のうち、いずれかを満たすだけで良いが、今回の新NAFTAが特殊な点は上記5つの全ての条件を満たす必要があります。

Thornell氏は、これまで TPP、CPTPPなどの協定に携わった経験があるが、今回の新NAFTAはそれらと全く異なり、自動車産業にとって厳しい条件だと言及しています。

特に、Preferential Treatment の適用を受けるために、以下の条件をクリアしていることを証明するため、全ての情報を自身で収集する必要があり、そのためにはサプライヤーとのやりとりが発生します。

そういった意味で自動車メーカーはもちろん、部品のサプライヤー、特にコアパーツを提供しているサプライヤーに対しての負担 (労働者のコストの算出・見直しなど) が大きくなるだろうとしています。

北米の自動車産業への影響、抑えておくべき3つのポイント

Presentation: The New North American Free Trade Agreement – Moving from NAFTA to CUSMA
Speaker: Joy Nott KPMG カナダ、貿易・税関担当パートナー

本セッションでは新NAFTAへの移行に関して、3つの留意事項が紹介されました。

新NAFTAの適用日が7月1日になったことで発生する事務処理

これまでのFTAは1月1日に発効されるのが慣例でした。

その理由は、自動車メーカーや部品製造施設がアベレージング制度 (※)をベースに暦年を用いているからです。

(※アベレージング制度とは自動車及び自動車部品の域内原産割合を一定期間や基準に基づき平均することを認める制度のこと)

そのため、新NAFTAが7月1日から適用されると、計算方法の変更や、これまで10月から12月に行っていたサプライチェーンからの原産資格情報の収集が期中にずれ込んでしまいます。それにより、コンピューターシステムの改修や膨大な事務処理を行う必要がでてしまいます。

USMCAのエラーにより、MPFの還付がされない可能性がある

米国に商品を輸入する際、Merchandize Processing Fee (通称: MPF、商業貨物税関使用料)と呼ばれる、税関使用料金が課されます。
通常 MPFはFTAの対象外の商品に適用され、輸入後に自由貿易による優遇措置の適応申請をした場合、関税と一緒に返還されます。

しかし、今回USMCAで規定されているのは関税の還付のみで、MPFの還付を認めていません。

米政府はこれはエラーとして認識しており、この問題は現在検討中ですが、いつ修正されるかの見通しが立たず、また修正されたとしても、2020年7月1日に遡って還付されるかはわらかないという状況にあります。

Nott氏によると、今回のような新しい法律ができ、必要な情報が手元になく自社が適格かどうか判断することができない場合、とにかくMPFや税金を先払いし、商品を送ってしまいます。通常、商品送付後の1年間は資料の提出期間があり、その手続きを行い、後から手数料・税金を戻す、というのがカナダのビジネスの慣行だそうです。

ただ前述の通り、2020年7月1日に遡って還付されるかどうかわからないので、このやり方にもリスクがあります。

原産地証明書となる所定フォーマットが存在しない

CUSMAは、Preferential Treatmentの適用申請の際に所定のフォーマットを義務付けておらず、あくまで「必須記載事項」を明記すれば、フォーマットは指定しないというスタンスをとっています。

その理由は、商品が適格なのは明らかなケースでも、フォームが不完全だからという理由で申請が拒絶されないようにするのが狙いでした。

ただし、これが逆に自動車業界に混乱を招き、今では標準的な申請用のテンプレートが作成されています。ただ、あくまでこれは自動車セクターが独自に制作したもので、法律で提出を義務付けされたものではありません。

単純にフォーマットがバラバラだと事務処理が大変なので、北米のサプライヤーが「必須記載事項」ではなく、所定のフォームの提出を求めてくることがあります。

まとめ

本記事では、新NAFTAと自動車業界への影響をご紹介しました。
コロナの影響で打撃を受けた自動車メーカーや関連会社が多い中、今回の新NAFTAが発効され、対応に迫られています。

新NAFTAの発効を受け、これまでメキシコに工場を保有していた日本の自動車会社がアメリカへの移転を検討するなど動きがあるという話もあります。
ただ、現状のコロナ渦の中で自由に工場移転するのは難しく、さらに11月にはアメリカの大統領選もあり、先行きが見えない状況にあり、すぐに行動に移せないのが現実だと思います。

今後、新NAFTAの動向はもちろんアメリカの政情も含め、慎重に判断していくことが求められます。

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