今回はニューヨークにてご自身のサロン、ROOM SALON NYを経営されている美容師のTakeo Suzukiさんへのインタビュー。
Takeoさんはこれまで「VOGUE」や「ELLE」などのファッション誌の表紙のヘアスタイリングを担当し、「HAIR MODE」「新美容」など有名な美容雑誌に作品が掲載されるなど、美容業界の第一線で活躍されたあと、ロンドンへ渡航。ロンドンでは1年間、言語・文化・スタイルの違いと葛藤しながら、アシスタントとして現地のお客さん相手に経験を積み、NYへ。NYでは現地の日系サロンで様々な人種を相手に経験を積んで、現在はご自身のサロンを運営されています。
今回のインタビューでは、Takeoさんのロンドン・ニューヨークでの経験、そしてロンドン・ニューヨークで美容師やるなら知っておきたい3つのことをご紹介していきます。
Takeo Suzuki: 東京・ロンドン・ニューヨークの三つの都市で美容師としてのキャリアを積む。
「VOGUE」や「ELLE」などのファッション誌の表紙のヘアスタイリングを担当し、「HAIR MODE」「新美容」など有名な美容雑誌に作品が掲載されるなど、常に美容業界の第一線で活躍。ロンドンではヘアスタイリストStephen Low のアシスタントとして撮影やランウェイショーなどの現場を経験、ヘアチームとしてHugo Boss, Calvin Klein, Tommy Hilfigerなど数々の有名ブランドのスタイリングを手がけた経験をもつ。現在はニューヨークで自身のサロン ROOM SALON NYを経営する傍ら、雑誌、広告などのヘアスタイリングも担当。
「東京、ロンドン、ニューヨーク 世界で活躍する美容師 Takeo Suzukiさんインタビュー」
「ロンドン・ニューヨークで美容師やるなら知っておきたい3つのこと」
目次
Takeoさんのロンドンとニューヨークでの経験
ロンドンでアシスタントからスタートした理由
野村:
日本で豊富な実績がありながら、ロンドンでスタイリストとして仕事につくことが出来なかったと伺いました。理由は単純に英語が喋れなかったからでしょうか?
Takeoさん:
そうですね。やはり英語が喋れないとお客さんとコミュニケーションが取れません。
それでスタイルリストとしてやっていくのは厳しいですね。
そういうこともあって、まずはアシスタントとして働くことにしました。
アシスタントであれば、スタイリストとコミュニケーションが取れればなんとか仕事はできるし、アシスタントとして現場で働く中で、英語の勉強もすることができます。
実は渡英後、一週間でヘアスタイリストとして働いたこともあるのですが、英語が全然喋れないのでクビされたこともありました笑
野村:
なるほど笑
Takeoさん:
ロンドンでスタイリストとしてやっていくには英語以外にもロンドンのスタイルに慣れないといけません。
ある日、お客さんに『No.2』と言われたのですが、初めはそれが理解できませんでした。
後々、それが「バリカンを使った刈り上げ」を指すことがわかったのですが、
当時は理解できず、ハサミでカットしてしまい、それがきっかけでクビになってしまいました笑
こういう部分は慣れることが大切です。海外でやるとなると、初めはやっぱり時間がかかりますね。
あとは、その当時のボスから「ここを掃除しろ」とか「シャンプーが遅い」とか散々言われて、すごく悔しい思いをしました。私は日本では店長をやっていたので、プライドをズタズタにされました。
ただその悔しさをバネに「絶対に英語で言い返したい」と思って、必死になって英語の勉強をしましたね。
コストをかけずに自己資金でサロンを開業した方法とは?
野村:
その後ニューヨークに渡航して、すぐに現地のサロンで働き始めたということですが、仕事探しはどのように行なったのですか?
Takeoさん:
ニューヨークに1人だけ友人がいて、美容師を探してる人がいないかと尋ねたら、たまたまその友人が通っている美容院を紹介してもらえることになりました。
ロンドン、日本で撮影の仕事もしていたので、すでにポートフォリオがたくさんありました。
こういうものがあると、アメリカのアーティストビザ (Oビザ)が取りやすくなります。雑誌のVogueで「このスタイリングをやりました」や「こういう賞を取りました」というのがあるといいですね。
参照: Takeoさんのポートフォリオより
野村:
日本の賞でも使えますか?
Takeoさん:
そうですね。日本のものでも大丈夫です。
野村:
その後、ニューヨークでサロン開業することになると思いますが、きっかけは何だったんでしょうか?
