前回の記事では、米国で起業する場合の会社形態について、一般的な会社形態であるLLCとC Corpを比較する形で検証しました。会社のステージや目指すべき方向性等によって望ましい会社の形態は異なってきますが、今回は、一番設立が容易と言われているLLCについて、その設立の流れを見ていきたいと思います。
会社設立となると会計士や弁護士のサポートが必要で金銭的にも負担が大きいのではないかと考える人もいるかもしれませんが、LLCであれば、確かな情報のもとで適切にステップを踏んでいけば、個人での設立が十分可能です。この記事では、事例も交えながら、LLC設立の流れを紹介していきます。
目次
個人でのビジネスでなくなぜLLCが良いのか?
個人のビジネスでなくLLCとしてビジネスを行うメリットはどこにあるでしょうか。それは、前回の記事でも述べたように、万が一の時にリスクが個人財産に及ぶことを防ぐため、また、社会的信用力を高めるためであり、LLCを設立するメリットは大いにあります。
LLC設立のステップ
米国では州ごとの自治が行われているため、LLCの設立手続きも州によって若干異なってきます。本記事では、ニューヨーク州を例にとって見ていきたいと思います。
LLC設立の流れは、会社名の決定、会社設立公告の新聞への掲載、定款の提出による会社登録、Operating Agreementの作成、EIN番号の取得、公告終了を示すCertificate of PublicationのDepartment of Stateへの提出、銀行口座開設となっていて、およそ2-3ヶ月が目安です。会社設立にかかる費用は、後述するように、どこの郡(county)に公告を掲載するかによって異なり、$550-$1250程度となっています。
1. 会社名の決定
会社設立の最初のステップは、社名の選定です。希望の会社名が決まったら、他社が既に使っている社名でないかをニューヨーク州のデータベースで確認します。
LLCの場合、会社名にLimited Liability Companyまたは、省略形のL.L.C.またはLLCを付けなければいけませんが、LLC が最も一般的です。なお、ビジネス上は、Doing Business as(DBA)として、正式な名称とは異なる名前で事業を行うことが可能です。
2. 会社設立公告の新聞への掲載の準備
ニューヨーク州で会社を設立する際には、日刊新聞と週刊新聞1紙ずつに、会社の設立の公告を週に1度、6週間連続で掲載する必要があります。LLCが承認されてから120日以内の掲載が必要です。
ポイント
LLCの設立書類に記載する会社の住所により、公告を出す郡(County)が決まります。会社の所在地をマンハッタンにしたい人は多いと思いますが、公告費用はCountyによって大きく異なり、マンハッタンの公告費用は$1000以上と高いです。
会社の住所は、実際の住所でなく郵便物を受け取る住所であれば良いため、公告費用を抑えたい場合は、費用が安く$130程度のアルバニー(Albany)にあるRegistered agent(登録代理人)を雇い(年会費は$125程度)、Registered agentの住所を会社の所在地としてアルバニーで公告を出し、後日住所をマンハッタンに変更します。
1ステップ追加の手間がかかり、住所変更届で$30必要ですが、これにより、公告費用を数万円は節約できるでしょう。なお、住所をマンハッタンに移した際にマンハッタンで公告の再掲載はいりません。Registered agent(登録代理人)としては、Northwest Registered Agentが有名で、年会費$125でその住所への郵便物は電子メールで転送してくれるなど、しっかりしたサービスで知られています。
会社の設立の公告を週に1度、6週間連続で掲載。公告費用を抑えるには設立場所も要検討
3. 会社の登録
LLCの会社登録は、New York Division of Corporationsに定款(Articles of Organization)を提出することでなされます。定款の提出はオンラインと郵送のどちらでもでき、申請費用はいずれも$200ですが、迅速で簡便な手続きのためには下記リンクからのオンラインでの提出がおすすめです。
上記ページからApply Online as an ownerというボタンをクリックし、まだNY.gov Business Accountがない場合には、Register Hereをクリックしてアカウントを作成し、LLCの登録へと進みます。
定款内で、LLCの運営形態について、Member-managedまたはManager-managedのどちらかを選ぶことができます。選ばなかった場合には、Operating Agreement(次のステップ参照)内でどちらの形態かを明記することとなります。
LLCでは出資者ひとりひとりはmemberとされ、memberの合議で経営を行う場合にはMember-managedのLLCとなります。一方、memberたちから選任されたmanagerが経営を担う場合は、manager-managed LLCです。一般的に、スタートアップや少人数でのLLC設立の場合にはmember-managed LLC、出資者が多い場合にはmanager-managed LLCとなります。
ポイント
LLCの設立日は登録の際に選ぶことができ、選ばなかった場合には登録が承認された日が設立日となります。年の後半に本ステップを行っている場合には、設立日を翌年の1月1日とすることで、その前年の確定申告書の提出が不要となります。
4. Operating Agreementの作成
