情報技術と通信インフラ発達で、自動車産業の構造が大きく変化しています。
自動車業界で生き残るために、新たなテクノロジーの開発は必要不可欠になりました。
これまで自動車とは無縁だった、GoogleやUberなどのテクノロジー企業が参入。自動車メーカー各社が競って、R&D投資に力を入れています。
そこで注目を集めているのが、アメリカの隣国カナダ。
Google、Uberなどのテック企業やGMやFordなどの自動車メーカーなど、アメリカ企業を中心にカナダに投資を行っています。地理的な近さだけではなく、カナダ、特に東海岸の都市のテック人材の技術力の高さがその理由です。
本ページでは、カナダ大使館主宰セミナー「オンタリオ州の新たな自動車産業へ向けたR&DスキームAVINとの協業機会」の内容の要旨をまとめました。
オンタリオがなぜ自動車セクターのR&Dとして注目を集めているのか、オンタリオ州の3つの魅力をご紹介していきます。
目次
カナダのオンタリオ州にて「自動車 x テック」のR&D拠点設立、3つの魅力
Presentation: Ontario’s Autonomous Vehicle Innovation Network (AVIN)
Speaker: Raed Kadri 自動運転イノベーション・ネットワーク(AVIN)代表
以下ではKadri氏のプレゼンテーションの内容を基に、オンタリオの3つの魅力をまとめました。
魅力1: 自動車とテック企業が集まる Ontario’s Auto Tech Corridor
参照: Ontario’s Autonomous Vehicle Innovation Network (AVIN)
オンタリオ州には、北米で2番目に大きい自動車の製造拠点 (赤色)と北米で2番目に大きいテッククラスター (青色)が隣接しており、それぞれ Ontario Auto Corridor と Waterloo – Toronto – Ottawa Innovation Corridorと呼ばれるクラスターを形成しています。
Ontario Auto Corridor
5つの大手自動車メーカー (FCA, Ford, GM, Honda, Toyota)を中心に、Ontario Auto Corridorと呼ばれる自動車セクターのハブを形成し、約3.5万人の雇用を創出。また、Ontario’s Auto Corridorのクラスター内には700以上の部品メーカーが存在し、7万近くの雇用創出をしています。
また、オンタリオは2018年の自動車生産台数はインディアナ (3位)、ケンタッキー (4位)、オハイオ (5位)を抜いて北米2位。生産台数は年間およそ200万台に上ります。
参照: Ontario’s Autonomous Vehicle Innovation Network (AVIN)
Waterloo – Toronto – Ottawa Innovation Corridor
5,000以上のスタートアップ + 40万人以上のテック人材を抱える北米で2番目に大きいテッククラスター。
詳細は以前の記事「[トロント・ウォータールー・モントリオール] カナダ3都市の投資先・R&D拠点としての魅力」でご紹介した通り、オンタリオはビジネスと研究施設や大学との連携がしっかり取れており、「自動車産業 x テック」の研究開発も盛んです。
オンタリオで行われている「自動車 x テック」関連の投資の例は下記の通りです。
- General Motor (GM): 自動運転のAIソフトウェアの開発拠点 – 700 High tech従業員。
- Uber: アメリカの外で初めてのR&Dセンターをトロントに設立。現在、Computer Vision & Mapping関連のエンジニアを90名を採用し、投資額を増やして施設の規模拡大。
- Ford: コネクティビティ関連プロダクトの開発拠点 (約450名)。
また、州としてモビリティ関連のR&Dを後押ししており、2016年にカナダで初めて路上での自動運転テストを認め、既にMagna, Uber, BlackBerry QNXなどの企業が実際に路上でのテストを行っています。
「自動車 x テック」に関するR&Dを推進する企業が多数存在し、政府から支援も強力なのは大きな魅力です。次項では政府プロジェクトAVINについて触れていきます。
魅力2: モビリティの未来を創出するプロジェクト「AVIN」
AVIN (Autonomous Vehicle Innovation Network) とは、自動車とスマートモビリティのテクノロジーの推進を行うオンタリオ州のフラッグシッププロジェクト。
主に、オンタリオ発の自動車テクノロジー / スマートモビリティの商用化の促進、イノベーションとコラボレーションの創出、オンタリオの関連人材の開発・育成に取り組んでいます。
