インタビュー , 北米進出

カナダの介護施設の建築家が語る、カナダの介護施設建築の実情

カナダの介護施設の建築家が語る、カナダの介護施設建築の実情

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今回は、バンクーバーで介護施設のスペシャリストとして活躍される廣田さんにお話を伺いました。

本インタビューでは、日本とカナダの介護施設の違いについて、また日本人の経験がどのようにカナダで活かすことが出来るかという部分に焦点を当ててお話頂きました。

Profile:
廣田瑛太郎
バンクーバーの建築会社NSDA Architectsに勤める、介護施設建築のスペシャリスト。
主に認知症の方向けの施設や高齢者に優しいコミュニティ建築のプロジェクトを行なっている。
現在はカナダで初の試みとなる、認知症の方向けの村型のコミュニティー施設の建築に携わっている。
University of British ColumbiaとSimon Fraser Universityにて建築学の講師を勤める。

渡部:
まずなぜ介護施設の建築というキャリアを選択したのかというところから伺えればと思います。

廣田さん:
そうですね。そもそもは僕もアクティブな若者が集まるようなクールなデザインをしてたのですが、9年前、父の病気がきっかけで、初めて医療・介護施設に通うことになってその現状を知りました。僕がその時訪れた施設のほとんどがすごい閉鎖的な空間というか、あまりいい印象を持たなかったんですよね。その時から、自分で自由に身動き出来ない方々が過ごしている、医療・介護施設をもっと変えたいなと考えました。それで、介護施設の建築を多く行なっている今の事務所に移る事にしました。

カナダは後追い、ただし法整備の動きがかなり早い

渡部:
そういう背景があったのですね。
それでは、日本とカナダの介護施設の考え方の違いについて教えて頂けますか?

廣田さん:
介護施設の考え方という部分では、日本の方がかなり進んでいますね。
そもそも日本は多世帯で住んでいたという歴史もありますし、高齢化の進み方もカナダと比べて10~15年くらい早いですからね。
カナダも10~15年先には日本と同じような人口分布になると思うのですが、まだまだ人々の意識に浸透されていない気がしますね。
参照記事:世界の高齢化率(高齢者人口比率) 国際比較 (日本は高齢者人口比率が世界でトップ)
高齢化率は総人口に対する65歳以上人口の比率
・日本     順位:1位    比率:27.05%
・カナダ 順位:29位 比率:16.98%

渡部:
介護施設の建築という視点からみて大きく異なる部分はありますか?

廣田さん:
はい、ありますね。
もともと、介護施設というのは病院から派生された建物なんですよね。
その介護施設も大きく分けると二つのタイプに別れていて、BiomedicalSocial Spaceという二つの概念に分けることができます。
Biomedicalというのは、病院に近い考えで、直訳すると生物医学となります。
これに対して、Social Spaceというのは、より普通の暮らしの人間の関わりとコミュニティに重視する考え方となります。
シンプルな身体的な健康を重視するのか、それとも人との関わり合いを重視するのかということになります。

渡部:
それで言うと、日本は病院に近い作りの施設が多いような印象です。それに対して、カナダではあまりそのような建物をみない気がします。

廣田さん:
そうですね。確かに日本は見るからに介護施設という、病院のような建物を目にすることもありますね。ただし、日本の面白い所は、このような病院に近い建物が多くあるのと同時に、かなりSocial Spaceの概念に力を入れている施設も多く存在することです。高齢化が進む中で色々なアプローチを試しているのではないかなと思いますね。
その為、日本の介護施設のバリュエーションはかなり豊富ですね。

それに対してカナダですが、以前は長い廊下にたくさん部屋があって、大きな食堂でみんなでご飯を食べてという、かなり病院に近い建物が多かったんですよ。
ただし、約20年前に現在私が所属している事務所が中心になって、より普通の住宅に近いデザインにする動きが強まったんですよ。するとそれがそのまま介護施設のガイドラインとなりました。
その為、今は以前のような病院に近い作りの介護施設はそもそも作ることができないことになっています。

これがカナダの面白い所でもあるのですが、法律やガイドラインで決めることに関しては、かなり動きが早いんですよね。
例えば、今は集合住宅のバスルームをデザインする場合でも、バスタブの下に排水口を設置しないといけないことに建築基準法で決まっているんですよ。そこに住む人が、将来年を取った時に、バスタブを取って、車椅子でシャワーを浴びれるように設計しないといけないことになっているんですよね。
このように、より自然体でみんなが暮らしやすくする工夫は、カナダの方が進んで取り組む印象がありますね。

介護施設先進国の日本から学ぶものはまだまだ多い

渡部:
実際にその異なる概念をもつ日本から学ぶこともありますか?

廣田さん:
かなりありますね。先ほども申し上げたように、日本は高齢化に対して普通に対策をしていても、中々追いつかないという風に考えていると思うんですよ。その為、色んな方法にチャレンジしている印象です。そこから私は学ぶことが多いですね。
介護施設で今色々チャレンジしているという面では、日本が今世界で一番進んでいると思いますね。

渡部:
日本の施設で刺激を受けたものはありますか?

