今回は NY Marketing Business Action, Inc 代表取締役の古市さんへのインタビューです。
古市さんはジェトロNYに17年間経験を積んだ後、2015年2月に独立、US-JAPAN Art Promotion (UJAP)というプロジェクトを推進し、NYでの日本の伝統工芸品のプロモーションをされています。今回は「日本の伝統工芸品のアメリカ進出成功のために知っておくべき6つのポイント」をご紹介していきます。
1. ストーリーを使って異文化の人にうまく伝える
2. 初めは地道に露出を増やして、端的に説明を繰り返す
3. 既出の商品であれば三ヶ月、新規の商品であれば一年は見ておく
4. 日本で売れたものをそのまま持ってきても失敗する
5. 一回でいいから、とりあえず現地に訪れる
6. 決済機能付きの英語ウェブサイトと商品説明は来るまでに用意しておく
これらのポイントを書道や藍染めのアメリカ進出の実例を交えてお話しいただきました。
古市裕子: 日本で大学を卒業後、ニューヨーク市立大学大学院の修士課程を経て、JETRO New York (ジェトロ・ニューヨーク / 日本貿易振興機構・貿易保険部)に就職。ジェトロNYでは、北中南米各国の政治経済情報調査及びカントリーリスク調査、在NYの日系企業(日系三大メガバンク、日系四大商社、中小企業支援等)の金融貿易案件及びプロジェクトファイナンス引受け案件に対して金融ファイナンス調査等に従事。ジェトロに17年間勤務の後2015年2月に独立し NY Marketing Business Action, Inc を設立。以後、日本からのNY進出案件の相談を多数お引き受け受託しながら、すべては「人」「人材」が成幸(成功)の鍵という信念のもと、日米キャリアアドバイザーとして相談業務も手掛ける。日本キャリアマネージメントカウンセラー協会(CMCA:厚生労働省承認) の認定キャリアカウンセラー(兼)キャリアアドバイザーとして様々なキャリア相談(対企業向け・対個人向け)にも実施中。
日本の伝統工芸品のアメリカ進出成功のために知っておくべき6つのポイント
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目次
日本の伝統工芸品のアメリカ進出成功のために知っておくべき6つのポイント
野村:
まず初めに、日本の伝統工芸品のアメリカ進出と聞くと、苦戦続きの印象があるのですが、
そもそもアメリカにて日本の伝統工芸品のニーズはあるのでしょうか?
古市さん:
私自身も、US Japan Art Promotion (UJAP)というショーケースで日本の伝統工芸品を発信する活動を行なっていますが、日本の陶器とか伝統工芸品を販売したいというお店は10年前と比べて明らかに増えています。
参照: UJAPのショーケース
見方を変えるとニューヨークで日本の伝統工芸品が注目を浴びてきていると言えると思いますね。
野村:
なるほど。
1. ストーリーを使って異文化の人にうまく伝える
古市さん:
伝統工芸品をアメリカで売る場合、どうすれば伝統工芸品の良さを異文化の方に理解してもらい、共感してもらえるかがポイントです。
モノの良さを説明するときに重要になるのは商品作家や作り手の思いとストーリー性です。
参照: 備前焼のショーケースの様子。興味のあるニューヨーカーにいかにモノの良さを説明するかが重要。
たとえば藍染(あいぞめ)を例に挙げると、「江戸時代から何百年の間、伝統として受け継がられていて、今もなおその伝統が守られている日本の宝物である」ということ、そして「なぜ藍染が何百年と守られてきたのか」これらをストーリー立ててうまく伝える必要があります。
私は書道をやっているんですが、それこそ2004年頃のニューヨークでは日本の書道に誰も注目しておらず、マンハッタンのギャラリーに持っていっても全く相手にされませんでした。
私たち日本人は何も言わなくても、書道の歴史や伝統をある程度理解しています。
ただ何も知らないニューヨーカーに「これを展示させてください」といっても書道の良さは伝わりません。
「なぜ書道や藍染が何百年も伝統工芸として受け継げられてきて、今もなお日本の文化として親しまれていてるか」をストーリー性を持って伝える必要があるわけです。しっかりストーリー立てて説明をすれば、価値を理解してくれる人は必ずいます。
2. 初めは地道に露出を増やして、端的に説明を繰り返す
古市さん:
ニューヨークで誰も書道に注目していなかった頃、意識したことは「まずは色んな人に見てもらうこと」です。
広く知ってもらうために、個展やショーケースに出展して、とにかく露出を増やしました。
興味がありそうな人がいれば、直接声をかけてどうして書道が日本の伝統の作品なのかを端的にわかるように説明をしました。
参照: ニューヨークでの書道の個展の様子
こういう地道な活動を続けていると、「この間、どこどこでみた作品が感動したのだけれども、どこで売っているんですか」という問い合わせが入るようになります。
他にも、ニューヨークはギャラリーが何千個とあるので、ギャラリーのオーナーに直接アポイントを取って、ポートフォリオを見てもらう方法もあります。
ここでもポイントはストーリーを使って端的に良さを伝える事です。
ギャラリーのオーナーは忙しいので、1時間も時間を取ってくれることはまずありません。
10分の間で良さをどれだけ相手に伝えられるかが重要になります。
3. 既出の商品であれば三ヶ月、新規の商品であれば一年は見ておく
野村:
伝統工芸品の良さを伝えて、それが浸透するまでに時間がかかると思います。伝統工芸品がアメリカ進出する際に、形になるまでにどの程度の期間を見ておけば良いでしょうか?
