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自動車OEM各社にとっての北米EV市場とカナダの戦略

自動車OEM各社にとっての北米EV市場とカナダの戦略

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近年、世界の自動車業界では、環境配慮型の車両製造に対応すべく大きな変化を迎えています。
カナダでもよりグリーンな経済の構築が議論され、自動車産業は重要な役割を果たす立場にあります。

このような状況の中で、カナダ連邦政府の今後の取り組みについて、本オンラインイベントのはじめの挨拶として、在日本カナダ大使館商務部公使トレイシー・レイノルズ氏からの説明がありました。

カナダ連邦政府は2050年までのネットゼロエミッション達成を発表しており、それには、運輸での脱炭素化が優先課題となっています。

政府は同時にゼロエミッション小型商用トラックの販売目標も掲げ、2025年までに販売台数の10%、2030年までに30%、2040年までに100%としています。

昨年はEV関連でエキサイティングな投資の発表がGMやフォード、ステランティス、また部品メーカーなどからありました。
カナダの革新的な自動車エコシステムと豊富な人材、政府の支援がこうしたEVへの投資と使命につながったと言えます。

今回はカナダ大使館主催のオンラインイベント「OEM各社にとっての北米EV市場とカナダの戦略」が開催されました。本記事ではその要旨をまとめました。

カナダのEV市場戦略と優位性について知りたい方は是非ご覧ください。

オンタリオ州におけるEV開発と製造の優位性

Presenter:
登壇者: ビクター・フェデリ
オンタリオ州政府 経済開発・雇用創出・貿易大臣

今回のウェビナーイベントの初めにオンタリオ州政府 経済開発・雇用創出・貿易大臣 ビクター・フェデリ氏から、EV開発市場におけるオンタリオ州の優位性についてお話がありました。

デロイトによれば2030年までに販売される自動車の1/3が電気自動車になるということです。
そんな中、オンタリオ州の自動車業界はすでに将来に向けて舵を切っており、「ゼロカーボン自動車」という将来への道筋に素早く進むことができる、4つの魔法の材料が揃った州であると言えます。

以下がオンタリオ州が持つ4つの優位性です。

自動車製造の強み自動車製造台数はミシガンに次ぐ北米第二位。
オンタリオ州の組み立て工場の質は、1990年以降JDパワー賞を34回受賞している。
技術の融合カリフォルニアに次ぐ北米第二位のITクラスター
IT業界と自動車製造の大規模クラスターが融合する北米唯一の地域。テック企業の活発なコミュニティがモビリティ技術や人工知能センサー、ロボティクス、車両診断など最先端の研究を行う。
クリーンテックのリーダーシップ2020年オンタリオ州の発電量の約94%はエミッションフリー。
オンタリオ州にはカナダ最大のクリーンテック業界があり、急速充電池やコネクテッド充電インフラ、バッテリーのリサイクル、水素燃料電池などのイノベーションを推進。
不可欠な鉱物資源オンタリオ州のニッケルとコバルトの生産量はカナダ最大。鉱業と精製所ではEV電池用の高級ニッケルを生産
世界のEV電池サプライチェーンにとって必須のコバルトの主要な供給源となる。

 

オンタリオ州と日本の関係

日本とオンタリオ州は長い間、自動車業界で協力してきました。

  • 1965年トヨタ、カナダで自動車販売を開始。
  • 1969年ホンダ、バイクと発電機でカナダ市場に参入。
  • 1973年ホンダ、シビックで自動車販売を開始。
  • 1988年トヨタ、ホンダ共にオンタリオ州で生産を開始。

アリストン工場で生産されるホンダシビックは23年間カナダで最も売れている車です。

上記2社の生産台数はオンタリオ州の総生産台数の57%を占めています。

現在、オンタリオ州で活動する日系企業は225社を超え60社以上は自動車業界の企業です。
日本企業のオンタリオ州での立ち上げが円滑に進むよう地域社会とも密に連携しています。

その一つの試みとして、Invest Ontarioという新たな機関を設置されました。
事業の成功を支援するワンストップ付加価値サービスを提供します。カナダ政府は自動車産業の強化で手を携え、定期的に共同投資を行っています。


トロントなど都市部のイメージが強いオンタリオ州。北部には魅力的な自然を見ることができる。

ゼロエミッションに向けたAPMAの取組み

Presenter:
登壇者: フラビオ・ボルぺ
カナダ自動車部品製造業協会(APMA)会長

カナダ自動車部品工業会 (APMA) は、2050 年までのゼロエミッションを目標と掲げ、世界水準の自動車部品サプライヤーと研究機関より電力駆動、代替燃料、コネクテッド、自動運転、軽量化に係る技術を結集し、完全国内生産のゼロ・エミッション コンセプト・カー「プロジェクト・ アロー」を推進することを発表しました。

このプロジェクトの名前の由来は、カナダ政府が1950年代に立ち上げたジェット戦闘機プロジェクトにあるということです。
冷戦時代にカナダ政府と国防省はソビエトによる北米侵攻に備えて、アヴロ社に最高の技術を持つ迎撃戦闘機を用意することを命じました。
最終的にアブロ社は海外の競合よりも2倍の速度と高度を誇る戦闘機「アロー」を設計することに成功しました。
そのイノベーター達の哲学を引き継ぐ思いから「プロジェクト・ アロー」が生まれたということです。