ニューヨーク州のLLCには、Article of Organizationの届け出後90日以内にOperating Agreementの作成が義務付けられています。member-managed LLCとmanager-managed LLCで多少フォームが異なりますが、インターネット上で入手できるフォームをカスタマイズすることで、最初から作成する手間を省くことができます。下記は、それぞれのLLCの形態での無料のテンプレートですので、適宜変更してご利用ください。
Operating agreementは、メンバー間の書面での契約としての役割を持っていますので、LLCとしての基本的な情報を含める必要があり、下記の情報は必須となっています。・社名・設立年月日・(もしあれば)New York州のRegistered Agentの名前・LLCの目的・LLCの存続期間・LLCが課税される方法LLCのメンバーが複数人の場合は、各人のLLCの保有比率の記載も必要です。Operating Agreementには設立時の各人の出資額も記載します。この時点でLLCの銀行口座が未開設で出資がなされていない場合には、出資予定額を記載します。
Operating Agreementの作成は必須ですが、州への登録義務はありません。作成後、LLCのメンバー全員にコピーを渡しましょう。
5. EIN番号の取得
EIN番号は、Employer Identification Numberの略称で、法人税を管轄しているIRS(米国内国歳入庁)により各会社に付与される固有の番号です。この番号により納税状況が管理され、事業経営において免許等必要な場合にも、EIN番号の提示が求められます。
SSNやITIN番号を持っている人は、下記のリンクからオンラインで申請を行います。
SSNやITIN番号を持っていない人は、フォームSS-4を郵送またはファックスでIRSへ提出します。
6. 会社設立公告の新聞への掲載
公告には社名、住所、設立年月日を記載します。ステップ2でおすすめしたアルバニーで公告を掲載する場合には、週刊のThe Altamont Enterprise、日刊のTimes Unionの2紙への掲載となります。
公告は、費用を節約するために、文字数もコンパクトで要点を絞ったものとします。下記は広告の一例です。
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ABC LLC Filed with SSNY on X/X/2022. Office: Albany County. SSNY designated as agent for process & shall mail copy to: XXXXXX (registered agentの住所) Purpose: Any lawful.
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6週連続での公告掲載が終わったら、それぞれの新聞社から公告掲載完了証明としてAffidavitを受領します。
7. Certificate of Publicationの提出
公告掲載が終わったら、Department of StateへCertificate of Publicationの提出が必要です。それぞれの新聞社からのAffidavitのコピー、実際の公告のコピー、Department of State宛ての小切手$50を以下へ郵送します。
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Department of State
Division of Corporations
One Commerce Plaza99 Washington Avenue, Suite 600
Albany, NY 12231
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これでLLC設立のステップは全て完了です。
なお、公告費用削減のために、公告費用が安い郡で公告を出した後にLLCの住所を変更する場合(ステップ2参照)には、Department of StateへのCertificate of Changeを申請費用の$30の小切手とともに、下記へ送付します。
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Department of State
Division of Corporations
One Commerce Plaza99 Washington Avenue
Albany, NY 12231
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また、ニューヨーク州のLLCは2年に一度 Biennial Statementの提出が必要ですので忘れないようにしましょう。
8. 銀行口座の開設
会社の登記が終わり、EIN番号を取得した後、会社の銀行口座を開設します。カスタマーサービスの質や支店の多さなどの利便性を考えると、大手銀行での口座開設が無難でしょう。
NYでのビジネスに不慣れな場合、大手銀行での設立が無難
まとめ
こちらの記事では、LLCの設立方法について、できるだけ実践的な内容となるように、参考例や知っておきたいポイントを交えながらご紹介しました。LLCの設立は決して複雑ではなく、順を追って一つ一つ取り組んでいけば、会計士を雇わずにLLCを自ら設立を行うことも十分可能です。ビジネスを始めた直後は出費もかさみがちですので、この記事が多くの方々のLLC設立の手助けとなりましたら幸いです。LLCの設立が終われば、あとは事業に専念するのみですが、後で焦らないようにするために、日々の記帳代行は適時に行っていったほうが良いですし、確定申告は早めに会計士へご相談されることをお勧めします。