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カナダのアルバータのAI・機械学習: 強化学習と説明可能なAI

カナダのアルバータのAI・機械学習: 強化学習と説明可能なAI

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カナダのアルバータと言えば、石油などのエネルギーやクリーン産業、農業のイメージがありますが、実はAIやICTの会社の数はカナダで2番目に多いテックが盛んな州でもあります。

「強化学習 (Reinforcement Learning) の生みの親」とも呼ばれるリチャード・サットン氏はカナダ・アルバータ大学の教授。また、2017年にはグーグルの親会社のアルファベット傘下のディープマインドもアルバータに強化学習の拠点を設立し、強化学習の一大拠点としての側面もあります。

直近のアルバータのテック業界の動向をまとめると以下の通りになります。

  • 過去10年間の間に、カナダのAI産業はCA$3 billionの新規投資を生んだ
  • ゲーミング、VR、AR、そして機械学習の領域に特化。エドモントンのエリアでAIとICTが盛り上がっている
  • アルバータにヘッドクォーターを置くテックビジネスが53%増加

 

さらに、CSRanking (Computer Science Ranking) の調査によると、AIや機械学習が学べる大学の世界の大学ランキングで University of Albertaが3位にランクイン。アルバータのAIと機械学習領域は徐々に成長しており、2000年以降は常にTop5に入っています。


参照: CSRankings.Org on AI and Machine Learning
 

今回はそのアルバータのAI・機械学習、そして強化学習と説明可能なAI (Explainable AI)というテーマで、カナダ大使館主宰のウェビナーが開催されました。本記事ではその要旨をまとめました。

AIの活用事例 (ヘルスケアと法律)

Presenter:

Randy Goebel, AMII Fellow & Co-founder, Professor of Computing, Science

 

Randy氏のプレゼンテーションでは、AIでの活用で、特に大きなベネフィットがあるエリアである、ヘルスケアと法律の領域の事例の話がありました。

AI x Health Care

AIの主な活用方法は機械学習によって、アクショナブルな予測モデルの構築です。

特にヘルスケアの領域は取り扱うデータ量が多く、例えば130億の分子のパターンを分析して、新薬の候補を探しだすというのは人の手で行うのは不可能に近いです。また、新型コロナウイルスの感染者の行動データをもとに次のクラスター発生場所を予測するのも人の手で行うのには限界があります。

そういった膨大なデータ量を扱う場合、機械学習を用いてモデル構築をすることが必要になります。

ヘルスケア分野でのAIの活用の具体的な例として、以下の2つがあります。

1. 特定の病気の原因となる行動・要因を分析
特定の病気、例えば糖尿病にかかる人のコホートを特定し、病気にかかる原因を探す。

2. 膨大な量の電話対応の効率化
Covid-19関連の電話応対が100万以上になる中で、各電話の回答に対して、今すぐ病院に行くべきか、それとも明日まで待つべきかを即時に判断するために機械学習を導入。

マニュアルで100万もの電話に対処することは不可能。そういう場合に機械学習を用いてデータを処理し、パターンを見出し対応を行った。


参考: 左の図では「今すぐ病院」の際に使われるワード群。右は「ホームケアで良い」の場合に使われるワード群。

AI x Legal 

ヘルスケアだけではなく、法律の分野にもAIは活用されています。

カナダには2016 Jordan Decisionというものがあり、一定期間を超えると審判が停止してしまうというルールがあります。
この判決が出てから1年で204以上の裁判が停止してしまい、本来有罪判決を受ける人が釈放されてしまっているという大きな問題があります。

この問題を解決するために、AIの活用を進めています。
その一つとして、法律関連の質問への回答ができるAIを開発。
AIが文章の意味を理解し、適切な回答を出力。現在、70%の正答率を記録するほど正確な結果がでています。

強化学習のビジネスの可能性と課題

Presenter:

Matthew E. Taylor, AMII

 

続いて Matthew氏から強化学習の概要、強み・弱み、そして具体的な活用事例の話がありました。

機械学習は大別すると以下の3つの領域があります。

1. Supervised (教師あり学習)
入力データと入力データに紐づいた結果 (Yes or No や数値)のデータをAIに渡します。それをもとに、新しいデータが入力された時に正しい結果を出せるようにする機械学習です。

2. Unsupervised (教師なし学習)
上記とは異なり、入力データのみを与えます。その中で機械学習がパターンを抽出し、グルーピングを行います。
例えば、データを見せて、クレジットカードの不正利用がどこで発生しているか検知したり、他にも購買行動や滞在時間をもとに顧客グループを出力するなどに使用されています。

