コロナウイルスによるパンデミック以前は年間6600万人もの観光客や出張者を引きつけてきたニューヨーク。
昨年3月から広がったコロナウイルスの影響で3月後半から生活に必要な事業(交通、通信、スーパーマーケットなど)以外は完全に停止したいわゆるロックダウンは6月頭の段階的解除まで続き、これにより多くのビジネスが影響を受け、その爪痕は年を明けた今も続いています。
金融、ファッションなどと並ぶニューヨークの一大産業である飲食業。
今回は、ニューヨークで暮らす者として、コロナを通じて大きな変化を遂げているニューヨークのレストラン事情をお伝えしていきます。
12月に入って再び始まった店内飲食の禁止で冬を越す対策が望まれる飲食店。
そのような厳しい状況の中でも、ニューヨークの街では、ユニークなアイデアを編み出して新しいことに果敢にチャレンジして現状打破を図り、どのような状況もポジティブに乗り切ろうとするニューヨーカーたちのたくましさが見られます。
目次
高級レストランが突如コミュニティー・キッチンへ変貌
州知事の命令により、3月半ばにレストランの営業がテイクアウトとデリバリーのみになったニューヨーク。
その後、屋外席での飲食に限ってようやく解禁となったのが6月後半。先の見えない状況が続きました。屋外飲食が解禁となるまでの間、テイクアウトとデリバリーでは採算が取れないと判断したレストランは思い切って休業に。特に、もともと店内での飲食中心で成り立っていた高級レストランの休業が相次ぎました。
世界一との呼び声も高く、世界中からのお客さんを魅了し、常に数ヶ月先まで予約がいっぱいであったミシュラン三ツ星の常連、Eleven Madison Parkのオーナーでありシェフのダニエル・ハムさんは、ニューヨークのロックダウン直後にレストランを完全に休業。
空いたキッチンをわずか1週間でコミュニティー・キッチンへと変え、非営利団体を通じて毎日3000人もの医療従事者や警察官たちへ無償で食事を届け続け、その英断が話題となりました。コロナ以前は1%の人たちのために料理を作ってきたけれど、今後は貧しくて困っている人たちにも食事を提供し続けていきたいと話をしていたのが印象的でした。
店内飲食禁止で車道にまで拡張した屋外席
6月後半に屋外飲食はようやく解禁となったものの、座席数は限定的。
店内飲食が復活しないと経営が成り立たないというレストランの声を受けて、ニューヨーク市が制定した新しいプログラムにより、飲食店の屋外席の拡張が許可されました。
それにより、お店の前の歩道、さらには車道の一部にまでも屋外席を広げることが可能となり、各レストランが工夫を凝らしたおしゃれな屋外席を見たり、今までは開放されていなかった中庭での飲食をしたりすることが楽しみにもなっています。
アメリカ人は屋外飲食が大好き。コロナ以前から、過ごしやすい季節には、車の往来が盛んな道路沿いでも、マンハッタンのおしゃれなカフェやレストランの外の席で優雅に飲食を楽しんだり、愛犬も連れて食事をしたりするニューヨーカーたちの姿をよく見かけていました。そのようなアメリカ人の国民性にも後押しされて、屋外席はあっという間にニューヨークの新しい光景として定着しました。
今回目を見張ったのは、ニューヨーカーの行動力。
一刻も早く安全で見映えの良い屋外席を作ろうと、屋外席が解禁になると発表されたとたんに多くのレストランが木材や工具を買いに走り、一時的にこれらの価格が急騰したそうです。そのため、必要な材料を集めるために周りとの情報交換が行われるようになり、今まで交流がなかった近隣レストラン同士の距離が縮まったという話も聞きました。また、住民の力が強いエリアでは、屋外席がルールを破って道にせり出していないかを自警団のように住民たちが目を光らせていたそうです。

夏の間の屋外ダイニング。車道との境を作って往来する車を気にせずに食事を楽しめるスタイルのレストラン。テーブルはソーシャルディスタンスをとるために、6フィート(およそ1.8メートル)間隔となっています。