古市さん:
これは、ものによりけりですね。
陶器や藍染など既出の商品であれば、3ヶ月から半年くらいになります。
陶器や藍染は既に注目しているコレクターがいるので、そういう人たちに価値をうまく伝える事ができれば、すぐ広がる可能性は十分にあると思います。
参照: 備前焼の個展にて、備前焼の魅力を説明する様子。
ただし、これまでアメリカで一度も販売したことがない、いちから説明する必要がある新しい商品に関しては、最低でも1年はかかります。
新規の商品の場合、まずどこにターゲットを定めて、どこにリーチすべきかを考えます。
そして、何件か心当たりのあるコレクターのところに話を持っていって実際の反応を見る。
反応が悪ければ、また振り出しのターゲットを絞るところに戻ることになるので、それなりの時間がかかってしまいます。
4. 日本で売れたものをそのまま持ってきても失敗する
古市さん:
よくある失敗事例として「日本で売れている商品はニューヨークでも売れる」と誤解しているケースです。
実際には日本で売れている商品をそのまま持ってくると、ほとんど売れません。
以前、木綿(もめん)の藍染の定期入れや財布を販売している方から、アメリカでも売ってみたいと相談を受けました。日本市場で売れたので、ニューヨークでも売れると見込んでいたようでしたが、実際には3ヶ月に1個しか売れませんでした。
参照: 日本で人気のある藍染の財布
この課題を解決するために、市場調査を行いました。
当時、ジャパンブルーを押した日本のデニムのプロジェクトが注目されており、藍染も注目されていた時期でした。
注目されているはずなのに、売れないのは何か原因があると考え、実際にコレクターや関連のお店に藍染の生地を持っていき「藍染をどういう形で販売すれば取り扱ってもらえるか」を聞いて回りました。
話を聞いていくと、藍染は魅力的だけど、財布や定期入れはいらないという声がほとんど。一方でファッション系のスカーフとか羽織るものであれば欲しいという声が多くありました。
その声をもとにスカーフ、手袋など身につけるファッションアイテムを作ってショーケースに置いてみたところ、どんどん売れていきました。
ニューヨーカーはいかに自分をアピールできるかを考えています。
要するにお財布や定期入れのようなバッグに入れて隠れてしまうものより、羽織ったりして身につけるものの方が、買ってみたいとなるようでした。
参照: 藍染の綺麗な青が映えるスカーフとランチョンマット
また別の例でいうと、伝統工芸品ではないのですが、お弁当箱の例があります。
日本の弁当箱はパーテーションで細かく区切られているのが一般的です。
その日本の弁当箱をそのままアメリカに持って来た業者さんがいたのですが、全く注目されませんでした。
そこからどう改善したかというと、まず弁当箱のパーテーションを全部とって、深さを倍にして、『ただの箱』にしたんですね。サイズとしては、リンゴ一個がまるまる入るくらいのサイズです。
ニューヨークの人は忙しくて、日本のお母さんほど凝った弁当は作れないので、パーテーションが邪魔になります。
サンドイッチ、クッキー、そしてもう一品入れて終わり・・・という感じです。
これは簡単な発想の転換なのですが、こちらの人の生活スタイルに合うようにデザインを変えたことで注目を浴びるきっかけとなりました。
5. 一回でいいから、とりあえず現地に訪れる
古市さん:
アメリカ進出を考えている方には、必ず一度でいいからアメリカの市場を見にきてくださいとお願いしています。
一度も来たことがないと、どうしても日本の感覚でモノゴトを考えてしまいます。
私たちがどれだけ一生懸命にニューヨークの市場の感覚を説明しても伝わらず、結局日本のやり方で進めてしまい失敗することが多々あります。