このプロジェクトのコアコンセプトは完全国内生産であり、全ての要素と部品がカナダ発であることが条件となります。
そして当然自動車部品で重要な役割を果たすのが、オンタリオ州です。世界でも有数の自動車製造クラスターがここにはあり、電気自動車の未来を推進するために必要な 天然資源の量でも世界で最適な地域であるからです。

現在プロジェクトは、2022年12月の目標に向けて、アストンマーチン社の特別プロジェクト担当エンジニア長のフレイザー・ダン氏がチーフエンジニアとして参加し世界基準での開発を進めています。またマクラーレン社の元最高技術責任者で、軽量自動車の専門家のマルチェロ・グラッシ氏もチーフアドバイザーに就任しました。

トヨタを含む世界有数の企業とも手を組みアドバイスをもらっています。
デンソーなどのAIへの先駆的な投資と開発もこの車両で活かされることになるということです。

 

ケベック州が描く次世代EV交通エコシステムとEVバッテリー・サプライチェーン戦略

Presenter:
パネリスト:
Propulsion Québec(ケベック州のEV・スマート交通クラスター) サラ・ウッド
ケベック州投資公社(IQI)経営委員会戦略顧問 マギル大学教授 カリム・ザギブ
ケベック州投資公社(IQI)会長 ヒューベール・ボルデュック
モデレーター:
ケベック州政府在日事務所 代表 ダヴィッド・ブルロット

ケベック州は北米、そして世界の中でも、明日の電池製造サプライチェーンを担うユニークな立場にあります。
鉱物資源の豊富な天然資源と100%再生可能で安価な水力発電に恵まれているからです。

まずは、ケベック州投資公社(IQI)会長 ヒューベール・ボルデュック氏から、ケベック州政府と経済開発パートナーの4つの電池戦略についてのお話がありました。

再生可能エネルギーの生産能力ケベック州は45000mwの再生可能な水力発電を誇っている。
安価な値段で生産できる能力は推進力の1つとなる。
豊富な資源リチウムやコバルトニッケルマンガンなどのレアメタルの多くに恵まれている。
活発な水力発電事業戦略のカギとなる研究開発や、多くの知的財産を保有している。
優秀な研究者達も集まっている。
好条件な立地カナダと米国両方の主要なOEM企業からわずか1000kmの距離に位置している。

次にサラ・ウッド氏からケベック州のエコシステム、そしてこの戦略に参加しているプレイヤーについての説明がありました。

ケベック州には、そもそも天然資源関連で様々なアセット、人材、R&D特許があります。
そこで政府は EVスマート輸送のクラスターをケベック州に構築すると決定しました。

スマート交通・EV業界を発展させる大きな可能性を見込み、公共投資によりPropulsion Québecという組織が立ち上げられました。
Propulsion Québecのミッションは、車両、ICE車両の生産に使った従来のエコシステムの転換を支援し次のレベルに成長させることです。

2017年に組織が立ち上げられて以降、充電インフラに関わるケベック州全土の企業220社以上がメンバーとなっています。
現在ケベック州は北米第2の充電ネットワークを有しています。


ケベック州では美しい自然と電源インフラが共存している

ケベック州では車は製造していませんが 、将来のモビリティに寄与するであろうそれ以外の車両を製造しています。
個人の移動、電気スクーター、電気トラック、特別車両やRVなどです。
長期的に天然資源や、新しい輸送システムに投資してきたことで、成果が現れ始めていると言えます。

この先EVやスマートカーで国際的に大きな役割を担える力がケベック州にはあります。

最後にケベック州投資公社(IQI)経営委員会戦略顧問 マギル大学教授 カリム・ザギブ博士から、鉱物や採掘からシェル製造に関わるケベック州での課題についてお話がありました。

1つ目の課題は、コストです。

第一条件として、リチウムイオン電池1パックを$100CAD KW/時に抑えなければなりません。素材の設計と製造のプロセスを低コストにする必要があります。
その為のイノベーションと研究開発が行われる研究開発拠点を増やしていくことが解決のカギとなりそうです。
現在、Hydro-Québecや連邦のクラスター、そしてマギル大学やモントリオール大学が中心となり開発拠点のネットワークを強固なものとしています。

2つ目の課題は、性能です。

この場合の性能とは範囲とサイクルライフです。
EV大量生産用のLFP電池は15,000サイクルが必要です。高級車やトラック、トレイラーなどの他のセグメントでは10,000サイクルです。
性能を求める中では、安全な素材が必要となります。その点において、ケベック州には25年間、必要となる素材を研究センターにて安全に提供してきた実績があります。

また環境への配慮もカギです。
ケベック州では、素材のトレーサビリティとCO2排出量も把握しています。
これは、高性能な水力発電施設のおかげです。

ケベック州では安価でいて、安全に製造が行えます。
その裏にはHydro-Québeやパートナーたちが開発した最高で最大の特許郡による設計があります。
そのおかげで、環境に優しいプロセスができるのです。廃棄物が海や川に流されることはありません。

