Touch-Baseの7人目のインタビュウィーは、世界規模で有名なクリエイティブエージェンシーRazorfishでCreative Directorをやっていた経歴のあるColinさんです。今回は日本のブランディングについて話を伺ってみました。

Profile:
Colin Johnson
ブランディング・デザインエージェンシーOmencraftのファウンダー。
デザイナーとして20年以上の経歴を持ち、Fortune 500カンパニーのデザインを担当し、The IAB standard rich media ad unitsの制作歴もあり。直近の6年間はRazorfishでCreative DirectorとしてSamsung, Microsoft, Adobe, Intelなど重要なアカウントの担当を行った。

野村:
ブランディングの話に移る前に、日本でビジネスを始めた経緯を伺いたいと思います。

以前、バンクーバーにあるマーケティングツールの会社のコーファウンダーと話をする機会があり、日本進出の壁について話をした事があります。

彼は世界で3番目に広告出稿額が多い日本への進出を検討しましたが、日本への進出は言語・文化の問題、かつ多くの企業が失敗した点から難しいイメージがあるという理由で断念せざるを得なかったという話を聞いた事があります。結局その会社は先にヨーロッパを攻めることを決めたそうです。

それを踏まえて、日本進出を検討するに当たりたくさんの壁があったのではないかと思います。日本行きを決断した理由についてお伺いできればと思います。

Colin:
アメリカで名のあるエージェンシーが東京でオフィスを開き、アメリカでのやり方を変えられずに失敗したという話はたびたび耳にすることがあり、簡単ではないというのは承知しています。

日本に来る事を決めた理由は単純です。子どもの時から日本の文化、アート、クラフト、美学に感銘を受けていました。7人の侍や座頭市など昔の日本の映画がとても好きでした。

初めて東京にきたときに、すぐに街が好きになり、忘れられなくなりました。その時ここで暮らすべきだと直感しました。

およそ2年前、休暇を取って東京で3ヶ月間日本語の勉強のために滞在しました。その後、新しい人生をスタートできると確信し、22年間のサンフランシスコでのデザイナーとしてのキャリアを捨てて東京に移動し、自身のブランドデザインの会社Omencraftを始めました。

このブランディング会社を通して、アメリカと日本のブランドを繋ぐ役割ができればと考えています。

日本とブランディング

野村:
ブランディングと日本の会社についての話になりますが

一般的に、日本の会社は全体的なストラテジーの部分より、直接売上や効果が見えやすいタクティカルなものを優先する傾向にあると思います。ブランディングは長期的なストラテジーに当たる部分で、ブランディングのエージェンシーをやる上で大きな障壁になると思いますがいかがでしょうか?

Colin:
実はそれが日本でビジネスをやる上での一番の懸念事項です。

あまり多くの会社がブランディングの価値を理解しているといえず、ブランディングにお金をかけるべきと考えていません。

アメリカでは真逆の考えを持っており、ブランディングをとても重要視します。

もちろん、日本にも素晴らしいブランドはたくさん存在しているのも知っていますし、日本のブランディングが悪いと言いたいわけでもありません。

ただ、洗練されていないデザインを見るたびに、日本の素晴らしいプロダクトやサービスに見合ったデザインやブランドのプレゼンスを持つべきだと、いちアメリカ人として思ってしまいます。

全てのブランドの要素は考え尽くされてなければならない

Colin:
以前、日本のデザイナーのブランドデザインワークを見る機会がありました。

その提案の中で、特に理由も無く50個のロゴのカラーバリエーションを提示しているのを見ました。そのバリエーションの多さを見て、そのロゴ作成の裏に深い考えや思いがあったわけではなく、ただ単に見た目の良さそうなものをデザインしたように感じました。

野村:
表面的ということでしょうか?特にそのデザインに行き着いたストラテジーや意味があったわけではないと

Colin:
その通りです。ブランドのロゴ一つとっても、一つ一つの要素になぜそれがないといけないかが考え抜かれていないといけません。

デザインの裏側に意図がないと、それを見ても特に何も感じません。
ブランドのロゴやネーミングは我々が何者かを表すもので、それにしっかりとした意味や信念がなければ、そのブランドは長く続かない・・・というのが私の考えです。

たとえばAppleの例でいうと、Appleが売っているのはMacでもなければIphoneでもなく、”Apple”というブランドそのもので、Appleが行っている全ての活動はAppleというブランドを支えています。

MacやIphoneのようなプロダクトは定期的に変わり続けますが、ブランドは恒久的です。
例えば、Appleが新商品を出した、新しい取り込みを始めたとなれば注目されます。それはAppleというブランドがあるからこそで、そのためAppleのプロダクトは愛され、購買されるのです。

もちろん、ロゴやネーミングの話だけではなく、ブランドとは会社がどのように自社をプレゼンテーションするかということでもあります。

全てのブランド活動は、考え抜かれていなければなりません。それは単なるロゴの見た目がどうとかだけではなくて、例えばサポートデスクの人の対応の仕方まで含まれます。

私の好きなクウォートで「ブランドを築き上げるのは数年かかるが、ほんの一瞬でそのブランドを破壊することができる」というものがあり、例えば社員の誰か一人がバカな写真をTwitterでアップすれば、それがそのブランドを終わらせてしまうこともあります。

野村:
ブランドがあるべき姿で運用されるようにするためには、どうすればいいのでしょうか?