これまで、AVINがサポートした代表的なプロジェクトは次の通りです。
1. Sensor Cortek Inc.
自動運転向けのAIの開発を行っているSensor Cortekと大手自動車メーカー Valeoが協力して、ディープニューラルネットワーク (DNN) を使用して次世代の高角度分解能のイメージング・レーダーの開発に取り組んでいます。
AVINはValeoとSensor Cortekの引き合わせ、そしてテクノロジーの開発とプロトタイプのサポートを行いました。
2. Brisk Synergies
Brisk SynergiesはコンピュータービジョンとAIを活用して自動で交通安全の分析を行い、交通事故の確率を予測するソフトウェアの開発を行う企業。AVINを通じて、Waterlooと協業し、精度のテストを行いました。
3. Pantonium
公共交通機関のルートの最適化を行う企業。AVINを通じてオンタリオのベルビル市と協業し、決まったルートを走行する従来の方法から需要に応じて柔軟にルート変更ができるようになりました。結果は乗車率は300%改善し、走行距離は30%減少。サービスエリアは70%向上。
以下では AVINの主な特徴を3つをご紹介していきます。
中小企業の自動車関連のR&D促進する3つのプログラム
AVINでは、スマートモビリティ関連の新たなテクノロジーを開発する SMEs (従業員が500人以下の中小企業: Small and Medium-sized Enterprise)を支援するプログラムを展開。主要なプログラムは次の通りです。
1. AV R&D Partnership Fund –Stream 1 & 2
AV R&D Partnership Fund とは コネクテッドカーや自動運転などの最新の自動車技術の開発を支援するプログラム。R&Dプロジェクトで共同投資が必要なケースや、工場・サプライヤー・地方政府などのパートナーとの連携が必要な場合に利用されます。
[補助金額]
Stream 1: 12ヶ月の期間で最大$100,000の補助 (2:1 Match: $2を投資するごとに$1の補助)
Stream 2: 24ヶ月の期間で最大$1Mの補助 (2:1 Match)
プログラムの条件などの詳細は下記をご参照ください。
AV R&D Partnership Fund Stream 1: https://www.avinhub.ca/av-rd-fund/
AV R&D Partnership Fund Stream 2: https://www.avinhub.ca/av-rd-stream-2/
2. WinterTech Development Program
冬の悪天候でも適用できる新たなテクノロジーの開発を後押しするプログラム。
[補助金額]
24ヶ月の期間で最大$50,000の補助 (2:1 Match)
プログラムの詳細はこちら: https://www.avinhub.ca/wintertech-av-development/
3. Talent Development
学生のスキル開発支援を行うプログラム。
プログラム詳細はこちら: https://www.avinhub.ca/talent-development/
実際の環境でテクノロジーを動かせる、AVIN Demonstration Zone
AVIN Demonstration Zoneはトロントの南西に位置するストラットフォードに設けられた特区です。
市内全体で利用できるWifiやLTEなどのITインフラと市内のバスなど公共交通機関を用いて、実際の環境で自社のテクノロジーを実装し、見込み顧客 (自動車メーカー、サプライヤーなど)に見せることができる環境が用意されています。
パブリックセクターのスマートモビリティへの適用を促す Smart Mobility Readiness Forum
Smart Mobility Readiness Forumとは主にオンタリオ州のパブリックセクターに向けて、自動運転やスマートモビリティへの適用を促すために設立されたフォーラム。
公的機関として、スマートモビリティへ適用する際の課題やニーズを議論する場を提供し、州全体でスマートモビリティ化を進めています。
スマートモビリティ社会の実現・発達にはテクノロジー面だけではなく、公共面での協力も不可欠です。公共セクターに対して教育の場を提供しているのは大きな強みだと感じます。
魅力3: 世界トップクラスの人材を安価で
前回の記事でもご紹介したとおり、トロントやウォータールーのあるオンタリオ州はテック人材に強みがあります。CBREの2019年の調査によると、サンフランシスコとシアトルに次いで3番目に質が高いと評価されました。
参照: Ontario’s Autonomous Vehicle Innovation Network (AVIN)
また、従業員の雇用コストが他のアメリカの都市と比べて安く、例えば、オンタリオ州のトロントとミシガン州のデトロイトと比較すると 22%ほど安く抑えることができます。($51.40 vs. $65.70)
参照: Ontario’s Autonomous Vehicle Innovation Network (AVIN) – 紫がOntarioの都市。
税制面を見ても、オンタリオの製造業の法人税 (Corporate Income Tax)も25%と安く、Ohioに次いで北米で2番目に安いというメリットがあります (FederalとProvincialの両方を加味)。
参照: Ontario’s Autonomous Vehicle Innovation Network (AVIN) – 紫がOntarioの都市。
まとめ
本記事では「自動車 x テック」のR&Dの観点からオンタリオの魅力をご紹介しました。
R&D拠点の選定には、国ごと都市ごとの強みを吟味した上での判断が求められます。
今回ご紹介したように、カナダのオンタリオには、テックに関して幅広いポートフォリオがあり、自動車産業との連携がスムーズにいく環境が整っていることがわかります。
本記事がR&D拠点選定の参考になれば幸いです。