イノベーションや研究開発からこうした仕組みが出来上がり、リチウムイオン電池の製造のみならず、さらなる新技術に活用されています。

テスラのEV電池開発を支えてきたカナダの研究開発

Presenter:
登壇者: ジェフ・ダーン
ノバスコシア州ダルハウジー大学教授

ダルハウジー大学の物理学部にあるジェフ・ダーン氏の研究室は、2026年までテスラとパートナーシップを組んでいます。
主にこの研究室では、リチウムイオン電池の長寿命化、エネルギー密度の向上、コスト削減を研究しています。
また、全固体電池などリチウムイオン超える技術も対象にしています。

ジェフ・ダーン氏は、バンクーバーのMoli Energyにて勤務後、3Mから支援を受けながらダルハウジー大学で20年間電池素材開発の研究をしています。そして、2016年にテスラとの共同研究を開始しました。
テスラと2026年までの研究パートナーシップを組んでいるのは世界でこの研究所だけです。

テスラと自然科学工学研究会議からは、2026年までの研究室運営費をカバーできる610万ドルの助成金が支給されました。

テスラとのパートナーシップは、最近さらに強化され、2021年1月にHerzberg-Dahnの部門長であるマイケル・メツガー氏とテスラ・カナダの部門長であるチョンギン・ヤン氏が物理学部に加わりました。

dalhousie_university_tesla

その他にも、ダルハウジー大学では最先端電池の研究開発が盛んです。

 

機械工学部 ルーカス・スワン教授:

再生可能エネルギー貯蔵研究室を担当しグリッドの結合とバッテリー管理が専門。 電気自動車のバッテリーの2次利用にも着目している。

その他にも風力発電のオーナー兼事業者で電気自動車の組み立ても行う。

これまで3台の電気自動車を0から組み立てグリッドと電池の結合や EV の組み立て方法を熟知。

化学学部 マーク・オブロバック教授:

バッテリー材料特に低価格な手法に取り組み、リチウムイオンを超える科学の低コスト化を進める。

3Mで電池素材を研究し 研究室規模から月間数トン規模まで複数のプロジェクトに参画してきた。

またノバスコシア州には最先端電池企業が数社あります。

  1. Salient Energy
    グリッド向けエネルギー貯蔵用の充電型二酸化亜鉛マンガン水性電池を開発。
    3年前に創業し、従業員は20名。直近では実験的な生産を行う施設を拡張。
  2. Novoni
    世界で最も高精度な電池試験機を製造し世界各地の大手電池メーカーや研究所で採用されている。
    同社の試験機のおかげで数年掛かっていたセルの寿命と性能をわずか数週間で正確に予測することが可能に。この試験機は12カ国で導入されApple、Microsoft、テスラ、パナソニックなどでも使用されている
    ジェフ・ダーン氏は2021年7月からNovonixの最高科学アドバイザーに就任しています。
    現在は、正負電極の新材料開発にも積極的に取り組みせるの長寿命化を目指しています。

また、大学や政府系研究所、企業での最先端電池の研究開発はノバスコシア州だけでなく、カナダ全土で行われています。
ここでは州毎に一部を紹介します。

ケベック州
  • カリム・ザギブ氏(マギル大学)大規模なリチウムイオン電池R&D施設
  • ミカエル・ドーレ氏(モントリオール大学)リチウム電池用正負極材料の研究
  • ジョンソン・マッセイ氏(モントリオール大学)リン酸鉄リチウムイオンとリチウムイオン電池の使用ライセンスを世界中で提供
オンタリオ州
  • サンカー・ダス・グプタ氏(Electrovaya)35年以上の歴史があるリチウムイオン電池メーカー
  • ディーン・マクニール氏(カナダ国立研究評議会(NRC)リチウムイオン電池のモジュールとEVパックの安全性評価の研究
  • リンダ・ナザール氏(ウォータールー大学)Materials Research Societyからメダルを授与。全固体電池な様々な分野に取り組む。
サスカチュワン州
  • ジガン・ザウ氏、トビー・ボンド氏(Canadian Light Source)リチウムイオンセルをX線CT研究で活用
アルバータ州
  • ヴェンカタラマン・タンガヅラリ氏(Electrovaya)固体電解質の専門家
  • マイク・フレイシュアウザー氏(アルバータ大学)高温充電式電池の専門家
ブリティッシュコロンビア州
  • E-One Moil Energy Canada)1978年の創業の世界初の充電式リチウム電池メーカーであるMoil Energy社が母体 70、80名の研究者が最先端リチウムイオンセルを研究
  • デイビット・ウィルキンソン氏(ブリティッシュコロンビア大学)高温充電式電池の専門家

まとめ

今回はEV市場におけるカナダ各州の戦略をご紹介しました。
改めて、豊富な資源や自動車製造のエコシステムなどカナダ各州の優位性について理解を深めることができる場となったかと思います。
日本からの投資など含め、今後もカナダと日本の積極的な交流がこのEV市場では続けられそうです。

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