新しいアイデアに貪欲。そして、過去の実績にこだわらず、良いものであれば受け入れる土壌があるアメリカ。
そのようなアメリカの地では今までに多くのスタートアップ企業が生まれ、一代で誰もが知る大企業へ発展した事例も後を絶ちません。
今回は、パンデミックを機に誕生し、私が最近注目しているあるビジネスについてご紹介したいと思います。
目次
新型コロナを経て食材・日用品のデリバリーサービスの競争が激化
パンデミックがきっかけで生まれた便利なビジネスの一つが、食材や日用品のデリバリーサービス。
安全な方法で新鮮な食材を手軽に調達することを望む消費者の希望に応える形で始まったこのサービス。ベルリンで始まった Gorillas は今年の5月にニューヨークに上陸し、マンハッタンを中心にデリバリー地域を拡大中。
パンデミック前の2018年にロシアで始まった Buyk は今年の9月にニューヨークでもサービスを開始。マンハッタンでBuykの目印であるピンク色をまとった配達員をよく見かけるようになりました。
その他、ラテンアメリカで始まりソフトバンクの投資も受けていると言われる JOKR、2020年にブルックリンで始まった Fridge No More など、似たようなサービスを提供する会社が次々と誕生しています。
激化する競争の中、街中でも広告合戦を繰り広げるデリバリーサービス会社
こうしたビジネスの先駆けといえば、FreshDirect と instacart。
1999年にニューヨークで生まれ、東海岸の大都市で広がったFreshDirectは、オンライン版のスーパーマーケット。
豊富な品揃えでスーパーマーケットに行かずして生鮮食品が手に入るとして話題になりました。そして、2時間ごとの枠で配達時間を指定できるという消費者に寄り添ったサービスも人気です。従来アメリカでは、どのような配達であれ、配達日は指定できても配達時間までの指定はできません。そのような中、2時間の指定枠の間に確実に商品を届けてくれるFreshDirectのサービスは多くの人に喜ばれています。
オンラインスーパーマーケットの先駆け、FreshDirect
FreshDirectが独自のスーパーマーケットであるのに対して、2012年にカリフォルニアで始まったinstacartは、既存の各種スーパーや日用品店と提携。消費者はオンラインで予約して直接お店へ取りに行くこともできますし、複数のお店から注文した品物をinstacartを通じて配達してもらうことも可能です。
新興プレーヤーと FreshDirect, instacartなどの既存プレーヤーの大きな違いとは
一方で、今回ご紹介するデリバリーサービスのスタートアップのFreshDirectやinstacartとの大きな違いは、デリバリー時間の早さ。会社により若干時間は異なりますが、Gorillasは注文してから自宅に届くまでは10分以内であることを謳っています。
BuykとJOKR、Fridge No Moreは15分。その早さには目を見張ります。コンビニエンスストアのないアメリカでは、食材を買い忘れてしまった時、急に必要なものが出てきた時に困ってしまいますが、そうした消費者のニーズに応えてくれるのがこうしたデリバリースタートアップなのです。
新興デリバリーサービスのウェブサイトを見ると、いかにスピードを押しているかがわかります。
このビジネスが生まれることになった背景には、パンデミックによる都市部の物件の空室率上昇も大きく関係しています。
これらのデリバリーサービスの会社が、短時間での配達を可能とするためにはあらゆるエリアに倉庫兼配達拠点が必要です。そこで、空室となり家賃が下がった物件を次々に借りていったのです。お客さんが店舗を訪問するわけではないため、必要なのは商品を確保するためだけの最低限のスペース。マンハッタンの中心部で、”Employees Only”の張り紙がされたデリバリー会社の倉庫スペースを見かけるようになりました。
マンハッタンの中心、アクセスの便利なユニオンスクエア近くの大通り沿いに拠点の一つを構えるGorillas。一見普通のスーパーマーケットですが、従業員しか入ることができません。
利便性を超えた取り組みも: Gorillasが行う3つのサステイナブルな取組みとは