Takeoさん:
1ヶ月後に死ぬとしたら何がしたいかと考えた時に、自分のサロンをしたいと思ったのがきっかけです。自分のサロンで、生き生きと仕事がしたいなと思ったんですね。
参照: ROOM SALON NYの写真その1
参照: ROOM SALON NYの写真その2
参照: Takeoさんが取材された時の写真
サロンの物件探しに関しては、実際に街を歩いたり、インターネットのCraigslistというサイトを使って自分で探しました。直感でここだなと感じた物件がすぐに見つかったので、即決しました。
不動産屋さんに行くと、どうしても予算にあう物件が見つからなかったので、私は自分で探すことにしました。
当時、ニューヨークの銀行からお金を借りれる程の信用もなかったので、サロン開業は全て自己資金で行いました。自己資金でできる範囲で、物件探しや工事を行いました。
工事に関しては友達に手伝ってもらいながら、全部DIYです。
ニューヨークで自分のサロンを開くとなると、費用がかかると思われがちですが、自分でできるところを自分でやれば、お金をかけずに自己資金だけでできます。私の場合はほとんど初期費用をかけていません。
参照: 内装工事を手伝ってくれている友人(左)、外装のペンキを塗っているTakeoさん(右)
広告費を一切かけずに集客ができている理由とは?
野村:
サロン開業後、集客をしないと回らないと思いますが、具体的にどのような方法で集客をしたのですか?
Takeoさん:
口コミですね。
安売りや広告はやりたくなかったので、全て口コミで集客しています。
1人のお客さんから10人紹介してもらって、10人から100人というように増えていきました。
参照: ROOM SALON NYのFacebookやYelpのレビューを見るとほぼ全て星が5つのレビューとなっている。Room Salon NYのYelpページより抜粋。
野村:
なるほど。それは普通に「紹介してよ」って言えば、紹介してくれるんですか?
Takeoさん:
そうですね。
基本的には、カットしている人の周りの10人の友人が「その髪型いいね」って言ってくれるようにカットするように心掛けています。カットしてる時点で、後ろの10人をみながらカットしているようなイメージですね。
参照: ROOM SALON NYのお客さん。ROOM SALON NYのInstagramより抜粋。
東京の青山で働いてた時は、街に出て名刺を配って、なんとかお客さんに来てもらうという形でした。
その辛さを考えると、ニューヨークは楽だと思いますね。皆さん口コミで勝手に来てくれますからね。
野村:
なるほど。
Takeoさん:
新しいスタイルに仕上げてあげると、紹介してくれる人の率がグッと増えます。
ニューヨーカーは新しいものにチャレンジする人が多く、新しい髪型を見ると「それ、どこでカットしたの?」って聞くんです。
実際に、街や電車の中でどこでカットしたのか聞かれることが多いみたいです。
それで、ROOM SALON NYの名前を知って来てくれた人も結構います。
ニューヨークは技術で勝負出来る街というか、いいカットをしてればお客さんが勝手に付いてくるというイメージですね。
参照: Takeoさんはニューヨークのファッションショーでヘアメイクを担当したこともある。
ニューヨークでサロンを始めて、最初の1年は大変でしたが、2年目からは毎日予約がつまっている状態です。
自分のスタイルが求められているというか、自分のやりたいこととニューヨーカーのニーズがマッチしていると感じるので、かなりやりがいがあります。
東京でやってた時は美容室も多いし、上手い人も多いので、トップのトップにいかないとなかなか目立つことはできませんが、ニューヨークだと日本人ということだけで他の美容室と差別化ができ、成功しやすいのかなと思います。
そもそもの美容室の数も少ないですからね。
野村:
ニューヨークと青山でどれくらい美容室の数に違いがありますか?
Takeoさん:
私の体感だと、100分の1ですね。
ニューヨークが1で、青山が100です。
野村:
意外ですね。ニューヨークは美容室の数が多いと思っていたので、むしろ逆かと思っていました。
ロンドン・ニューヨークで美容師やるなら知っておきたい3つのこと
お客さんが求めているものの違い
Takeoさん:
ロンドンとニューヨークのお客さんは「どういうスタイルが似合うと思う?」と聞いてくるお客さんが多いので、美容師はそれに対して提案ができないとダメです。日本は聞き上手が求められるのですが、こっちはデザイン提案が重要です。
私はデザイン提案が得意なので、やっていて面白いです。
「前髪切ったら似合うと思うよ」と言うと、じゃあやってみるという人が多いですし、提案しやすいですね。
参照: お客さんと談笑しながらも、しっかりとデザイン提案も行う。
他に違うところといえば、お客さんの好き嫌いがはっきりしてるからやりやすいという点もありますね。
日本ではスタイルが気に入らなくても、はっきり言ってくれません。黙ってそのまま二回目は来ないことが多かったです。
ただニューヨークの場合は、ちょっと気に入らなかったら、その場で切り直してと言ってくれるし、家に帰ってから気に入らなかった場合もすぐ連絡が来ます。
すぐに直してあげるとまたリピートで来てくれるので、カットする側からするとやりやすいですね。
日本、ロンドン、ニューヨークの美容師の違い
野村:
日本、ロンドン、ニューヨークで美容師を見て来て、感じる違いはありますか?