台湾の夜市を彷彿とさせる屋外ダイニング。今までの紙のメニューをやめ、QRコードをスキャンしてお客さん自身の携帯でメニューを見るスタイルも広がりつつあります。
いまやニューノーマルになった屋外ダイニング
屋外席の解禁以降、店内飲食再開まで3ヶ月以上かかった中で(12月半ばに店内飲食は再び無期限停止となっています)、完全にニューノーマルとなった屋外ダイニング。
コロナの間だけの臨時措置と思われていましたが、もともと屋外飲食の好きなニューヨーカーたちの後押しを受けて、屋外の特別席の設置は無期限に可能となることが早くも市長から発表され、今後、コロナが落ち着いてからニューヨークを訪問する観光客もその光景を楽しめることになりました。
歩道、そして車道の一部が使えなくなることによる不便もあると思いますが、感染拡大を防いで市民たちの安全を守りつつレストランの救済も可能とする新しい法律制定のスピード感には、必要なことには忖度抜きで迅速に対応するという以前からビジネスの場面でも見られるアメリカ人の対応が垣間見られました。
創意工夫あふれるユニークな屋外席で越冬を
昨年12月に再び禁止となって以来、いまだ店内飲食の再開の目途が立たない厳しい状況が続く中で、各店工夫を凝らす屋外席。
物価の高いニューヨークで安価なレストランとしての地位を確立してもともとテイクアウトやデリバリー需要が多いお店、そして小さなカフェなどは、あえてお金を投じて屋外席を作ることをせず、テイクアウトとデリバリーに専念。
一方で、それ以外のレストランは独自に屋外席を作り、寒さ対策として各テーブルの上に電気ヒーターを取り付けたり、コロナ対策で席と席の間に透明の仕切りを設置したりと、お客さんが快適に過ごせる工夫を凝らしています。最近では、気温が0度近くまで冷え込むような日でも、厚手のコートを着たまま、楽しく食事をする人たちをよく見かけるようになりました。
屋外の特別席は、レストランによってもその豪華さが異なり、おしゃれな屋外ダイニングのレストランはニューヨーカーの間でも話題になっています。
ミシュランの星の常連、イタリア料理のMareaは、ライティングにも工夫し、歩道全体をおしゃれなトンネルのような形で屋外席としたユニークなスタイル。そんなに広い歩道ではないため、歩道にせり出した席の真横を通行人が通るスタイルで少しせわしなくも見えてしまいますが、そんなことを全く気にせず食事を楽しむ人々の姿から、非常事態にも臨機応変に対応するニューヨーカーのたくましさを感じました。

セントラルパークに面するにぎやかな通りですが、独自の世界観を作り出したMareaの屋外ダイニング。
一方、車の往来が多いブライアントパークの目の前の高級フレンチレストランGabriel Kreutherは、歩道席のプライバシーを完備。木造りの特設屋外席は、見事なまでに緻密に計算された作り。絶妙な角度で組んだ木の板で、外からは中がほとんど見えず、店内と同様の静かな空間を作り出すことに成功しました。

大雪明けの寒い日でも予約客でいっぱいのGabriel Kreuther。暖房も完備していて快適な屋外ダイニング。
冬の風物詩とも言えるブライアントパーク内のウィンタービレッジにはスケートリンクやバーに加えて、今年はigloo(イグルー)と呼ばれるドーム型の席が登場。
イグルーは氷のブロックを積み上げて作るカナダのイヌイット族の住居がその語源ですが、ブライアントパークのイグルーは、日本のかまくらを思わせるような作り。
透明なので中は見えますが、外の世界とのソーシャルディスタンスを保ち、さらにエンターテイメント感も抜群で、席の予約だけで1時間半200ドルからと高額にもかかわらず、ホリデーシーズンには家族や友人たちとの集まりに利用している人が多く見られました。

にぎやかなブライアントパーク内にありながら、プライベート空間を楽しめる画期的なイグルー。
仮設の屋外席という概念を覆したのは、ホテルの広いテラスに登場したChikarashi Issoが手掛ける高級焼鳥の屋台。
アメリカ人のオーナーがウォール街で経営するモダン和風懐石料理のレストランは、場所をホテルのテラスに移し、焼鳥のおまかせコースを始めました。日本の屋台スタイルをニューヨーク流におしゃれに。そして、日本人の熟練シェフが目の前で焼いてくれる焼鳥の味はもちろん、匠の技を間近で見ることができる演出も楽しめて、ニューヨーカーに人気です。

ここまで進化した屋外ダイニング。暖房が完備されて室内にいるような暖かさ。ニューヨークで人気の日本人シェフが備長炭で焼く本格的な焼鳥が楽しめるChikarashi Isso。
まとめ
9.11、リーマンショックと過去にいくつもの大きな危機を乗り越えてきたニューヨーカーたち。そのどちらも経験した生粋のニューヨーカーの友人は、「それぞれの危機の後、ニューヨークの街は新しい姿へと形を変えて進化を遂げてきた。このコロナも同様で、これをきっかけに新しいライフスタイルが生まれてニューヨークの街は変貌していくのだろう。」と友人たちと開いた新年会で穏やかに語っていました。
その言葉が物語るように、変化に強い街で暮らすニューヨーカーたちは、新しいスタイルに柔軟に対応しながら、今日も懸命に生きています。