廣田さん:
2年前にシェア金沢という施設を見学させてもらったのですが、この施設は僕がやりたいことに近くて、とても面白かったですね。
施設というより、一つの「小さな街」になっているんですよね。その中で買い物ができたり、カフェがあったりするんですよね。
その建物の配置の仕方などがいいなと思って影響を受けました。
こういう普通の住環境と変わらない施設が作れればと昔から思っていたんですよね。

そこで、このイメージでアルツハイマー患者用の新しい施設を作ることにしました。
今までのカナダのアルツハイマー患者用の施設というのは、アウトドアスペースもなくてほとんどを室内で暮らすという作りだったんですよね。これをどうしても変えたくて。
今建設しているんですが、それこそシェア金沢のような、「小さな街」というのがコンセプトになっています。
本当にこういう試みは初めてなので、今からワクワクしていますね。

※現地メディアによる廣田さんのインタビュー。内容は建設中のアルツハイマー患者用の施設について。

カナダも日本も街の「循環」が建築の共通テーマ

渡部:
日本の施設からも多くの刺激を受けているんですね。それでは今後は、この「小さな街」のようなイメージが主流となってくるのでしょうか?

廣田さん:
そうですね。僕は建築というのは建物だけではなくて、町との関係もみなくてはいけないと思っています。
どのような敷地があって、どのように外と関係と持っていくかを考える必要があるんです。

そういう視点から言うと、老人ホームだけをデザインしていたら、高齢化の問題は解決できないんですよ。
社会全体で、各建物だけではなくて、どのように地域の中で歳をとって、そこに若い人も住むようになってという「循環」を考えないといけないと思っています。
この「循環」というのはカナダでも、日本でも今後の介護施設業界の共通のテーマとなると思います。

日本もカナダもある程度共通しているのが、戦後、ある一定の世代を対象に集合住宅を作ってしまった歴史があるということです。そうすると、ある一定の世代がいっぺんにそこに住むようになって、みんなが同じように歳を取ることになるんですよ。
そういうエリアが今、若い人には住みづらいエリアとなって、商店街が閑散としている状況が生まれるわけです。
このようなエリアはどうしてもうまく「循環」ができないんですよね。

バンクーバーでも大きなコンドミニアムを作って終わってしまうと、一定の層しか買えなかったりするので、「循環」という意味ではうまくいかないことが多いです。
それよりも今後は、老夫婦が住んでいる近くに、若いカップルが引っ越してこれるような地域で多世帯で住める環境をどう作っていくかに注力したいなと思ってます。
これは高齢者住宅、これは若い人向けという建物ではなくて、自然とその地域に多世帯で住める環境が整えばいいなと思いますね。

渡部:
多世帯住宅というのは日本では聞くことがありますが、カナダでもそのような概念があるのでしょうか?
映画などは、大学と同時に実家を出て、一人暮らしをするイメージがあります。

廣田さん:
まさにそうですね。その為、今まではかなり多世帯という言葉自体が希薄化していたんですよ。
だから僕がこういう街づくりの話をしても、みんなピンときてないということが多かったんですよね。

ただ面白いのは、日本でいうゆとり世代に当たる、ミレニアルズというのは、結構多世帯に適応しているみたいなんですよ。
大学に入る際に一人暮らしをして、それからまた実家に戻って家族と一緒に暮らすということも珍しくないみたいです。

日本でも、若い世代はシェアハウスで住むことがかなり拡まっていて、世代の全く異なる人とも暮らすことにあまり違和感を抱かない人も増えているようです。
ミレニアルズには多世帯というラベルを貼らずに、システムとプラットフォームさえ用意すれば、多世帯で住む構造が自然発生するのかもしれないなと思っています。

日本でのユニークな経験は世界で評価される

渡部:
日本からも多くの影響を受けているという話がありましたが、日本人としてカナダ、または海外で建築家として武器になることはありますか?

廣田さん:
はい、ありますね。
日本の建築形式はそもそもすごいユニークで評価されている部分でもあります。
例えば、土間とか床の間という昔からの形式ですね。
日本のユニークな経験はかなり武器になると思いますね。

ある建築物に対して、居心地がいいと思う空間は日本人でもカナダ人でも同じだと思っています。
最終的には人対人なので。

そこでどのようにその居心地の良さをデザインするかは、どうしても自分が経験したことでないとデザインに組み込めないんですよ。
実際に僕もデザインを行う際に、自分が経験したことないことはデザイン出来ません。
その為、日本の独特な経験をデザインに組み込むことをうまく活かせるといいかなと思いますね。

まとめ

日本の施設から影響を受けて、新しい施設の建築のアイデアに結びついた話は非常に興味深かったです。
現在介護施設業界で、一番チャレンジングな取り組みを行なっているのが日本というお話がありましたが、こういった部分で日本のユニークなアイデアが海外にも影響を及ぼすことがあれば、日本での建築経験を持つ建築家には、今後益々世界の舞台で活躍する場が増えるのではないかと思います。

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