なので、一度、3日でいいからニューヨークに来てもらえませんかとお願いしています。
一緒に関連の施設を回って、現地の声を聞くと必ず「あぁ!」と気づくことがあるんですね。
その気づきがないと、先ほどの木綿のスカーフや弁当箱の例のように、現地の要望に合わせて商品の形状を変えていくことがとても難しくなります。
6. 決済機能付きの英語ウェブサイトと商品説明は来るまでに用意しておく
古市さん:
意外と日本から事前準備を何もしないでくる方が多いです。
野村:
なるほど。意外ですね。
古市さん:
例えば初期の視察で、商品の認知度が低いからといって、100人が100人そっぽ向くわけではなくて、もしかしたらその中の数名は買いたいという人が出てくる可能性があります。希望者がその場で購入できるように、決済機能付きの英語のウェブサイトは事前に用意した方が良いです。
また、興味がある人に向けて英語の商品説明のパンフレットを用意しておくことも重要です。
そして重要なのは価格設定。
価格設定も日本の中だけで考えているのではなくて、パリならパリ、ニューヨークならニューヨークの市場での類似商品がどのような価格帯なのかを調査しながら値段付けをする必要があります。
当然、日本から持ってきている商品はローカルの類似商品より高くなる場合が多いです。
その際、高いなら高いなりに、どうして類似商品より優れているのかというのを簡単でいいので英語で準備しておく必要もありますね。
何も準備しないでこれを出したいですと来たところで、リリースできるのは半年から一年先になってしまいます。
調査した情報が半年後になると、すでに遅れた情報になってしまう可能性があります。そのため、しっかりと事前準備をしてから来る事をオススメします。
今後アメリカに進出を考えている方へのアドバイス
野村:
これからアメリカ進出を考えてる方にアドバイスがあればお願いします。
古市さん:
今回は主に商品作家発のストーリー性についてお話しましたが、進出にかかる課題は、さまざまな観点から多岐にわたります。例えば、メディア露出、ブランド化、市場ニーズに合わせた形、マーケットリサーチの重要性、FDA認可が必要かどうか、関税や輸送費を含む価格設定の想定、流通網ルートの作り方などがあります。
それらを総合的にPRマーケティングとプロデュースマッチすることで「日本伝統工芸品」の素晴らしさが欧米文化の人たちにも伝わると思います。
あとは、日本の伝統工芸品をこちらで売るというのは一辺倒にはいかないことが多いです。
商品ごとに異なるアプローチがあって、ターゲットも違うので、最終的には一社一社にカスタマイズした別々の対応が必要になります。
そのため、ここでお話させて頂いたことだけを見て、「じゃあうちは厳しいかな」という風にはなって欲しくないですね。
やり方次第で、可能性は絶対あると思っています。少しでも興味があるならば、色んな変化球を投げて挑戦してみませんかという事をお伝えしたいですね。
日本の商品が世界に出て成功する可能性はまだまだあると思います。その商品の見せ方や売り方、またどういうルートで売れば良いのかなど、これらを一緒に調べながらやっていければと思いますね。
参照: 古市さんのクライアントの備前焼の会社様とその個展を見にきた来場者の様子。やり方次第で、日本の伝統工芸品の良さを伝えることができる。
まとめ
今回のインタビューでは、日本の伝統工芸品のアメリカ進出成功のポイントについてお話をお伺いしました。
準備段階で押さえておきたいポイントから、実際にどのように認知度を増やして行くかなど実践的なアドバイスを頂きました。これから伝統工芸品をアメリカでも販売してみたいと考えている方には、非常に参考になるお話であったと思います。貴重なお話を聞かせて頂き、ありがとうございました。