次々と新しい会社が市場に参入して熾烈な競争を繰り広げていますが、これらの会社のホームページを見ると、デリバリー時間の早さ、という便利さ以外にも、社会問題と対峙する会社の姿勢が浮かび上がってきます。
そして、そこには、近年アメリカで大きなテーマとなっている「サステイナブル」な(持続可能な)社会へ向けての取り組みが伺えるのが興味深いです。会社のミッションとしてより良い社会の実現をホームページでも紹介しているGorillasについて詳しく見てみましょう。
Gorillasが行うサステイナブルな取り組み#1: 配達員の労働環境の改善
Gorillasが掲げるテーマの一つが、配達員の労働環境の改善。
レストランの食事を配達する大手デリバリープラットフォームやアマゾンはパンデミックでさらに注目を浴びることになりましたが、それと同時に、配達員の劣悪な労働環境が社会問題にもなっています。一方で、Gorillasは会社のミッションとして一番に、配達員への配慮を挙げています。電子自転車を利用することで配達員の負担を減らし、福利厚生もあるフルタイムのポジションでの採用も積極的に行っています。
迅速なサービスが人気 © Gorillas
Gorillasが行うサステイナブルな取り組み#2: 地元企業や農家との提携
そして、二つ目のポイントは、地元企業や農家との提携。
こうしたスタートアップの会社が大手スーパーマーケットと対等に競争できるような価格設定で商品を提供できているのは、卸先から直接商品を仕入れているから。Gorillasは、地元の企業と積極的にタイアップしていることをホームページでも強調していますが、こだわりのものづくりを行なっていながらも大手企業に押されがちな小さなローカル企業にとって、こうしたスタートアップとの協業は、ブランドの認知度を高める上でも役立っていると思います。
地元企業の商品が並ぶGorillasのアプリ
Gorillasが行うサステイナブルな取り組み#3: 食品廃棄問題への取り組み
三つ目として挙げられるのは、食品廃棄問題への取り組み。
アメリカでは一般的にかなり大きなサイズや単位で商品が売られているため、食べきれずに捨ててしまうということがありましたが、Gorillasでは、バナナ1本からの購入が可能など、あらゆる商品が可能な限り小さな単位からの販売となっているため、必要な時に必要なものを必要なだけ購入することが可能です。
少量での購入が可能なのも便利
さらに、Gorillasは会社のミッションとして、車で買い物に行く消費者の行動スタイルから電気自転車での配達というスタイルとなることで、地球環境に優しいビジネスであることもホームページで明確にしています。
消費者のニーズに応えるだけなく、より広い視点で社会問題にも取り組んでいるデリバリースタートアップ。
これだけ短時間での配達を可能とできるのは大都市に限られると思いますが、今後どのようにしてビジネスを拡大していくのか興味深いです。サービス内容はどの会社も似ているため、ニューヨークを中心に、今後さらに熾烈な競争が繰り広げられることが予想されます。
実際、各社、クーポンコードを配布して最初の数回の配達料を無料としたり、最初のオーダーで大幅な値引きを提供したりと、まずは消費者にサービスを使ってもらうことに焦点を当てて躍起になっています。
まとめ
レストランのデリバリーで知られる大手の DoorDash も、今月6日から、マンハッタンでの日用品デリバリービジネスに参入し、競争は激化する一方です。
DoorDashは、既存のレストランデリバリーサービスの利用者との相乗効果を狙い、他社との差別化を図ろうとしているようです。既存の消費者にとっては願ってもいない便利なサービスである反面、Bodega(ボデガ)と呼ばれる日用品や生鮮食品を扱う地元に根ざした商店のビジネスを脅かしてしまっていているとの指摘もあります。
また、限りなく狭い倉庫スペースで通常のスーパーと異なりレジの人員なども不要であることから費用削減が達成できているとは言え、パンデミックが収束して倉庫スペースの家賃が上がってしまった場合にどのようにして利益を出していくのかなど、外部からは不透明な部分もあります。
消費者だけでなく、配達員からの満足度も高く、さらには社会を良くしたいとのミッションで急成長している日用品と食料品の配達サービス。1人の消費者として今後の展開に注目したいと思います。