Takeoさん:
どこでも上手い人、下手な人はいるなと思いますね。
日本にいると日本人が一番手先器用で、海外の人はあまり上手い人がいないイメージがあると思うんですが、どこの国にもすごい繊細で器用な人はいます。
個人的にはそこが一番びっくりしたとこですかね。日本人が一番几帳面だと思ってたので。
美容師としてやって行くために必要な心構え
野村:
ニューヨークで美容師として働く際に必要なスキルや姿勢があれば教えてください。
Takeoさん:
日本でも美容師の人は結構英語を使っています。例えば、レイヤーカット、グラデーションカット、スライスなど全部通じる英語です。
これらの専門用語は全て通じる英語なので自信を持った方が良いと思いますね。
ロンドンで働いていた時も意外と通じるなと感じたので、あとは細かいニュアンスだけですね。
A little bit とか How would you like… とか簡単な言い回しだけ使えるようになれば問題ないと思います。
日本の美容師さんは技術はあるので、あとは自信さえあればどこの国でもいけると思います。
実は私も今、人を募集しています。
毎日断ってしまうほどお客さんが来てくれてるので、もったいないと感じています。
だからもっと日本の美容師の方にニューヨークに来て欲しいですね。
参照: Takeoさんのワークショップにて
野村:
どういう人と一緒に働きたいと思いますか?
Takeoさん:
ポジティブな人ですね。
私は常にポジティブをモットーに生きているので。
ニューヨークでネガティブなことばかりを考えてると、ネガティブな方に引き込まれてしまいます。
私は『引き寄せの法則』というのを信じていて、自分がポジティブでいたり、いい空気を出していればそういう人が周りに集まってくるのですが、逆にネガティブでいると、ネガティブなことばかり起きてしまいます。
サロン内でもネガティブな言葉を禁句にしています。「今日は暇だね」とかいうと本当に暇になってしまうので・・・。
そういう事もあって、マインドの持ち方は常に大切にしてます。
常にポジティブでいることが大切ということが、ニューヨークで感じたことですね。
サロンでも、常に綺麗にして、いい空気感を持っていたいと思っています。そうすれば世界中どこでもお客さんが来てくれると信じています。
海外で美容師をやるために、まず何から始めるべきか
野村:
これから海外に出て美容師として働きたい人に向けて、初めの一歩として何をすればいいのかアドバイスはありますか?
Takeoさん:
まずは色んな国に旅行にいって、自分にあう国を探すことが大切です。
私もこないだベルリンに行ったのですが、直感で自分に合うなと感じました。
自分がそこで過ごすイメージが湧くかどうか、直接訪れて現地の空気を肌で感じることですね。
その次が英語力ですね。
実際、中学校レベルの英語で仕事はできると思っています。
難しい英語は海外に出てから学べば問題ないので、英会話スクールとかに行って簡単なコミュニーケションを取れるようになっていれば問題ないかなと思います。
英語力と行動力この二つですね。
今後の展望
野村:
最後に今後の展望をお話下さい。
Takeoさん:
ニューヨーク以外でもサロンを出したいと思っています。
私は1つの場所にこだわりたくないと思っているので、直感を信じて最終的にどの国が自分に合うのか決めたいと思っています。
また、アメリカはビザが厳しくなってきていて、気軽に「ニューヨークに来てよ」と言えない状況になっています。
ビザだけはお金で買えないので、あまりアメリカにこだわらずに、自分の直感で「ここだ!」と思える場所で、他の美容師の方と一緒に働きたいです。
そこで今はベルリンや香港、オランダなど他の国にサロンを構えることを検討しています。
日本人美容師が働きやすい国を探している状況です。
そして最終目標としては、世界一の美容師になりたいと思います。
まとめ
今回のインタビューでは、Takeoさんのロンドンとニューヨークでの経験、美容師の働き方の違い、今後海外で働きたいと思っている方へのアドバイスを頂きました。日本で成功した後に、ロンドンで一度アシスタントに逆戻り。その経験をバネにニューヨークでサロンオーナーとして活躍されているTekeoさんのアドバイスは大変説得力がありました。貴重なお話を聞かせて頂き、ありがとうございました。