Colin:
簡単ではありません。全てのアプリケーションを考え抜く必要があります。

私はデザイナーとして、ブランドアイデンティティ、ロゴ、そしてネーミングを確定したあと、クライアントが正しい方法でブランドを運用できるようにスタイルガイドを作成します。

そのスタイルガイドでは、どのようにブランドの要素が取り扱いされるべきかが細かく記載されています。デザインスキルが無い人がブランド要素を壊してしまうのは簡単で、それを防ぐ目的があります。

例えば特別な生地を使ったハンドメイドのスーツを着ていても、穴の空いた汚い靴下をはいてしまうと、そのスタイルは完璧ではなく、間違ったメッセージを送ってしまう事にもなりかねません。

ブランドのコアのみになるまで磨き続ける

Colin:
ブランドのロゴとは、コンセプトや個人、団体を象徴するシンボルです。
正直、何にでもロゴになり得ますし、それが何であれ見る人によって反応が違うとても主観的なものです。

しかし、私たちの心に刺さるのはブランドのコアの部分まで突き詰められ、核心をついたものである・・・というのが私の考えです。それはとてもシンプルな形で、2-3分程度で描くことができます。
もちろん、そのシンプルなものを作る過程でとてつもなく長い時間がかかります。

そのブランドのビジネスを理解することはもちろん、そのターゲット層、ひいてはそのブランドを担う人々を理解し、どのような形でそれを表現するべきかということを考え抜かなければいけないためです。

ロゴがとても核心をついたシンプルでピュアなものであれば、長年変える必要のないシンボルになります。

私の好きな日本のブランドロゴの1つ、東京メトロはとてもシンプルです。それでいてアイコニック(象徴的)かつコンセプチュアルでもあります。


Image: Tokyo Metro

他の例でいうと、東京の港区のロゴが頭に浮かびます。

Image: Minato-Ku, Tokyo Backyard

不要な物を全て削ぎ落とし、ピュアで美しいロゴだと思います。港区を代表するのにふさわしい、クリーンで考え抜かれているデザインだと思います。

三菱のロゴも私のお気に入りです。これは世界に誇れる美しいロゴなので、将来、三菱がこのロゴを変えないことを願います。

Image: Mitsubishi, Logonic

野村:
どの程度までロゴをシンプルにすべきでしょうか?

Colin:
そのロゴを自分で見ずにかけるか?というのは一つの指標になるかと思います。
おそらくAppleや三菱のロゴを見ずに書いたとしても、限りなくオリジナルに近いものになるかと思います。もしあなたのロゴが見ずに書けない、もしくはそのロゴの基本のコンセプトの部分すら書けないとなると、そのロゴはまだまだ改善の余地があると思います。

グローバルマーケットの事を考える

Colin:
最後に伝えたいのは、グローバルマーケットの事を考える、です。

去年ファミリーマートとユニー(サークルK)が合併した際に発表したロゴとネーミングについて、そのロゴが発表された瞬間にアメリカのデザインコミュニティはそのロゴを見て笑い始めました

その理由は、ロゴが大きなFとUという文字で構成されていたからです。

Image: Wikipedia

注釈: FUというのはよくF*ck You!の略語として使われる表現です。

野村:
おぉぉ・・。

Colin:
これは日本の外のことを全く考えずにやってしまったミスですね。
ビジネスロケーションは日本の中だけかもしれませんが、この会社の規模を考えると、グローバルのことに少し目を向けた方が良かったのではと思います。

野村:
騒動があった2020年のオリンピックのロゴのように、撤回して作り直してもらえればと思います。

Colin:
他にも、1990年代にPanasonicが作ったタッチスクリーンのPCが近い例として挙げられます。Iphoneが生まれる前からタッチスクリーンに目を向けて、それを開発したことは素晴らしいのですが、問題はその名前です。

Panasonicはアメリカで人気のカートゥーンキャラクターWoody Woodpeckerの名前にちなんで”The Woody”という名前にし、”Touch Woody – the internet pecker”というスローガンとともに広告しました。

アメリカでは”woody”も”pecker”も固い男性器をさすスラングです。もちろんThe Woodyの売れ行きは思わしくありませんでした。

野村:
こうやって後から聞くと笑えますが、やってしまうと致命的なミスですね。

ボトムライン

今回はブランディングの話を伺いました。北米に来てからブランディングに関する話題を良く耳にするので個人的にとても勉強になりました。

今の僕の勤め先のマーケティングエージェンシーにもブランディングの相談は良くきます。意外とこれからビジネスを始めるスタートアップやスモールビジネスの方からの相談が多く、本記事でいうブランディングへの意識の高さはカナダでも似たような傾向にあるのかなと思います。

正直、2-3年前までくらいはブランディングなんて耳障りのいいカタカナ英語だろうくらいで思っていて、ほとんど意識したことはありませんでしたが、今ではブランディングの重要性を理解できます。

インターネットを通してブランドに関する情報を簡単にアクセスできる(できてしまう)今の時代だからこそ、いちブランドとして何を提供し、何を成し遂げたいのかを明確にし、それをどのような形で顧客にしっかり伝えていくかをしっかり考えていくべきですね。