3. Reinforcement Learning (強化学習)
目的・ゴール  (= 報酬)として設定されたものを最大化するために、どのような行動を行うべきかを自身で試行錯誤して学習します。
例えば、ロボットの歩行距離を最大化するためにどのような体の動きをすれば良いかを自身で試行錯誤しながら学習させるときに使用されています。
 

また、強化学習の強みをまとめると以下の4つとなります。

1. 目的達成 (報酬) 最大化するために自動的に学習できる
2. プログラマーはゴールを設定するだけ。直接プログラムをするよりはるかに業務量が減る。
3. 人の手ではできない成果を達成できる
4. 予測していなかった環境変化にも適用できる

一見すると、魅力ばかりの強化学習ですが、実は以下のような弱みもあります。

1. 報酬を最大化するために予期せぬ行動をとる
強化学習では「報酬」を最大化することに注力するので、予想外の動きをすることがあります。例えばゲームの例でいうと、ステージをクリアせずにポイント獲得をやり続けて先に進まないこともあるので、うまくコントロールする必要があります。

2. 資源や時間的・金銭的コストがかかる
コンピューター資源が必要であったり、実際のリアルワールドとのインタラクションが必要になります。
また、適用領域によっては学習期間に時間的・金銭的コストがかかります。特にロボットの歩行訓練を行う場合は失敗の際に壊れたロボットの修繕費用が高価な場合もあります。

3. プロセスのブラックボックス化
学習結果はブラックボックス化され、中身を知ることはできません (機会学習で学んだプロセスを説明する機械学習は開発中)

4. 学習スタート時のパフォーマンスは低い
トライアンドエラーを繰り返して学習を重ねていくため初動のパフォーマンスは低いのもデメリットの一つです。

強化学習の活用事例x2

また、実際に強化学習が活用された事例として、以下の2つが紹介されました。

1. Data Center Cooling
GoogleのData Centerのコストを最適化するために強化学習を導入した事例です。

具体的には強化学習を用いて機器の電源のオン・オフを最適化。
全体の電力消費量に対する IT関連のエネルギー消費割合を減らすことをゴールに、40%のコスト削減を実現しました。

2. Water Treatment
カナダのNorth Saskatchewanの川から流れてくる原水の浄水プロセスの最適化を図るために強化学習を導入した事例です。

使用する薬品の量の調整、洗浄殺菌 (バックウォッシュ)の量を調整して、いかにコストを下げて浄水ができるかを強化学習も用いて最適化。いきなり本番で使用することはできないので、小規模のラボをセットアップ。全く同じ機器を使用し、学習が成功したら本番環境に移行する予定だそうです。

単一のゴールだけではなく、複数のゴールを追うこともできるので、今後は環境負荷が少ないように最適化を図れば環境問題解決にも使用することができるという話もありました。

説明可能なAI (Explainable AI Systems)

Presenter:

Lei Ma, Associate Professor, Intelligent System Engineering Lab, Canada CIFAR AI Chair

 

最後のプレゼンテーションでは説明可能なAIというテーマで、Lei Ma氏より話がありました。

日本においてもAIの安全性・信頼性を確保することが重要。

合計35兆円規模の市場が存在すると言われ、特に交通関係だけでも10兆円規模が想定されます。ただしその実現のためにはAIの安全性・信頼性、そして説明可能性は必要不可欠です。


 

前提として、機械学習の学習メカニズムはこれまでのソフトウェア開発と大きく異なります。
これまでのプログラミングはエンジニアがルールを決めて実行していましたが、機械学習だと中でどういうルールがあるかわからないという課題があります。


 
例えば自動運転の車の場合は、どのような仕組みで行っているかを説明・理解できなければ、安全で信頼できるのかを判断することができません。

また、機械学習を通して精度は格段に上がるものの、完璧ではない。
そのため、どこが間違っていたことを調べるデバッグが必要になる。その際に中身がわからない、説明ができないと修正のしようがないという問題も発生します。

そこで重要なのが説明可能なAI (Explainable AI Systems)です。
現在は自動運転、工場そして発電所内の安全、効率化、最適化を図るために導入が進んでいるようです、

まとめ

AIといえば、トロントやケベックなど東海岸の話をされることが多いですが、今回は西海岸のアルバータの話をご紹介しました。

今回のウェビナー後半にて、「アルバータの魅力は?」との問いに対して、Collaborative (協力的) な環境であるという話がありました。特に強化学習に強みのあるアルバータ。今後のさらなる躍進に期待です。

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